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広告制作における色管理とワークフロー

2003年9月16日のテキスト&グラフィックス研究会では,標準印刷色とカラーマネジメント技術を利用して大きく変わりつつある新聞・雑誌広告制作の近況と,こうした新しい流れに対応した取組事例について(株)電通テック 槌屋匡人氏よりお話を伺った。

進む印刷色の標準化

広告制作に関連する標準印刷色としては,SWOP,Japan Color 2001,Japan Color for Newspapers,JMPA Colorの4種がある。

SWOP
SWOPは米国オフセット輪転印刷の色標準である。SWOPは許容色差の値が大きいこともあり,厳密な運用をしているところは少ないように思われがちであるが,全世界に展開している米国の出版社のTIME社は,各地の印刷工場の色基準をSWOPで統一している。印刷サンプルを入手する機会があったが,SWOPの基準に忠実に再現されており驚いた。
かつて同社の広告原稿を作成した際に,平台校正を用いた従来のやり方で入稿したところ,色のトラブルになったこともある。今では,SWOPの印刷色シミュレーションをインクジェットプリンタで行い入稿している。

Japan Color 2001
Japan Colorは日本のオフセット枚葉印刷色標準である。2001年に従来のアート紙に,コート紙,マットコート紙,上質紙を加えた色見本が頒布された。広告制作における実績はまだ少ないものの,JPCのカラーマネジメント部会では,Japan Colorをターゲットにした印刷実証実験を行うなど,印刷業界での取組みは活発化しつつある。

Japan Color for Newspapers
Japan Color for Newspapersは新聞印刷における色標準で,2002年11月12日に制定されたものである。新聞印刷の色基準としては,朝日新聞のA-Cap,産経新聞のSHIPS,読売新聞のYAPSというように各社独自の色基準を持っているが,広告主からすると各紙で同じ色再現を得るためには,各媒体用に原稿の加工が必要となり煩わしい。Japan Color for Newspapersは,新聞印刷の共通基準としての役割が期待される。
現在,Japan Color for Newspapersの色見本をDDCPで作成中である。

JMPAカラー
JMPAカラーは雑誌広告基準カラーともいい,雑誌広告デジタル校了ワークフロー(後述)におけるDDCPの色標準である。(社)日本雑誌協会からプリンタメーカー用にベンダーキットが発売されており,JMPAカラー準拠のカラープリンタは既に数多く市場に出ている。
トヨタ自動車は,2003年5月から車種ごとの新原稿より,JMPAカラーを用いたデジタル校了ワークフローへ移行している。また,日産自動車も2003年10月からJMPAカラー対応のデジタル送稿への移行を目指している。これら以外にも実証実験を行っている広告主があり今後大きく広がっていきそうだ。
JAPANカラーとの相違点は,JMPAカラーはDDCPの色基準であるため標準インキ,標準用紙,標準印刷条件の数値は決められていない。また許容誤差範囲も定められてはいない。実際に運用するなかで広告主の意向を受けて個別に設定する形となる。参考までにトヨタ自動車のケースでは,JMPAの382パッチのカラーチャートを出力して,平均ΔE値がいくつ以内,最大ΔE値がいくつ以内という設定になっている。また,電通テックでは,出力機のタイプごとに許容値を設定しており,ハイエンドDDCPはかなり厳しい基準を設定しているが,電子写真方式では平均ΔEが3.5〜4.5程度,最大ΔEが10を切る程度に設定している。

広告制作〜送稿のワークフロー

従来の新聞・雑誌の広告制作は,広告主,広告会社,制作会社,製版会社,新聞社,出版社,印刷会社といったプレーヤーが「バトンリレー」する形で進められ,色の確認については,校正刷りが行きつ戻りつしていた。このため制作のデジタル化が進んでも,納期やコストのメリットを充分に享受できないでいた。そこで雑誌広告で提案されたのが,JMPAカラーを用いたデジタル校了のワークフローである。これは,制作サイドでは,JMPAカラーをターゲットとして制作を進めることで,校正刷りを行わずとも色の確認ができ,印刷サイドでは,JMPAカラーを忠実に再現することで,制作サイドが望んだとおりの印刷品質が保証できるというものである。これにより,制作サイドと印刷サイドの責任分担が明確になるとともに,校正刷りレスの一方通行のワークフローが確立できる。このワークフローにより,広告主は工程短縮によるスピードメリット,基準カラー運用による色品質の安定,効率化によるトータルコストの圧縮というメリットを得ることができる。
広告制作を取り巻く環境をみても,TIME社のPDF/Xでのデータ入稿以外受けつけないという動きを受けて,社内の海外媒体向け送稿はデジタル送稿に限定し,色基準はSWOP準拠での制作をすでに実施している。読売新聞社,産経新聞社は広告入稿をデジタル送稿に限定,他の新聞社も同様の方向へ向かうなど,デジタル送稿に向けた作業環境整備,品質管理の体制構築が急務になりつつある。

