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スキルアップを唱えて

上毛印刷(株) 専務取締役 大澤丈太

 
1.きっかけは?
悩みは尽きないもので,会議の度にスキルアップの必要性を説き,講習に行かせ費用を負担していましたが,それがきっかけで受注できたとか,効率が良くなったなどの話は一度もない。講習へ行けばすぐに成果が上がるなどといった,そんなうまい話もまたあるわけもないが,年間100万円単位の費用が掛かっているのも釈然としない。DTPが写植に取って替わりフルデジタル化が完結しようとする社内を見ると,大きなトラブルもなくここまで来たのだから「よし」としなきゃいけないのか?と,自分を納得させていました。
しかし,そんな状況を放置できなくなったのは,昨今のデータ入稿事情でした。

一昔前には印刷の専用コンピュータがあり,これでないと品質の高い組版ができなかったし,クライアントもそれを頼りにして,相互の関係がうまく保たれていましたが,今は両者とも同じパソコンで仕事をしているために,クライアントのほうが数段知識があるということも珍しくない状況が生まれています。PDFやWebなどは当たり前でXMLを含めデータベース知識など,従来型の営業ではとても対応できるものではありません。最悪のパターンは,クライアントに言われたことがさっぱり分からない,などということが起こり得ることです。さらに入稿するデータは何でもありで,Wordあり一太郎ありPowerPointありと雑多で,データ支給だから安くなると思うクライアントもあり,当然現場は混乱し,クライアントは安価な印刷ができると誤解し続ける事態を,会社として放置できなくなりました。
そこで妙案が浮かびました。それがDTPエキスパート資格でした。うまくいけば資格が取れるし,資格取得者がクライアントへ説明をすれば,信ぴょう性も増すかもしれない。また講習費用が資格取得という実績で回収できたような気がするのも,精神衛生上納得できる。少なくともDTPエキスパートの勉強をすることで,DTP全体の知識が深くなることを期待して受験することを決めました。

2. 受験まで
受験者を営業2名・DTP責任者2名と私の5名に早々に決定しました。講師はDTPエキスパート資格(ゴールド資格)をもっているコリンスラボの森恵子さんに無理を承知で引き受けていただきました。3月の受験に向けて昨年12月より週1回2時間講習をもち,そのほかは自主学習という体制で始めました。
講師費用・参考書の支給・模擬および試験費用・交通費すべてなどを会社負担にしました。
営業2名には,不合格の場合は「就職求人誌」の無料支給だ!などと強権(ブラックジョーク)を発動し,DTP責任者は部下からのプレッシャーもあり,全員が真剣にスタートしました。専務の私も不合格の場合は,会社から「就職求人誌」の無料支給だ!と言われていました。
勉強を始めるとDTPエキスパートの受験範囲の広さに圧倒されることになりました。当然5名とも実践を経験しているのですが,自分たちの知識が断片的でまだら模様なものであることを痛感しました。その中で日常の業務が技術的に裏付けられる場面もあり,それなりに楽しく勉強していたのは,私だけだったかもしれません。
具体的には12月から1月末まで教科書を使ってDTP全般を受講,2月からは講師が毎回問題を作ってきてくれるものを1時間で解いて,残り1時間をその解答と解説をしてもらう形で進みました。
2月の模擬試験に5名受験で10万円ナリ! ちょっとまたお金が掛かる! どうする受験するか?と聞くと皆異口同音にお願いします。結局1名は仕事の都合がつかず参加できませんでした。
模擬試験は本試験の雰囲気をつかんでおくことにあると思います。分かっていたこととはいえ問題数の多さに圧倒され,時間配分なんてものは存在しないことを改めて気づかされることや,ほかの受験者の解答スピードに動揺(焦り)するのも予想外でした(ほかの方が電卓を叩く音は気になる)。

結果的には模擬試験も受験対策上有効なものであることを実感することになりました。これ以降模擬試験受験者4名は,それこそ寸暇を惜しんで勉強・勉強・勉強に励みました。教科書の間違えや誤字などを見つけては,校正したの!と不満をぶちまける場面もあり,本番試験に向けて着実に実力を付けていったように思います。
そんな雰囲気を持続して3月の本試験を迎えました。4時間の試験は集中力との勝負になりました。全員疲労困憊(こんぱい)。合格の手ごたえなしが実感でした。
筆記試験が無事に終わるとすぐに課題作成に追われることになるのもお決まりコースでした。3名が旅行パンフ・2名がマニュアルの提出です。営業2名と私はオペレータと相談しながら旅行パンフ課題作成。2名のDTP責任者は自分でマニュアル作成という形で進めました。特に仕様書作りには苦労しましたが,無事期日まで提出完了。
2カ月後,長い発表までの時間が過ぎ,結果は5名受験・4名合格です。
不合格の社員も筆記問題があと3問正解していれば合格でした。再度8月に受験しており,この体験記が掲載されるころにはめでたく合格していると思います。

3. 認証取得後
合格した社員の喜びは達成感と満足感,さらには自信が付いた実感がありました。当然DTP責任者の顔には安堵感がありました。会社としては,例年の合格率から考えると2名が合格,3名不合格の予想が4名合格という結果に満足しています。
まずは,合格者全員の名刺に「JAGAT・DTPエキスパート認証」と入れたのは言うまでもありません。特に営業2名は自信が付いたようで,積極的にDTPの話をクライアントとしているようです。
会社としてはスキルアップの一環として考えていた目標が,ある意味で達成できたと思います。資格取得と広範囲にわたる知識を得ることができ,確実に個人のスキルアップができているはずです。
またクライアントの信頼度(会社の姿勢)が増すことも期待しています。
ただ心配もあります。合格の喜びに浸りたい気持ちは4カ月の勉強と努力を思えば,分かってあげなければいけないと思っていますが,DTPエキスパートに合格することは,この世界で生きていくための登竜門をくぐったに過ぎないのです。そのことを合格者全員が自覚することが大切なことです。これで終わったわけではないのです。

4. 今後の取り組み
会社として大きな目標は,技術変化のスピードに対応できる企業にすることです。
正直に言えば,DTPエキスパート資格取得で,デジタル技術を完全に使いこなせることになるわけではないし,技術変化のスピードについていける保証にもならないのです。
企業は人材の育成が何よりも重要なことです。その手段の一つとしてDTPエキスパート資格を取得することは,はっきりとした目的意識をもてるスキルアップの方法だと思います。

今後もDTPエキスパート試験の受験を継続していく方向で考えています。講師を資格取得者に担当させ,勉強した知識を忘れることのないようにすることも考えています。既に来年3月に2名の受験を決定しています。また,受験させることで単に合格者が増えることだけでなく,勉強の成果として個々の知識と技術レベル格差を解消することができるはずです。
さらに合格者をジャンルごとの専門知識を習得させる計画を立てています。このジャンルごとに専門知識をもった者がチームを作り,新たな案件に取り組む形ができるようになることが次のステップです。
ひたすらスキルアップを唱え,成果の出ない講習に費用をつぎ込んできた過去との決別です。ただこれでデータ入稿がスムーズになるなんてことには,すぐにならないのも現実です。
まずは,DTPエキスパート資格取得を目指すことがスタートです。

 
(JAGAT info 2003年10月号)

 
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2003/10/21 00:00:00


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