本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

変化する3D技術とWebビジネス

扱いにくさ,高コストの問題から先細りになりかけたWeb3D技術は,プラグインなしでリアルタイムレンダリングを行うヤッパの技術の登場によって再び注目され始めた。販促,eラーニング,取扱説明書などさまざまな用途に活用可能である。ここでは,同社代表取締役社長の伊藤正裕氏の話を抜粋して紹介する。

世界のWeb3D技術
現在Web3Dの技術は,世界に大きく3つある。一つはスウェーデンのカルト3D,2つ目はアメリカのビューポイント,そしてヤッパである。
Web3Dは3〜4年前に大ブームになった。しかし,ブームになったのに減ってしまった理由は,3Dを見るための専用ソフトが必要,データが重い,導入コストが高い,といった状態だったからであり,ヤッパではこのデメリットを解消している。
3Dはいろいろな使い方があり,商品説明,営業ツール,教育が主な使用分野である。
ヤッパは世界オンリーワンのリアルタイムレンダリングの技術をもっている。立体画像をインターネット上で見るための専用ソフトが不必要で,JAVA言語だけで立体画像を見ることができるものである。Web3Dというと,非力なパソコンで動かすからあまりきれいではないという先入観がある。しかし,最近は写真のようにリアルに作ることができるようになった。最新のハリウッド映画で使われているような3次元CGとヤッパのWeb3Dは,原理原則は同じである。それをヤッパでは独自の数式を基にして,インターネット上でプラグインを使わずに展開することに成功した。

営業ツールとしてのWeb3D
ヤッパは,国内のほとんどの自動車メーカーと取引をしている。車を買おうとしている人は,ハイクオリティなカタログの印刷物を見る。しかし,車を自分で買おうと思った場合,色,オプションパーツ,グレードは必ず自分だけの組み合わせになる。そこでヤッパの3Dでシミュレーションを活用してもらっている。
ホンダ技研工業は,ほぼ全車種でヤッパの3D技術を採用している。ホームページにも載っているが,主に販売店で15インチのタッチスクリーン画面と組み合わされ,販売支援ツールとして活用されている。
例えば,アコードでスポーツモデルのEuro-Rを選ぶと,サンルーフはオプションパーツとしてラインナップされていないので,「サンルーフ」は装着できない仕組みである。モデルを変えて24Tを選択すると選択可能なカラーバリエーションが変わり,オプションパーツとしてサンルーフが選べるようになる。
こういったことは商談で必ず行うことだが,カタログの一覧表で複雑なオプションパーツの組み合わせを確認しなければならないことが,ヤッパの3Dによって画面一つで自動的に見られるような営業ツールになっている。
自動車のような大型商品の場合,店頭に何台も展示できない。カタログは見た目がきれいであるが自分の好きな色,オプションパーツが想像できない。特に高級車の内装はほとんどすべてカスタマイズできるため,なかなか想像できない。そういう時にこそ,立体画像が使われるのである。
さらに,オプションパーツは自動車業界では,利幅が大きい商品とされている。例えば,最近よく売れている80万円前後の低価格な軽自動車に,仮にオプションパーツを40万円分付けて120万円で売れれば,粗利益率が非常に高くなることがよくある。
例えば,車を買いにショールームに行く。ショールームには,大きくきれいな画面がある。自分の欲しい車が置いていないにもかかわらず,画面上のリアルな3D画像で好きなグレード,パーツを組み合わせ,すぐに見積もりが出てくる。商談によっては見積もりを出すまでに10分,20分待たされて,場合によっては翌日になる場合すらある。これに対して,1秒くらいで見積もりまで出てくるビジュアルな営業ツールは,これから普及してくるだろう。

Web3Dのこれから
現在,業種や業界を問わず,電子営業ツール,電子カタログ,eラーニングなどのニーズは高まっている。しかし,そこで行き当たる問題は,紙のようにちゃんと手に持って見ることができるものがよい,という場面も多いことである。実際に3Dが印刷物やカタログに完全に取って変わるかというと,すべてに変わることはないだろう。自動車を買う場合,紙のカタログを家に帰って眺めることが楽しみでもある。一方,立体画像でリアルタイムにシミュレーションできる電子カタログや教育ツールのニーズが高まっているのも事実である。
今,主流となっている3Dの使い方は,分かりにくいことをより分かりやすくすることである。
例えば,パソコンを全く使えないユーザでも,タッチパネルを使えば3Dを簡単に動かすことができる。
ヤッパの3Dを見るためにパソコンに専用ソフトを入れる必要はない。ユーザにとってのハードルをなくし,だれもが簡単に見ることができることが特徴である。ヤッパ以外の技術で3Dを閲覧する場合,専用のソフトが必要となる。例えばWindowsのパソコンに搭載されているオープンGL,ダイレクトXなどを使って立体画像を描画するためには専用ソフトが必要となる。
一方,ヤッパではオープンGLやダイレクトXなどに依存せず,独自の数式で3D画像の描画を行っているため専用ソフトは必要ない。とても軽い数式をもっている。これが,ヤッパ3Dの利用分野を広げる大きな特徴でもある

3D取扱説明書
これからのWeb3Dは,Web(インターネット)という名前ではなくなるのではないかと思うくらいWeb以外の分野での活用が広がるだろう。
3Dは,あらゆる端末に組み込むからこそ効果がある。例えば,夜の山道で車を走らせていた時にタイヤがパンクしてしまった場合どうするか。車を路肩に止めると,メーターやカーナビの画面に3Dが表示され,トランクを空けるとスペアタイヤが入っており,スペアタイヤを変える手順を3Dが教えてくれる。
このようにPC以外のあらゆる機器に搭載し,リアルタイムで軽く動く3Dが要求されている。
デジタルカメラを買うと,製品自体が小型化しているため,箱のサイズに合わせた取扱説明書はますます厚くなってしまう。ヤッパでは大手電機メーカー数社と,3D電子取扱説明書の取り組みを進めている。電機製品を使っていて困った時にボタンを押すと製品の画面に3Dが現れ,どこを操作すればいいか教えてくれる。こうなれば便利になる。電子取扱説明書のようなものこそ立体画像が分かりやすいという見方がある。印刷業界を含めて与える影響も大きいが,共存することが結論である。印刷業界では,Web,DTPなどの事業部があるが,新規事業としてもっと分かりやすい3Dを導入する流れが出てくるのは自然だと思う。
過去,アップル社がMacintoshを発売し,同時にレーザプリンタを発売してDTPという発想を世の中に送り出した。3Dの世界でもこれに近い現象がこれから起こっていくのではないか。3Dの技術がなかったにもかかわらず,簡単に3Dをすぐ作れるソフトを購入して社内で内製するようになることが,これから増えていくのではないかと思う。(通信&メディア研究会)

2003/12/06 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会