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Webサイト上での顧客満足度向上の方向性

Webサイト上で顧客満足度を高めながら,企業としての一貫性を持ったサービス提供をしていく必要性がますます高まっている。そこで基本になるのはユーザビリティである。ユーザビリティとは,Webサイトの使い勝手である。Webサイトのようなユーザー側が能動的主体的に活用するメディアでは,ユーザー側の目的や動機を配慮した作りにしないと,満足度を損ねることになる。
ユーザビリティは次の5項目でチェックする。1.アクセスの意志を妨げないアクセス性。2.サイト全体の明快性。3.ナビゲーションの使いやすさ。4.コンテンツの適正性。5.疑問や問題点を解決できる窓口設置と安心して利用できる環境。このユーザビリティが悪いということは,ユーザーのサイト利用頻度,満足度,商品購入,ブランドイメージを向上させる上で大きな支障となる。
マーケティング戦略と,それに則ったWebシステム構築およびサイトの運営受託を行なっているトライベック・ストラテジーの代表取締役・河野龍太氏を講師に迎え,ユーザビリティを前提とした顧客満足度向上のための具体事例を探った。

主婦向け家電品マーケティングサイト

独自の商品情報の提供を通じて,商品やメーカーへのロイヤリティ形成や顧客満足の向上を目指したサイトに「シュフレー」がある。これは三菱電機による主婦を対象にした家電品マーケティングサイトである。三菱電機は重電機器,生産機器,エレベータなど,一般消費者に販売している商品より,法人の顧客に販売している商品の方が多い。こういった成り立ちは総合電機メーカーに共通した特徴である。東芝や日立も家電事業は消費者の意識の上での存在感は高いかもしれないが,実際の事業的な売上貢献度はあまり高くない。
家電という三菱電機にとって必ずしも強みがあるわけではない事業で成果を上げていくためには,家電品のメインターゲットである主婦と強い関係性を作っていかなければならないという課題が前提として存在していた。
その中で,2001年10月「シュフレー」サイトが立ち上がった。「シュフレー」独自の商品情報を発信することで家電品の販売を促進すると同時に,主婦の三菱電機に対するロイヤリティを向上させるのが主な目的である。
「シュフレー」には,商品を買った人が実際に使い実感した商品の魅力について,率直な生の感想を投稿するコーナーがある。ネットを検索すれば購買者側の商品評価の生情報はあふれている。だからどんなに着飾っていいように見せていても,そこに偽りがあるとあっという間に消費者側から知らされてしまう。ならば,いかにうまくそうした消費者発信情報を自社の情報戦略の中に取り入れていくかという視点が大事なのである。
家電製品を購入した一般消費者が出演する商品紹介ビデオをストリーミングにより,Web上で訴求してもいる。ネット上の素人出演CMという点ではあまり例がない。これがブロードバンド時代に即したWeb上でのマーケティング・コミュニケーションの一つのあり方だと思う。
またここでは,主婦の商品モニターレポートも公開しており,人気コンテンツとなっている。

「シュフレー」の成果

消費者コミュニティサイトを構築したことで,三菱電機は消費者側のスタンスで情報発信する企業というイメージが高まる効果が期待できる。サイト会員である主婦とも絆が高まった。このような関係ができると,ユーザーはさらに意見を言いたくなる。消費者とメーカーとの間にパートナーシップのような感覚が生まれてくる。
メーカーが自社のWebサイトの会員と強力な関係を構築していると,サイト上で会員に対して調査を依頼しても数千サンプルぐらいの回答がすぐに集まってくる。それらを分析して方向性を導き出すとマーケティングの道筋がかなり見えてくる。「シュフレー」の会員は3万人いるので,3万人の主婦とダイレクトに繋がっているのである。これは従来ではありえなかったことである。 この「シュフレー」の成果には2つのポイントがある。第1の大きなポイントは自分たちでコントロールし,かつ低コストで情報発信ができるマーケティング・メディアを確立したことである。従来は消費者と遠かった業界であるが,消費者ニーズを機動的に汲み取れる拠点を持つことになったので,商品開発,プロモーション施策の精度が向上するという効果がある。
第2は,消費者指向のメーカーというブランドイメージを確立するための拠点をもったこと。Webサイトという拠点を持つことで,顧客に発言の場が生まれメーカーとの間に強い絆ができる。

Yahoo! portal solutionsの仕組み

「三井の住まい」は,2003年7月に立ち上がった三井不動産の住宅販売のマーケティングサイトである。もともと物件情報の総合窓口サイトとしてあったものをYahoo! portal solutionsを使ってリニューアルした。
Yahoo! portal solutionsは,My Yahoo!の仕組みと同じで,路線検索,ニュース,エンタテインメントなど,多様なジャンルの機能やコンテンツが無料提供されており,好きなように組み合わせて自分だけのオリジナルのポータルサイトを作れるサービスで,企業内のナレッジポータルを活性化するためにYahoo!が提供するシステムである。

導入の背景

もともと企業内情報ポータルを作るためのアプリケーションであり,それを一般消費者向に使うというのは新しい試みである。
三井不動産はマンションや住宅物件の品質評価は高いのでそれぞれの局地戦では競合に勝つ自信を持っているが,不動産市場の特性として指名買まではいたっていない。しかし広告費はなるべく削減しなければならない。削減しながら指名買いのレベルを上げたいという矛盾をうまく克服することが模索された。そこでWebサイトをいかに活用するかということにスポットが当てられた。
サイト来訪者数とリピート率を向上させ,三井の物件へのロイヤリティ向上を目指すという狙いから,三井不動産のマンション・住宅事業を効率的に支援する新しい仕組みとしてYahoo! portal solutionsを導入することになったのである。「自分だけの三井物件検討ポータル」を構築できるサイトとしてリニューアルを果たした。

「三井の住まい」の成果と課題

このサイトでは,最新物件情報がトップページで見られる,路線検索で物件までの交通がわかる,Yahoo!コンテンツを好きに並べて自分だけのページが作れる,気になる物件をお気に入りに残しておけるなどのサービスを表示している。自分の希望物件エリアを複数登録でき,自動的にお勧め物件情報が表示されるようになる。競合と被らない形でYahoo! 提供の不動産情報をトップページの一番目立つところに表示できる。利用者が興味のあるエリアを登録すると,その地域情報が物件情報の下に自動的に表示される,などがある。
公開されてわずかひと月だが,PVはリニューアル前に比べ10倍と圧倒的に増えている。さらにサイトの役割として,気持ちを高めて来店させることがポイントになる。実際の販売は現地営業員との成否によって決まる。このサイトを訪問したユーザーを他社に逃すことなくつなぎとめ,買う気持ちを高めて視察をさせることに効果的なのである。課題には,会員数をできるだけ増やしてスケールメリットを出していくことなどがある。

(通信&メディア研究会)

『JAGAT info 11月号』より

2003/11/06 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会