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印刷に関する標準化の意義と方向

去る2月20日に、社団法人日本印刷学会主催2003年冬季セミナーが開催され6つの講演が行われた。以下は、その内容を抜粋、要約を紹介する。

標準化の目的はデジタルネットワーク化への対応

印刷物生産技術は、製版印刷関係の各種設備がデジタル化あるいはコンピュータコントロール化され、これからはそれらを通信ネットワークで繋いで格段にスピーディーで効率的な印刷物作りを目指す段階に入った。それは、デジタルデータが通信ネットワークを通じて途切れることなく生産設備間を縦横に流れて、必要なデジタルデータが与えられれば、人間の恣意的な判断がなくても各設備が最適な条件で物の生産ができるようにすることである。そうでなければデジタルネットワーク化によって得られる効果は投資に見合わないものになる。そのために必要となるのが標準化である。

印刷工程において従来の「校了紙に色調を合わせる」というやり方は、先に述べた印刷段階で「人間の恣意的な判断をして調整をする」ということであり、その調整がいくらリモートコントロールでできたとしてもデジタルデータの流れが途切れて効率を落すとともに、品質に関する不安定要素を削除できない。この問題は、プリンタやDDCPあるいは校正刷りも本機での印刷も「基準となる目標色に色調を合わせる」ような仕組みが実現できれば解消することになるが、そのためには「基準となる目標色」を設定する必要がある。これが色に関する標準化の内容である。もう一つの標準化は、「基準となる目標色」が安定して再現できるようにするための設備各部の条件設定に関する標準化、あるいは作業の標準化である。

ふたつのターゲットの意味

現在、基準となる目標色となり得るものとして、ISO130国内委員会と日本印刷学会が協力して制作した色標準見本「JAPAN COLOR 色再現印刷2001」と社団法人日本雑誌広告協会と社団法人日本雑誌協会が策定した「雑誌広告基準カラー」がある。前者はインキ、紙、ベタ色、ハーフトーン色およびそれらの色見本、色彩値などの標準値を含む日本における印刷の色に関する標準を示し、後者は雑誌広告の色見本となるDDCPやプリンタを管理するためのターゲットを、管理されたDDCPにより示すものでその対象やアプローチが異なる。しかし、いずれもオープンな色基準であり得意先の了解が得られれば協力会社との生産連携をする場合などの基準となりえる。

結局は、生産性の高い方式が主流になる

しかし、少なくとも日本の商習慣においては、一つの得意先や品目により色基準を一元化することは可能であっても、要求品質や好みの異なる得意先や品目に共通の色基準を作るのはなかなか難しい。 印刷品質に関する問題は古くて新しい問題である。基本は、品質、価格、納期のバランスに関する個別判断となるが、過去における新しい技術の登場とその後の変化を見ていくと、品質欠陥が出るような場合は論外として、結局は生産性により優れた技術、生産方式が技術改良も熱心に行われて主流になることは明白である。

インキキープリセットを最大限に生かすポイント

既にインキキープリセット機能は一般的になっているが、その機能を最大限有効に活用するためには用紙やインキが異なる場合それぞれに対する適切なインキキー開度の設定が重要である。それは、現在の印刷システムが一時代前の印刷システムに比べて各部分の精度が格段に上がってきたからである。例えば、刷版絵柄面積率計で画像面積を測ってそのデータに基いてインキキー調整をしていたときにはその計測精度の問題があり、その時点では印刷機の色再現性の不安定さが先の設定による変動よりも大きく、用紙やインキが異なる場合のインキキー開度設定の精度を良くしてもその効果が得られなかった。しかし、CTP、CIP3の普及、あるいは印刷機の色調安定性能向上によって、この精度を上げればオペレータによる色調整はほとんど不要になってきた。

同様の理由で、工場内の温湿度管理をはじめ呼び出しローラーや着けローラー等のインキローラー群のセッティング、胴仕立て、湿し水機構等を中心とする機械各部の日常的なメンテナンスや設定の良否が、従来以上に直接的に印刷物品質を左右するようになってきた。

今後とも目が離せない環境問題関連の動き

環境関係では、印刷機使用段階における環境負荷の評価を、例えば連続運転時の1通当たり消費電力(=総消費電力/1時間÷(生産速度×色数×歩留まり率)や1通当たり消費資材(=総消費資材/1時間÷(生産速度×色数×歩留まり率)といった指標で行うようにしてはどうかという興味深い提案がなされた。このような環境問題を視点とした指標は、上記の印刷機だけに限らず、従来の生産性の視点から見た指標を含む総合的なものとなり得る、という点に注目すべきである。

印刷インキ、用紙に関しては、今後、石油系溶剤だけではなく他の特定化学物質に対する規制強化の可能性など今後とも目が離せないとの指摘と、ハイブリッドインキに関する用紙リサイクル上の問題指摘がなされた。かなり前から環境マネージメントを積極的に押し進めてきた丸山印刷株式会社の事例が紹介されたが、本気で取り組めばここまでできるという実例を示した点で大変有意義なものであった。

(JAGAT info 2003年4月号より)

2003/04/15 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会