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DTPの品質や効率を上げる努力が必要

組版には禁則処理などの組版ルールがあるが、それさえ知っていればきれいな組版ができるだろうか? 画像もPhotoshopの使い方を知っていればきれいな紙面ができるだろうか? 通常の印刷物制作の仕事はいろいろな人の分業及び共同作業で行っているので、ひとりひとりは自分の専門パート以外のノウハウは意外に疎いことがある。DTPを一人でやってみると、よい紙面を作るというのは、知識の習得だけでも、また作業方法の習得だけでもできない要素があることがわかる。

DTPによって制作の技術的な敷居は随分と低くなったものの、DTPを覚えた人が一番壁にあたるのはデザインであり、文字サイズ・行長・行送りなどの組版設定、配色、そしてレイアウトの3つは、ある程度は体で当たりながら会得するしかない。どこかで見つけたカッコいい印刷物の真似をしようとしても、ちょっと自分流にモディファイするだけで、元の紙面の印象から程遠い結果になってしまうことがある。それほど、頭に描いた紙面の印象をDTPの紙面設計に落とし込むことは難しい。

レイアウトそのものはもちろん、画像をトリミングして配置することも、文字ブロックにある雰囲気を持たせることも、これらに共通するのが空間の問題であり、紙面という2次元の空間の中で、それぞれの空間と、その相互のバランスを支配する点に難しいさがある。DTPエキスパート認証試験の課題制作では、作品と共に制作のガイドを書いて提出してもらっているが、課題で落ちる人の傾向として、見出しや小組、表罫、キャプションなどの「パーツ」の仕様ばかり詳細に書き連ねているものの、空間の設計に腐心した痕跡が見られないものが多い。

課題制作の狙いは、後の人が似た仕事を、より効率よくできるための段取りを考えることにあり、そこではレイアウトをどのように継承させるかが大きなポイントになっている。つまりDTPの人はデザイナに比べて、レイアウトという作業のクリエイティブ性とか紙面品質、またレイアウトと仕事の効率などをあまり理解していないのが弱点である。逆にいえば紙面制作の高度化や効率化のためには、レイアウトのクリエイティビティを追求し、そこに商品価値を発揮させるという指向が必要になる。

DTPを支援する「デジタルデザイナー」

初心者のためのレイアウトのサンプル本などは以前からよくあるのだが、印刷されたサンプルを自分でDTPの設定に翻訳することが大きな障害になっている人も多く、結局自分の手でそこそこのレイアウトの模倣から出発することすらできないのが今までの姿であった。PAGE2003では(株)オゼットクリエイティブが「デジタルデザイナー」という、レイアウトデザインの手がかりになるようなツールを出した。これはデザイナーが作ったサンプルを直接いじって自分の仕事として使えるものであり、レイアウトへの挑戦用としてはいいかもしれない。

もともとの開発主旨は、レイアウト・フォーマットをデータベース化することで,デザイン経験が少ない人でもそこそこの紙面を短時間に作成するツールであろう。これのニーズとしては、次のような想定がされているようだ
 ・やむを得ず外注に発注していた広告の仕事を,社内で挑戦してみたい
 ・複数のデザインから最良のものを選び発想力を高めたい
 ・即座の提案で新たな営業を展開し,顧客ニーズに的確に応えたい
 デジタルデザイナーは著作権フリーとなっており,データについてはイラストレータで作成されている。

これはさまざまなサンプルが提供されるということ以外に、これを使い込んで慣れてくるに従い,従来の作業時間を2分の1から3分の1以下へと削減でき,作業効率が向上することと、そのように今後自分達のオリジナルレイアウトも管理して再利用していけばいいことを示してくれる。こういうことを積み重ねていけば、デザインの効率化ができる。

提供されるのは現役のデザイナーが作り上げた約1万点のレイアウトデザインであり、それら分野ごとに収録された中から,好みのデザインを選択し,呼び出した基本レイアウトに指定の写真や文字,イラストを挿入することにより,紙面が容易にできる。文字組版や体裁,レイアウトを追加しつつ,元のデザインのレベルと自分のレベルの差を検証し、学んでいくことができるだろう。

レイアウトのクリエイティビティの商品化という面白いものであり、その開発主旨や今後の発展形も興味が持たれる。2003年5月23日(金)の「DTP時代のレイアウト方法論」ではこの「デジタルデザイナー」について媒体,目的別デザインレイアウトの分析や開発の経緯などもとり上げる予定である。

関連セミナー:DTP時代のレイアウト方法論

2003/05/14 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会