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顧客サイドのIT化は,印刷会社をどのように変えるか

顧客サイドのITが進展してくると,従来印刷会社に発注していた部分を内製化してしまうこともある。
2003年7月15日のテキスト&グラフィックス研究会では,ソフトウェアハウスの立場から,そこで遭遇している事例と,今後どのように印刷会社が対応すれば良いかというヒントを,株式会社プラネットコンピュータの代表取締役,深澤秀通氏に伺った。

顧客側で版下データを管理

ある生保会社では,自前で版下データ管理システムを構築し,従来印刷会社が管理していた版下データを自ら管理するようになった。
生保会社の内部に版下管理データベースを置いて,自社のカタログ,帳票を管理する。改訂,新規が有るとデザイン会社にデータと一緒に発注書を送付する。デザイン会社から,出来上がったものが来ると,それを基にして印刷会社に印刷を依頼するという分業制になっている。
印刷物を製作するとき,100部とか1,000部以下の少ない部数の場合,自社内で刷っており,1,000部以上だと印刷会社に発注をして,オークションをかけている。
どこが一番安いか,価格かまたは顧客の納期に合うかどうかというところで,オークションをかけており,印刷費用や印刷在庫を減らす意図が強い。この版下データ管理システムでは,ミスを防止するための履歴管理の機能も持たせている。

顧客サイドから印刷ワークフローの見直し

夕食の食材を宅配するサービスをおこなっている企業では,1カ月単位のメニューをつくって配布しているが,その製作期間は54日かかっていた。メニューを作ってから,その食材が調達できるかどうかを各チェーン店に問い合わせしていた。これではまったく逆で,調達できるからメニューに掲載するというのが,本来の姿である。
この会社では,サプライチェーンマネジメント(SCM)を導入し,業務改革(BPR)をおこなうことになり,それに伴い印刷ワークフローの見直しをおこなうことになった。
今までの印刷ワークフローでは,校正をして色校をして,その後に青焼き校正を2回していた。青焼校正を2回やるときにフォントのチェックをしているという,まったく無駄な作業をおこなっていた。要は印刷会社にとって都合の良いワークフローを作っていたためであった。印刷会社自身は自社のワークフローに合っていると思っているが,顧客から見ると合ってないということで,齟齬があるようだった。

印刷の慣習に対する見直し

別の生保会社の事例では,印刷発注部数や製作期間,価格の見直しがおこなわれている。 以前,弊社ではISO14001の環境マネージメントに関連して,環境への配慮のためにカタログ発注システムをつくったこともある。
他に顧客側でも,インターネット,宅配便を使ったロジスティックス(物流)で新しいビジネスを検討しており,従来のように印刷会社へ発注することを見直しつつある。

印刷業の今後

これら顧客側からの見直しに対して,印刷はどういう方向に向かうのだろうか。
デジタル印刷機または複合機がカバーできる範囲が拡がっており,スキルフリーで操作が簡単になっている。印刷だけでは付加価値を生まない時代に突入してきたと言える。一部の印刷物,雑誌とか大量印刷・製本する物以外は,顧客側の仕事になる可能性もある。

XMLはホームページに展開したり,マルチメディアに展開できると言われているが,その本質はデータにタグを付けてデータを再利用することである。タグはどこで入れるのが一番良いかというと,一番判っている人が入力するのが一番良い。校正とか後でチェックするよりも,発注元の部署で判っている人がタグ付けして,その中で回覧して完璧にできあがったものを,印刷会社に出す。それをデータベース化して,再利用する仕組みの方が,文言のミスが低減される。たとえば,金融機関だとコンプライアンス(法令遵守)面のミスを低減することができる。

顧客が印刷業界に対して望む役割

最初に「製作期間の短縮」があるが,短いから良いと言うわけではない。たとえば,携帯電話を作っている電機メーカーだと,機器をつくるのはトヨタのカンバン方式のようなシステムで,厳密に納期を守って製造されている。それに対して,マニュアル製作は遅れ気味である。マニュアル製作の部隊の方は,結構悩んでいる。どうしても納期前になると徹夜になってしまう。製造とマニュアル製作,印刷物製作のコラボレーションをとれないか,なぜ出来ないかという疑問を持っている。製作期間を短縮したいということもあるが,製造,販売,印刷物製作とのコラボレーションをとりたいという面で,印刷会社のサポートが望まれている。

2番目は「在庫費用の低減」である。発注元の企業は印刷物の製作に対してお金を払うのだが,保管に対しても,事務所を借りたり経費がかかっている。この現状を何とかしたい顧客は多い。
一般に,名刺の印刷は100枚単位であるが,200-300枚が必要な人もいれば,年に30枚で十分な人もいる。在庫を抱えて最終的に廃却するのなら,経費もかかるので,必要部数だけ印刷したほうが良い。印刷会社やデザイナと話をすると,2,000部印刷するのも3,000部刷るのも費用は同じだということをよく言われる。印刷代は同じかもしれないが,保管は1,000部違うと,経費はそれだけ違ってくる。例えば1,000部のかたまりが10種類,20種類あるとすると,保管費は全然違う。そうすると,こういった言い方は,顧客の立場に立ったものではなく,印刷会社の立場でしか考えていないということが判る。
3番目は自社のワークフローに合った印刷物の製作をおこないたい,ということである。これはSCMやCRMを実践している企業では,印刷物も同様の形態で製作したいということがある。自社の製品と,製品のマニュアルとかカタログをコラボレーションをとってつくりたいというのが,顧客側の希望である。

印刷業のあるべき姿

顧客の印刷ワークフローを分析し,無駄がないか提案し,顧客の利益を最大化することが印刷業のあるべき姿である。
2番目としては,装置産業からソリューション産業への転換である。従来の印刷業は装置産業の面が大きかった。顧客から見て,印刷に対する意味合いが変化しており,ソリューション産業への転換が必要である。3番目は,クロスメディアへの展開といった取り組みである。
印刷会社は過渡期にきている。従来の印刷のノウハウだけではなく,システム構築,顧客の持っているシステムとのコラボレーション,自社でそれをモデル化して,新しい印刷ビジネスが生みだす必要がある。
たとえば,顧客サイドの製作から在庫管理まで包含した印刷ワークフローを,印刷会社側で持つということも考えられる。
印刷会社とシステム会社が協業すること,お見合いが必要な時代に来ているのではないかと思う。

(テキスト&グラフィックス研究会)

2003/10/23 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会