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IT中毒から抜け出して、自分の足元を見る

ITで劇的な業務改善がされた話も聞くが、全く改善にならなかったという話の方が多い。ITはある意味では敷居が低く、誰でも手を出せるようになったので、特別新しいビジネスモデルでもない限りITの部分の能力差は出にくくなり、成果はそれぞれの仕事のやり方の工夫次第になってしまうからだ。つまり工夫の積み重ねのないところではITの効果は出ないのである。

導入時点では、ITが即効果をあらわす環境は、業務がマニュアル化されているところだろう。しかしその先はITでパフォーマンスが上げるように発想して業務の再定義をしなければならないので、やはり工夫の積み重ねの話になる。ITの技術変化が激しいのでついていけないという裏には、そうそう工夫を重ねられないという点で落伍する会社が多いとも思える。本業の工夫の積み重ねに同期を取るような形でITに取り組まなければならない。

ITは変化の加速要因であり、ITの仕掛けによるビジネスは競争が激しくなる。ビジネスの変化の結果が、また新たなIT技術を要求するような、いたちごっこをしている。この中をかいくぐるには、何しろ成果を出すことである。成果が見えないと、何のためのITか、目的を見失いがちで、そのまま投資や変化を続けることは重荷となり、会社は疲弊してしまう。

だからIT投資で効果が出にくくなったら、そのやり方に疑問をもって再検討することも必要である。ITとは少し距離を置いて落ち着いて、本来ビジネスの足元を固めになって、本来業務での利益に結びつくように軌道修正しなければならない。ITに自分をあわせるのではなく、自分のロードマップにITを取り込むのが理想である。

ITは確かに中間工程を省いて合理化を進める。しかしITで効果が出たといっても、その分はITに対する再投資にまわっておしまいということも多い。これは我々が努力した分はIT業者に吸い上げられるだけで、それによってIT産業が大きくなるというIT業界の計略のように見えるかもしれないが、このようなIT中毒症候群ともいえる状態はまだ10年くらいは続くとみられる。

■出典:通信&メディア研究会 会報「VEHICLE」168号(巻頭言)

2003/04/16 00:00:00


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