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2003年の印刷業界を振り返る

久しぶりに上向き機運が感じられた第1四半期

2003年の第1四半期は、1月こそ売上前年比がマイナス(▲1.4%)になったが、「昨年までマイナスの話しが多かったが、東京地区では新しい動きが多くなって活況を戻しつつある。特に電子データの電子化など」、「2月、3月と前年を上回る数字で嬉しく思っている」など景況の上向きを感じる企業が増え売上前年比は前年同期を上回った。
ただし、価格下落の状況は相変わらずのようで、特に官公庁の入札に関しては「入札・見積もり合わせが多数発生している。参加件数は増加、受注率は低下、落札価格も低下。価格分析すらできない物件が増えてきている」、「価格がめちゃくちゃ。市町村合併に伴う仕事が発生しつつあるが、上製本B5 200P+カラー30P 500部を50万円台で落札といった物件が続いて落札できないでいる」状況にある。

ある県庁が印刷物の電子入札を始めた結果、印刷価格の平均は2割ほど低下したという事例がある。発注側も受注側も手間とコストが省けてお互いにメリットを出した結果として価格が下がって納税者にもメリットがある、というのが電子入札の目指すところである。しかし、実態は、税金を使って投資をしても行政、印刷業両者にメリットが出ない中で値段だけが下がってしまった。金額の面からだけ見れば納税者にとってプラスであっても、もろ手を上げて喜ぶべきことではない。ほぼ予想されたことで、e-JAPAN構想という名のもとで箱は作って見たものの「仏作って魂入れず!」である。電子入札は、e-JAPAN構想の中の何を実現しようとするものなのか? いまの形の電子入札は今後も変わることはないのだろうか?

結果が出始めた2極化

このような状況に対して、「営業の種まきとアフターフォローが徐々に実をつけはじめて、1月の売上高は会社設立以来最高になった」という企業は「仕事量確保のせいか破格の落札が急増している。いずれそんな企業は体力限界を来たし消滅の道を辿るのでは!」とさめた見方をしている。まさにその通りで「非常に悪い。安値受注を続けた結果がこのようになっていると反省している」と正直な声を寄せた会社があった。また、「平成15年3月決算は、お客様に恵まれ増収増益であった。価格を前面に出した営業活動は極力慎み、品質、納期、環境保護を重視した印刷会社をPR。クライアントは価格に対し印刷会社が思うほど意識していないことがよくわかった」という会社もある。
「良くない景況の中でも、着実に実績を伸ばしている会社がある。自社との差異は何なのかとつくづく考えさせられる」、「他業界に同じく、勝ち組み、負け組みの差が表面化しつつある」、「人口6万人の田園都市で、第1地銀2店、第2地銀1店、信金1店だが、融資要請が盛んになってきた。中小企業は、はっきりと選別され明暗を分け、消滅する傾向が顕著になった」など、第一段階の2極化の線引きは終わりつつあるようだ。

CTP普及の光と影

2002年に引き続き、2003年前半で最も活発な投資分野はCTPであったが、その光と影が見られ始めた。地方の中規模印刷会社からは「2002年11月からCTPの本格稼動に入った結果、1月のフィルム使用量は激減(前年同月比▲86%)した。導入にあたってデジタル環境整備に徹底的に取り組んだ結果の採用で、目途とした成果が早くも達成され安堵している」、「平台校正刷り用の版をほとんどCTP版とした。フィルム購入金額が非常に下がった」といった声と、「2003年は昨年より悪くなる見通しである。CTPの導入が多くなったためフィルム出力に影響しそう」という製版専業企業からの声があった。このような中で、製版企業も「先行き不透明だが、明るい話題はITを使った営業展開が出来そう(光ファイバー設置、大容量通信を実行)」と、新しい技術の導入による期待感も寄せられている。

続く中国脅威論

2001年前後から印刷業界でも中国への国内需要流出の懸念が強まってきた。韓国の印刷業界と日本の印刷組合との公式の交流もそのような背景があってのことである。実際に「マニュアル印刷については、中国への移管が急に行われていて、国内は空洞化に」というように、資材印刷関係は得意先の工場が海外に移転すれば現地生産になることは、その使われ方からいって当然である。このような状況と中国からの各種工業製品、農産物の逆輸入増加とから、商業印刷物等についても中国に流れてしまうのではないかという見方が強まってきた。
しかし、東京都印刷工業組合が都に依頼して行った中国の印刷事情調査の結果によれば、中国における印刷価格は、A4で500枚以下のモノクロ印刷から4/4のオフ輪による100,000枚の印刷にいたるまで、日本の積算資料による価格に対しても2倍程度であった。また、コスト面からの検証でも、生産性がかなり低いので安くてもせいぜい1割弱であり、実勢価格では決して安くはないということである。
中国の印刷事情については、現地へ行ってうまくやっているという話から中国自体の需要をこなすので精一杯で日本からの仕事は受けられないといった話まで、個別の話はいくらでもある。それぞれは事実だろうが、この問題に限らず断片的な情報に右往左往しないようにしたいものである。

