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三歩先を行き,紙に対する新しい見方を提案

印刷物も紙も資材関連等も一つの商品として扱い,ネット上で販売するサービスが出てきている。コストも変わり,新たな受発注の形態,新たな流通経路として確立していくのかもしれない。
今回は,株式会社盛市洋紙店ネット事業部の田所新一郎部長と松本友マネージャーにお話を伺い,インターネットを利用して,紙の卸商がサービスを提供する事例を紹介する。

ネット販売で商圏を拡大
盛市洋紙店(東京・江東区)は,1950年7月に設立された紙の卸商で,主に商業印刷物用紙,出版本文紙,コピー用紙など紙全般を取り扱っている。顧客は圧倒的に印刷会社が多く,後は出版社,新聞社,板加工業者,一般企業などである。
インターネットを利用して,商圏外の印刷会社,出力センター,制作会社,一般企業も対象に紙の販売を行っている。従来の商習慣を重視しつつも「三歩先を行き,新しいスタイルを生み出し,紙に対する新しい見方を継続して提案していける紙業者となっていきたい」との考えである。
ネット事業部設立のきっかけは,廉価版プリンタの写真画質であった。デジタルカメラのデータをプリントアウトして,写真のようにきれいに出るのに驚いたが,用紙の価格がけっこう高いと思った。それがインクジェットフォト光沢紙であった。
パソコンの普及が進み,デジタルカメラやプリンタも驚くほど安く購入できるようになった。しかし,いくらパソコン機器一式を揃えてもやはり最終的には,プリントアウトする際の紙の品質が問われる。ハードは安くなっても紙やインキなどの消耗材は思ったほど値下がりしない。
同社は紙業者のため,メーカーからの直接販売が可能である。大きな紙でまとめて購入して,自社で断裁し,商品梱包,受注,発送までをすべて行うことにより安値で提供できる。そこに新たなニーズがあると見て,フォト光沢紙を自社で販売することにした。とはいえ通常の営業活動では限界がある,全国に知らしめるにはネット販売を選択するしかないと思いついたそうである。
フォト光沢紙は,デザインの校正やカンプに使われることが多く,写真画質のカラー発色に優れている。印刷会社でも使用されるケースが増えている。例えばA4サイズで20〜30部程度の極小ロットの場合,インクジェットプリンタでカンプ出しをし,本番の紙もインクジェット光沢紙でそのまま納品することもある。
2年前にネット販売のサイトを立ち上げ,インターネット上でのPRを行った。楽天市場に1年間出店して反応を得た。yahooなどの検索エンジンにもなるべく上位にくるよう工夫を施した。その結果,デザインのページに掲載され,パソコン雑誌にニュースとして取り上げられたりとなかなか好評であった。
狙いどおり従来の顧客とは全く別の新しい顧客を獲得できた。当然といえば当然だが,ネットによる受注は,ほとんどが新規の顧客である。またネット販売の場合,意外にリピート率が高い。一度発注して便利だと分かった顧客は,次回の利用も見込める。口コミで広がることもある。
ほかにもインクジェットの大判プロッタ用ロール紙,両面マット紙やレーザプリンタ用紙なども取り揃えている。さらに今年の5月にはカラーレーザプリンタとインクジェット(モノクロ)兼用のレター用紙「MSパールiJ」の発売を開始した。ホワイトパールの色のためモノクロ出力などでも満足できる高級感を演出できる。またインク・トナーのコスト削減にもなる。

Webシステム対応のノウハウや技術支援
ネット事業部の業務のなかで重要なものの一つに顧客サービスがある。もともとは,顧客である印刷会社のホームページ制作の手伝いがとっかかりであった。
一時期ホームページを立ち上げる企業が増えたことがある。しかしなかには,せっかく立ち上げたにもかかわらず更新もされず,単なる会社案内にとどまっているホームページをよく見かける。最終更新日が1年以上も前だったりする。情報発信としてのWebの役割,コミュニケーションツールとしてのホームページ開設が意味をなしていないケースがある。だからといってどの企業でも対応できるかというとそうでもない。それなりのスキルが必要になる。
そんな悩みをもった同社の顧客のため松本氏がサポートしている。担当エリアは江東区から中央区にかけての商圏に集中していて,自転車で回れるところが多い。例えば週に1回くらい得意先の会社を訪問して,パソコンの面倒をみて,Webシステム対応のノウハウや技術支援を行っている。

「ネット印刷.com」をオープン
今年の7月から,同社が中心となって,見積もり,発注,印刷,納品とすべてをWebで完結させる印刷サービス「ネット印刷.com」を開始した(http://www.net-insatsu.com/)。印刷会社,紙店,雑貨屋,デザイン制作などからなる総合印刷サイトである。同社と取引のある複数の会社による印刷物制作の共同ネットである。
「ネット印刷.com」は,異なる印刷会社による小ロットに特化した印刷注文をオープンプライスとし,インターネットで見積もりなしで発注できるオンライン印刷サービスである。商品ごとに得意な会社が振り分けられており,見積もりや問い合わせなども各得意分野の印刷商品サービスを行っている担当会社からのみ回答する。そのため,複数の会社に見積もりを依頼する手間がない。見積もりが必要になる商品の場合は,発注者と受注する会社の間でメールや電話でのやり取りに発展する。紙に関しての質問は同社に質問することもできる。紙の厚みや種類などを直接相談することが可能である。
発注者は特に会員限定のサービスにしていない,誰でも購入できる。受注企業は,印刷可能な商品情報を登録しておく。今のところ名刺やハガキなど定型の印刷物が中心だが,カラークリアファイルやステッカーなどの特殊なものも扱っている。缶パッチやポスター出力なども準備中である。
発注者は各印刷サービスページから希望の印刷商品を選択,データをメールなどで送ることにより印刷注文が自動的に行える。原稿は発注者が作成し,文字はアウトライン化して,仕上りトンボをつけて完全デジタルデータとして入稿してもらう。基本的に校正は出さない。どうしても色校正を取りたいという方には別途校正用の見積もりを出す。校正がない分,出力見本を必ず添付してもらうようにしている。WordやExcel,PowerPointからのデータ変換については,依頼が多く,別途相談するようになっている。
各担当会社が受注し,商品の発送や請求を行う。料金については,発注者と受注企業の間での請求書払いになる。
印刷会社も既存顧客からの発注件数が減ってきている現状がある。「ネット印刷.COM」は,市場を拡大したいと考えている企業の要望に対し,ネットビジネスによって応えるものである。出足は順調で問い合わせも増えてきているそうだ。興味のある方は一度サイトをのぞいてみてはどうだろうか。

JAGAT info 2003年8月号より

2003/08/14 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会