印刷物の制作は目に見えるところを中心に考えていけばよかったが、Webではユーザが画面サイズや文字サイズを決定する権限をもっているので、情報発信側では見栄えの細部までは支配できない。このことは当初htmlの弱点だといわれ、インターネットでもPDFで情報発信することにこだわったところもあった。しかし、それに焦点を合わせたビジネスには限度があった。
WEBの画面では印刷ほどのシビアな空間管理はできないものの、画面の読みやすいデザインはそれなりにされるようになって、PDFは紙媒体のアーカイブや出力寸法精度が必要な応用、またセキュリティ機能の利用などのニッチ分野に限られてしまった。質より量という点では、現時点ではまだ紙面品質より情報量が求められる段階なのである。
それも単純な量ではなく、今日のデジタルメディアの応用は、WEBのhtmlどころか、携帯電話の小さい画面に情報を如何に押し込めるかというような、さらに表示の制約の多い分野に重心を移している。つまりどこでもアクセスしたいという、時に応じた量が求められている。何年かすると画面の解像度が300dpiくらいになって、再び印刷のようなデザインが復権するかもしれないが、今は印刷のような画面を売り物にビジネスモデルを考えるのは難しい。
またWEBにおけるユーザの満足度は、静的な読みやすさよりも、目的の情報にたどり着くまでにストレスがかからない点にある。逆にプッシュフォンの音声応答などは、誰でも使える操作の簡単なインタラクティブ性があるといっても、途中で操作間違いがあって繰り返しをしなければならないとなると気の遠くなるほど、のろまなものであった。また内容の更新という面からも企業のユーザサポートはどんどんWEB化していった。
以上の2点から、WEBにおける情報の更新は時に応じたものでなければならないことと、容易で迅速なアクセスということになる。実際にこの数年間にWEBグラフィックスはブロードバンドコンテンツを除いては大して発展していないが、WEBサイトのバックはデータベース化が進み、単純な構造で更新が頻繁なものが増えている。何千という静的なhtmlページを残してしまったサイトは今のうちに手を打たないとデータベース化したところに対して大変なハンディを負うことになるだろう。
■出典:通信&メディア研究会 会報「VEHICLE」174号(巻頭言)
2003/09/30 00:00:00