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そこまで言う? 「組み放談」その5

*-*-*-* プロフィール *-*-*-*

H氏 出版社勤務の若手編集者。編集歴10年。O氏の会社にたびたび出張校正に行っていた縁で,O氏とは飲み友達である。O氏の会社には全幅の信頼を置いている。

O氏 若手だが中堅印刷会社で組版の実質的責任者を務めるオペレーター。同じ60年代生まれということもあってH氏とは飲み友達であるが,H氏の仕事は厄介なものが多く,いつもエラい目にあっている。


H--- 印刷会社って案外書体にはこだわらへんやろ?

O--- 失敬なっ! うーむ,しかし確かにそういう傾向はある。お客さんから書体を指定されたら,それに従うよね。で,お客さんから指定される書体ってのが非っ常〜に偏っているワケ。こちらの趣味じゃなくても,よく指定される書体をまず揃えざるを得ない。

H--- そらそうや。

O--- で,印刷会社ってフォントをたくさん持ってる印象があるかもしれないけど,フォントを買う予算てあんまり無いんだよね。あれこれ買ってたらきりがないもん。やたらに買うとバージョンアップだけで莫大な金額になっちゃうし。

H--- ほんま,中途半端なフォントフォーマットを次から次に作ってバージョンアップさせるからタマったもんやないわな。だ〜いぶ昔の話やねんけど,ある印刷会社に仕事を発注しよかと思って,電話してん。で,「おたく,和文フォントは何がありますか」って聞いたら,「ほとんど揃ってます」ときたんや。

O--- へー。

H--- その当時でも既にDTPフォントはけっこう出てたから,「ほとんど」言うたらスゴイ数なんよ。これは相当こだわりがあるんやなと思って,「ファックスでリスト送ってもらえますか」って頼んだんや。

O--- どうだった?

H--- それがM社のフォントがいろいろ,プラスF社がちょびっと。どこが「ほとんど」やねん!

O--- そのへんの書体しか知らない人も多いよ。このギョーカイ。

H--- 書体書体って騒ぐんは一部のマニアや,いう風潮があるしな。せいぜい「もうちょい太いやつ」とか言うてウエイトに気を配るくらいやろ。

O--- そうそう,お客さんが書体が気に入らないと言うんだけど,いくら聞いても何が不満なのかちっとも分からないときがあって,もしやと思ってウエイトを一つ上げてみたらOKが出た(笑)。

H--- あとは字面の大きさかな。どうも,文字の骨格がゆがんでるとか,アウトライン化の品質がいい/悪いっていう議論にまで行かへんのや,これが。

O--- ウチの場合,お客さんから印刷物を渡されて,「これと同じ書体にして」っていう指定がよく来るんで,日頃から書体の勉強はしてるよ。持ってない書体でも,とにかく同定したうえで他の似た書体に置き換えさせてもらったりね。「何の書体か分かりませんでした」と言うわけにはいかない。

H--- 見て分かる? どうやって勉強してんの?

O--- 識別しやすい箇所を見るといいよ。出現頻度の高い「の」で言うと,例えば左下の転折のところに特徴が表れるんだよね。イワタ,モトヤの明朝や本蘭明朝(写研),マティスとかはくびれが無くて,リュウミンやヒラギノはくびれてる,とか。あとイワタはループの部分が小さくて終筆より少し上がってる。モトヤはオムスビ型で終筆がよく巻き込んでて開口部が小さい…とかね。

H--- せやけど分からへんのも,たくさんあるやろ?

O--- もちろん。分からないのはいくつかの文字の特徴を覚えて書体見本帳をだーっと見ていく。慣れてくるとどういう特徴を捉えればいいのかが分かってくるし,見本との照合も速くできるようになるよ。それで同定できたらまた勉強になるしね。

H--- ときどき,見た瞬間に言い当てるやん。あれはどないしてんの?

O--- 特徴の出やすい文字を探して,その特徴のある箇所を見てっていう動作を一瞬でやるわけだけど,馴染み深い書体だったら,なんと言うか,こう…紙面の匂いみたいなもんで分かっちゃうね。特定の文字を見たという意識は無くて。だから自分ではどこを捉えてその書体と思ったのかが分からない。説明できないんだけども。

H--- それで当たるわけ?

O--- いや,たまに外す(笑)。紙の種類や刷り具合によって匂いが変わるんだよね。

H--- どうやったらそんなことができるようになるわけ?

O--- 知っら〜ん。いつの間にか。

H--- で,同定できても結局ほかの書体で組まざるをえない,と。

O--- まあそうなんだけどね(笑)。

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2003/11/14 00:00:00


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