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ネットワーク時代につながるDI機の特長

DI印刷機の導入実態

現在のDI印刷機は、CTPを内臓しある一定の版数までは版の取り付けをせずに直接CTPを印刷機上でつくることができる「On Press CTP」と、「DICO web」のようにシリンダ上に書き換え可能な画像を形成、印刷する方式に大別される。DICO webは、ヨーロッパでの実用導入が始まっているようだがまだまだ数は少ない。一方、米国におけるOn Press CTP方式のDI印刷機の導入状況を見ると、ハイデルベルグのQM DI機が700台、SM DI印刷機が30台導入、KBAの74karatも30台導入されているという。デジタル印刷の権威として知られるFranK Romano 氏によれば、これらのDI印刷機のほとんどは4裁4色機で、半裁機は数台、全版サイズのDI印刷機の導入は1台である。

ハイデルベルグ社によれば、DI印刷機を導入している企業は、以下の5つに分類されるという。
@2色機で商売をしてきたが、4色印刷の分野に参入したいと考えている小規模の端物印刷業者
A大サイズの印刷機を持っているが、更なる事業拡大の道として小ロット印刷市場を考えているコマーシャルプリンター
B4色の仕事をより効率的に印刷したり、サービスの幅を拡大したいと考えている社内印刷部門
Cトナーベースのプリンタを使っていた企業で、従来の事業範囲を拡大し経済的なコストでより足の長い仕事を拡大しようとする企業
D小ロットの印刷に事業を拡大したい製版業者

特徴のあるDI印刷機の導入企業属性

@、Aは4色機を保有していなかった印刷会社、B〜Dは、「印刷」の経験の薄いあるいは全くない企業である。このような主要顧客の実態は、多様化しつつもDI印刷機が向かう共通の技術的方向と合致している。それは、トナーベースのデジタル印刷機のような操作の簡便性、コンパクトな設計、そして価格設定である。
ハイデルベルグの「QM-DI」、リョービの「3404 DI」、そしてKBAの「74Karat」のいずれもプレステック社の水なし平版を採用している。また、ウエットインキを使った印刷では、印刷後の乾燥が問題となるしその取り扱いも印刷になじみの少ない企業では厄介である。リョービの3404DIはIR乾燥装置を搭載、igas2003ではUV乾燥装備のシステムも紹介した。「74Karat」は、コーターとドライヤを組み合わせた乾燥システムを提供しており、米国で導入されている74Karatのほとんどに装備されているという。「74Karat」はキーレスのインキコントロールシステムを採用している。

2分し始めた意見

DI印刷機は、それが登場した初期においては準備時間の短縮による小ロット印刷への対応力が最大のメリットとして喧伝された。しかし、刷版自動交換装置やCIP3対応のインキコントロールの装備が一般化するなかで、DI印刷機を提供するメーカー側でもDI印刷機の推進派と消極派に二分されるようになってきた。 桜井グラフィックシステムズは、DI印刷機とフルオプションの印刷機+CTPのシステムとの比較検討結果から、当面DI印刷機の積極的な販売を控えるとしている(American Printer 2003年8月号)。ゼロクスも、DocuColor 233DI-4, 400 DI そして400 DI-5 の販売を中止した。 一方、KPG(Kodak Polychrome Graphics)は、リョービの4裁4色のDI印刷機をベースとする「KPG Direct Press 5034 DI」を扱うと発表した。KPGは、DI印刷機を扱うのは「アナログからデジタルワークフローに移行中の顧客に、今後考えられるCTP、デジタル印刷、そしてDIの3つの選択肢すべてを提供するため」としている。篠原鉄工所はigasにおいて参考出品ながらKaratタイプの菊四裁サテライト型のDI印刷機 「52UNO」を出品、2004年のdrupaでは完成機の出展を予定している。

DI印刷機の特性を考える

多様な印刷物生産方式の中でDI印刷機は、トナーベースのデジタル印刷機と通常の枚葉印刷機の中間に位置するとの見方が有力であった。
DI印刷機とデジタル印刷機との違いを考えてみると、デジタル印刷機とウエットインキによる印刷物の品質の差として最も目立った「質感」の差はなくなりつつある。印刷用紙の選択幅についてはDI印刷機にまだ優位性があるようだ。コスト面で見ると、少なくとも日本においては200から300部以上では1枚当りのコスト面でDI印刷機の方が有利であろう。しかし、これらは通常の枚葉印刷機にも当てはまることで、DI印刷機のみに言えることではない。

DI印刷機と従来の枚葉印刷機とを比較してみると、通常の枚葉印刷機での省人化オプションの一般化で準備作業時間等におけるDI印刷機の優位性は見られなくなった。欧米からのさまざまなニュースは、500部〜5000部までのロットにおいてDI印刷機が普通の枚葉印刷機よりもコスト的に優位であると伝えるが、日本と欧米の印刷現場の物的生産性はかなり異なり、上記のようなロットの境界線は日本では当てはまらない。逆に、DI印刷機では、各印刷ユニットにイメージング装置を持たなければならないので、そのためのコストとメンテナンス費用が高くなるとの指摘もある。
現時点におけるDI印刷機の従来の印刷機に対する特長は、コンパクトな設計とデジタル印刷機に近い簡便性と価格設定であろう。先の米国におけるハイデルベルグ社の実態に見られるように、DI印刷機は「印刷」にあまりなじみのなかった業種に迎え入れられやすいと考えられる。

ネットワーク化時代に期待される威力

今後の印刷物生産は、間違いなく世の中のネットワーク化に沿って動き、5年から10年でCIMやEDIが先進的な企業から導入されて普及していくことになるだろう。
現時点でDI印刷機を見ると、上記のようにその特長が薄れつつあるように見えるが、ネットワーク化、CIMの実現を想定すると、版を印刷機上で無処理で作って印刷できるDI印刷機は、いまはあまり意識されていない位置を占める可能性がある。
JDFを使った新しい生産システムに関して、現在、多く伝えられていることは、印刷機械の信号を得てその稼動状況をリアルタイムに知る、あるいはそのデータを使って実際原価計算を自動的に行うといったことである。しかし、JDFがCIM(Computer Integrated Manufacturing)の実現を目指すのならば、MIS(Management Information System)の日程計画に基づいて機械を自動運転することが格段の生産性向上にとって非常に重要な意味を持つ。この時、DI印刷機はデジタル印刷システムと同様に、通常の枚葉印刷機では実現できない自動生産システムの要素としてその特長を発揮することが可能になる。 (「JAGAT info」2003年12月号)

2003/12/07 00:00:00


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