逆戻りした景気

第2世恩半期は、4月の「売上が非常に落ち込んでいる。3月の反動かもしれないが、3月の売上増の部分を4月に食いつぶしてしまった」という状況から始まり、5月、6月になると「夏の商戦が盛り上がってこない。一部の大手企業社員は賞与の個人負担税率が上がり手取りが減ってしまったと嘆いているが、中小企業では支給自体が危ぶまれているところも少なくないようだ」、「5月、6月仕事量が少ない。経営の問題になる」、「5月以降、受注、売上とともに減で、7月〜8月の仕事量確保が大変厳しい状況である」、「6月に入り急激に売上ダウン。以降の売上が心配」と第1四半期とは一転して暗いトーンに変わってしまった。
「1月〜6月は上位得意先の受注が順調で昨年同期比120,150千円(108%)増となり、利益も約185.000千円の増収増益」となった企業でも、「7月からの後半が苦戦しそうなので、7月に重点推進、改革項目の第二版を作成、遂行する。つくづく変化への対応と全社的結束の必要性を痛感」と先行き懸念で気を引き締めていた。
いずれにしても、第1四半期で底打ちかと思われた印刷産業の景況だが、4月の売上前年比0.7%減、5月の1.4%減と2ヶ月連続の前年割となり、再びマイナス成長(0.6%減)に逆戻りしてしまった。

紙代の値上げの影響も続いており「紙代を中心とした原材料費の値上げがあるが、売上価格に転嫁することが出来ず収益力は低下」した企業も多い。また、「人員減少に伴い外注が増える傾向。内作化で材料費も増えてきている」と、固定費を減らせば減らすで別のことに頭を悩ませなければならないという、経営が難しい時代を実感させる声もあった。

賛否両論の不況業種指定

印刷産業が不況業種に指定されたのを受けて「昨年度6月〜8月がひどい不振で、前年対比では悪くないが実情はたいして良くない。不況業種に指定されても、前年度よりは良いので該当しない」、「不況業種に指定され、'あんしん借換'制度が利用できるとのことだが、条件が前年を下回っていることとある。この規制条件があるのであまり役立たない制度だと思う」という声が聞かれた。
そもそも、不況業種指定については業界内に否定的な意見もかなりある。賛成論はもちろん「助かる」ということだが、反対論は、不況業種に指定されている他の業種を見ると、情報価値創造産業を目指す印刷産業がその仲間と認定されることははずかしい、護送船団方式を離れた自主独立の業界にしていくという基本的な方向に逆行するものであるといったところである。さまざまな意見、状況があるのだろうが、精神的には反対論で通したいものである。

さらに景気が落ち込んだ2003年下期

GDPのプラスが伝えられる中でマイナス成長に逆戻してしまった第2四半期の印刷業界だが、「売上の歯止めが利かない。価格も非常に乱れてきている」というように、第3四半期はさらに景気は悪くなった。「市場のパイが縮小している中で、商品、価格による差別化が行き詰まり、ますます価格破壊がひどくなっている。そういう中で、自社にとって利益のある重要な顧客かそうでないかを選り分けることも必要ではないか。おいしくない顧客は切り捨てる」という意識を持ち始めた企業も増えてきているようだ。「前年同月比が比較にならなくなった。98年ぐらい(ピーク時)を100とした指数を出すべきではないかと思う。多分考え直す企業が多いのではないか」との声も届いた。製版業は一層深刻で「昨年4月から売上は連続下落。5月にリストラを実施。収益は大幅に改善されたがこんなことで良いはずはない」「製版業は、もう単独での経営が成り立たない。多分、本年中で結論が出てしまうと思われる」というところまで悪くなっている。

ハードでの対応からソフトでの対応へ

印刷業界が対応すべき課題には低迷する受注や価格低下だけではなく、印刷市場の質的な変化への対応もある。「平成15年4月〜8月の受注で売上前年同期比は同じになったが、点数は20%増」というような小ロット化、「顧客サイドでの内製化が激しくなり,一般的な印刷物はジリ貧である。何に活路を求めるか?」(事務用印刷物)といった内製化、あるいは「カラー分解が少なくなり,デジタルデータRGBの変換が多くなった。製版全般の仕事が減り,部品的な仕事が多くなった」といったデジタル化の進行への対応である。
このような状況が「チラシの短納期化がさらに深刻度を増しているがCTPの導入で対抗できている」、「DTP、CTPによるデジタル化指向の社内一環生産工程確立に取り組んでいる」、「売上低落の傾向が止まらず。将来を見据えた社内整備が終了した。CTPの採用、FMスクリーンの実用化、ハイデル菊全8色機導入と一連の設備投資が終了。社員教育と意識改革運動は進行中。いずれ大輪の花が咲くことを期待している」というように、さらに一層のフルデジタル化、CTP化を進めている。業界全体としての付加価値減少はさらに進んでいるということでもある。

しかし、先のCTP、FMスクリーン、ハイデル菊全8色機導入をした企業が「これからはソフト面に力を投入する予定。ソフト面には人間がからむので難しい」というように、改めて人材育成に目を向ける企業は増えているようだ。「数ヶ月前に会社全体の内部改革を実施(特に人事)、特に営業力の強化をねらい計画を進めており、前年同月比の悪い月もあったものの、6ヶ月分では4%〜5%のアップが見られた」という企業もある。また、来年度の重点施策として人材育成を掲げる企業は多い。このときには「経営圧縮効果による。受注減、競争激化による受注価格低下に打ち克つべく、積極的な経営活動とスキルアップ、ベクトル合わせのための研修を続けている」というように、ベクトル合わせがないと人材育成の成果も出にくいだろう。経営者のリーダーシップが最も強く問われるところである。

2003/12/29 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会