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価値のある仕事をしよう

ある印刷会社の社長さんが、自宅に配達された朝刊のチラシの中から、自社で制作したものを見つけて奥さんに言ったところ、「あなた、こんな捨てるようなものを作ってるの!?」と言われて、一念発起して高精細印刷に取り組むようになったと言う話を伺ったことがある。お金を稼がなければならないという点ではビジネスチャンスは多くある。しかし誰でも儲かる仕事なら何でもするわけではなく、やはり「やりがい」という価値観をもっていて、価値ある仕事、評価される仕事をしようとする。自分が、また自社が求められているのだという実感が「やりがい」に必要なのである。

印刷物の価値とは何だろうか。直接的には印刷物発注者の要望にあると考えるだろう。しかし昨今のように、ニーズは「安価」だけか? と捉えると「価値」を見失ってしまうことになる。売り上げを伸ばすにはたくさん印刷発注があればよいが、それはゴミを増やしていくだけかもしれず、そのように「価値」を下落させれば、また「安価」を要求されると言う悪循環に陥ってしまう。かといって高精細な印刷が価値ある印刷ともいいきれない。印刷物は静的なものではあるが、やはり「情報」であることから、必要な人に、必要なタイミングで、必要な内容・表現で届いたときに価値を発揮するという、ダイナミックで鮮度も必要な、「生もの」なのである。

そのダイナミックな価値をコントロールするのにちょうどいい言葉が、「バリューチェーン(Value Chain)」ではないだろうか。この「チェーン」とは企業の連携のことで、サプライチェーン・マネジメント(Supply Chain Management=SCM)は文字通り、仕入れをして次のところに渡していくサプライサイドのチェーンである。それに対して「バリュー」とは最終的に届けられるエンドユーザーにとって価値のあるもの、意味のあるものまで含んでいて、それを提供するための1つの連合としてバリューチェーンがある。

昔、OA(Office Automation)と言っていたのは、企業の中で単一の業務を効率化していくことであったのが、今、企業の中全体で有機的に関連して処理・制御するのがMIS(Mangement Information System 管理情報システム)であって、それが個々の企業の内部にできると、取引のある企業間がオンラインでつながってEDI(Electronic Data Interchange)とか、BtoB(Business to Busunes)であるとか、EC(Electronic Commerce 電子商取引)とかになり、トータルでサプライチェーンになっていくという進化をたどる。

ただしその先のバリューチェーンはSCMとは少し性質が違う。SCMまでどちらかと言うとITの発展とか進化の必然としてエスカレーターに乗ったように順次進んでいくが、バリューチェーンには別の要素が必要になる。DMはこれから日本で伸びるといわれて、それは仕事をしている我々にとっては結構なことだが、DMの多いアメリカでよく言われるようにジャンクメールという見たくもないDMがたくさん来るとなると、それはバリューチェーンということで考えるとおかしいことになる。いらないものを押し込んでいるというのはそのうちそれは問題にされるわけだから、そうではなくて必要な人に必要な物が行くようにしていくというのがバリューチェーンの考え方になる。

パッケージを考えてみてもそうだが、パソコンを買ったとするとダンボールの箱にいろいろな詰め物がされている。パソコンを作って売る方からすれば梱包関連の作業が容易で安い梱包材が良いということになるが、買った方からすると必要なのはパソコンであって梱包材ではないので梱包材を捨てるほうが問題になる。それが面倒なら嫌だということになる。印刷会社はサプライチェーンということでいけば、箱を発注してくれる方の要望もあるし、それを最終的に使う人のエンドユーザーの要望もあって、ある意味では板ばさみになる。DMもそうで、大部数のDMを発注してもらうのはうれしいことだが、そんなDMいらないと言われてしまってはこれは板ばさみになる。その矛盾を解決していく方向を、これらに関連した皆さんが協同して探っていくようになると、よい方向に展開しだすだろう。そこらへんがバリューチェーンのものの見方になると思う。

1990年代バブル以前から実は印刷は先進国、特にアメリカ、日本ではかなり飽和をしている。アメリカはただ人口がそれでも増えている。しかし日本は今もう働いて所得のある人口は減っていて、物をどんどん作っていくことではなくてソフト・サービス化がより求められる。だから印刷物の周りでいろいろ求められているサービスを派生的にしていく業務がたくさんある。お客様は当然単に印刷をするだけではなくて、もろもろのことをしてくれるということは望んでいるわけだが、それをどうビジネスにしていくのかが最大の課題である。

PAGE2004で掲げているテーマの「ITとパートナーシップで築くトータルサービス」とは以上のようなコンセプトからくるものであり、今回から「DMビジネスショウ」ポスタルフォーラム2004と同時開催により、まず一番伸びが期待されるDM分野から関連業種の方々が一緒に連携してビジネスをしていくため交流の場を作ろうとしている。

2003/12/30 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会