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多様化する需要にこたえる確かな技術

特殊印刷は,ポスター・ステッカー,プレミア・ギフト商品などの販促物から,高度な偽造防止製品まで,数多く実用化されている。
そこで今回は,特殊印刷で高い評価を受けているカガク印刷の専務取締役村松勝利氏と工場長加登川彰氏に,高付加価値製品を生み出す技術と今後の展開について伺った。

未来志向型の事業展開で,新技術にチャレンジ
カガク印刷(千葉県市川市)は,現会長の板橋義陽氏が,1964年に創業した特殊印刷に特化した会社である。当初は漢字の「化学印刷」であったことからも分かるように技術開発に注力する企業である。ラベル・ステッカーなどの粘着からスタートして,時代の流れや顧客の要望を取り入れ,新技術,新商品の開発を行っていた。創業以来常に未来志向型の事業展開を目指しており,普通の会社ではやっていないことを推進していく姿勢を貫いている。粘着材,表面処理技術,特殊紙についての知識に加え,ホログラム製品,マイクロカプセルの製造・印刷など用途開発に積極的に取り組んでいる。
そのために早い時期から海外企業との技術提携も行っており,日本のマーケットにない技術にチャレンジしていった。またシンガポールとタイにグループ会社を設立し,技術面でもマーケットにおいてもグローバルな展開をしている。

自社設備で生み出す多彩な製品
特殊印刷による多彩な製品を同社は,すべて自社内の設備で生産し,特許や実用新案なども数多く取得している。以下はその代表的なものである。
●ホログラム製品
カードや金券の偽装防止にホログラムを役立てたことで需要が増えていった。最近では,雑誌・カタログ類の表紙にホログラムを使用する例も増えている。その他包装資材やパッケージ,POPなど広範な用途に使用でき,発想次第でいくらでも応用領域が広がっていく。
「マイクロ・エッチング加工したエンボス用ホログラム」製品の種類は,(1)ラベル・ステッカー用フィルム(裏面粘着加工付き),(2)ホロミックカード紙(エンボス・ホログラム・フィルム付きカード紙),(3)ホロミックペーパー(アルミ蒸着紙にエンボスホログラム加工をしてあるもの),(4)ラミネート用透明ホログラムがある。
また,「2D/3Dレーザ・エンボス・ホログラム」は,平面映像の2Dと立体映像の3Dの複合画像が自然光で再現され,キラキラ光る表現と立体的な深みが得られ,オリジナリティあふれる製品を作っている。画像はCADを使ったコンピュータグラフィクスでも可能である。
●マイクロ・カプセル製品
マイクロ・カプセルはアメリカで開発された10〜200μという微小カプセルである。代表的商品としては,「液晶」をはじめ「香料インキ(マイクロ・セント)」が一般に用いられている。
「液晶」は,液晶素材をマイクロ・カプセルに封入して,特殊バインダーで結合したものである。温度の変化を敏感にとらえ,温度帯で色彩が変化する。設定された温度帯内で,温度の上昇につれて赤・黄・緑・青・紫と色が変わり,さらに設定温度を超えると色は消える。逆に温度が下がると紫から赤まで逆順に変化して消える。色を表示する温度帯は,用途に応じて温度幅の広さや狭さ,また温度の高低など,指定の種類を調整することができる。設定温度は−20℃から+70℃まで設定できる。人間の心理状態によって血行と体温が変化することを利用した体温チェック,ストレスチェックなどヘルスチェックカードが有名で,ノベルティグッズに多く適用されている。
設定温度により変色する「示温インキ」の特性を応用したものは,食品関係で数多くあり,「食べごろサイン・飲みごろサイン」などに利用されている。同社では,その応用で,フランスの園芸業者と提携して,シクラメン用の適正温度環境を表示するタグ・ラベル「シクラメンごきげん温度計」を開発,商品化した。設定温度になると印刷面が浮き出てくる技術を利用し,シクラメンにとって大切な適正温度を示温インキの色の変化で知らせる。シクラメンの適温が一目で分かるとあって,なかなか好評だそうだ。
「香料印刷(マイクロ・セント・プリンティング)」は,マイクロ・カプセルの中に香料を封じ込め,インキに加工し印刷したものである。印刷面を擦ることによってカプセルが割れて香りが漂う。カプセルを破壊しない限り長期保存ができる。現在多く使われているのものは,果物,花,食品,アルコールを含む飲料,化粧品や石けんなどの香りをカプセル化したものである。マイクロ・セントは透明で,デザインや図柄の妨げにはならない。印刷物の上に直接印刷でき,視覚だけでなく嗅覚にも訴求することになる。指定の香りをカプセル化することも可能である。最近では,顧客のほうが香料を持ち込み,この香料に合った商品を考えてくれといった要望も実際にあるらしい。
●レンチキュラー印刷製品
レンチキュラーとはかまぼこ型のプラスチックレンズを絵柄に張り合わせて立体像を見る方法である。凸レンズの焦点が見る角度により移動する原理を応用し,同一面上に絵や写真を変化させたり立体感を表現する。
日本市場では1960年代にタカラのダッコちゃん人形のウインクする目玉が最初だという。その後コンピュータ技術の発達とソフト開発によりレンチキュラーの画像合成の技術はめざましい発展を遂げた。高精細の印刷も可能になり,同社では,最大1200mm×2400mmのものまで作成できる。
●複合印刷製品
ペーパータトゥーやネイルシールなどの「各種転写シール」や,インパクトのある「スクラッチ印刷」などは,販促品や雑誌の付録,とじ込みなどにも適している。

新たな需要の開拓と技術の継承が課題
特殊印刷は,価格面やロット,印刷加工に要する時間の問題などがあり,敬遠されることもある。しかし,一番の問題は認知度の低さであるという。同社に質問したり訪ねて来る印刷会社も多く,まだまだ素材や品質について知られていないし,デザイナーも使いこなせていない。そこで,年に2回ほど展示会にも出展し,実際の製品や見本を使ってプレゼンテーションを行っている。
一般印刷に比べコスト高といっても,費用対効果を考えれば必ずしも高いとはいえない。アイデアや企画次第で,オリジナリティ溢れる商品開発も可能になる。新規の需要をさらに見つけ出していきたいという。
また環境対応として,シール・ステッカーをはく離後のゴミをなくす方法や,再処理がきく製品,環境への負荷が少ないものに取り組んでいる。塩ビに替わる材料も開発中である。
今後は,創業以来培ってきた高い技術力を継承していくことに力を注いでいきたい。技術は日々進歩している。いいものを将来どのように反映させていくか,人材育成が重要な課題となる。

JAGAT info 2003年6月号より

2003/06/15 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会