広告制作トータルソリューション「D-Workplace」

電通テックでは,こうしたデジタルワークフローのニーズに応えるべく「D-Workplace」というサービスを立ち上げている。D-Workplaceの構成要素として,AD-Manager,DAM,DPSSの3つがある。

AD-Manager
 広告主やデザイナ,ライタ,制作会社など広告制作に関わるさまざまな立場の人がインターネットを利用して情報共有するための仕組みである。機能的にはグループウェアに近いが,プロジェクト単位で社内外のさまざまな人が利用するのでプロジェクトウェアと呼んでいる。
DAM
 製品写真や広告素材などのデジタルデータを保管するデータベースである。きめ細かなセキュリティの設定ができる。
DPSS
 Digital PrePress Support Systemの略であり,デジタル原稿のデータ検証,デジタル原稿のカラーチェック,厳密な色管理が行われたプルーフ出力を行う。

これらのインフラを利用しながらネットワーク上で共同作業を行っていく。また共同作業を行ううえでは,しっかりとしたルール作りとその運用が非常に重要となる。D-Workplaceでは,共通の制作ルールと共通の色管理ルールを定めており,関係者はこれに則って制作作業を行う。

RGBからCMYKまでの色管理

広告制作においてもデジタルカメラの利用が急増しており,RGBデータへの対応が急務となっている。一方で,冒頭で紹介したように印刷の色基準がいくつも存在している。こうした状況を受けて,従来のマスターカラーポジに変わる「マスターRGBデータ」という概念を打ち出している。画像合成や色替えなどフォトクリエーティブ作業はRGBデータで行い,この段階でマスターとなるRGBデータの色を確定する。RGBのカラースペースは,基本的にはAdobeRGBを想定しているが,必要に応じてsRGBでもかまわないだろう。仕事に応じて適したものを選べばよく,改めて新しいカラースペースを作り出すような必要はない。
このマスターRGBから必要に応じたCMYK,例えば雑誌広告ならJMPAカラー,新聞広告ならJapan Color for Newspapers,に変換する。このCMYK変換は出来るだけ自動変換を想定していて,変換時に改めて「絵作り」をするようなことはしない。CMYK変換と同じタイミングで,リサイズとシャープネス処理を行い,変換後のCMYKデータでの作業は微調整のみとなる。
また,デジタルプルーフの運用としては,要求品質とコストに応じて次の3タイプを用意している。クイックプルーフ(電子写真方式),レギュラープルーフ(大判インクジェットプリンタ),そしてハイエンドDDCPである。
そして,D-Workplaceにおける色管理システムとして「D-ColorSシリーズ」を構築しつつある。
D-ColorSシリーズは以下の4つのシステム・ツールから成る。
D-ColorS Check
 デジタルプルーフ色評価システム。デジタルプルーフの色が基準通りに再現されているかどうかをチェックするツールで,基準チャートの測色データのテキストファイルをドラッグ&ドロップすると,各パッチの色基準との色差がグラフィカルに表示される。許容差はユーザが自由に設定することができる。評価結果をPDF形式で保存できるほか,二次元コードの出力が可能で,この二次元コードを評価を行ったチャートに貼りつけておけば,評価結果と実物のチャートとを関連付けて管理できる。社内ではすでに多くの実績がある。

以下のシステムは現在開発中であり平成16年度からの運用を予定している。
D-ColorS Change
 RGBからCMYKへの色変換ツール。
D-ColorS Proof
 RGBデータで制作した広告素材の品質を制作段階のデジタルプルーフにおいて確認するシステム。
D-ColorS Profiler
 デジタルプルーフ用のICCプロファイル作成ツール

最後に広告の電子送稿に関するポータルサイト「DEx Info」を紹介する。参考にしていただきたい。

(テキスト&グラフィックス研究会)

2003/11/21 00:00:00


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