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リモートプルーフ活用による効率化の実現

リモートプルーフは,安価で高速な通信回線の普及とカラープリンタの品質向上により急速に注目を集めている。昭和堂の中尾憲治氏より,2002年末に導入したソフトウェア・トゥーのrosette Star Proofを使ったリモートプルーフ活用状況を伺った。

リモートプルーフ導入の背景とその経緯

昭和堂(本社・長崎県諫早市)は,メディアプロデュース,印刷・オンデマンド,デジタルコンテンツ制作,データベースサービス,情報処理,スペースグラフィックス,高級美術複製画などを主要業務に,支店は長崎,佐賀,福岡と東京にある。印刷設備は,CIP3対応のハイデルベルクの8色機,6色機,4色機を各1台導入している。また既設の三菱の4色機2台は,刷版読み取り装置のデミアを利用し,独自技術でCIP3対応となっている。
昭和堂ではリモートプルーフの導入前,大きく3つの課題があった。第1は遠隔地の支店の短納期対応である。第2は校正刷りを本社から配送する時の宅配便のコストと時間の制約である。第3が営業武器となる品質保証体制の確立である。
8年前本社にDTPシステムを導入し,同時にデジタルクロマリンという初期型DDCPと,内校用また一部顧客提出用にインクジェットプリンタを導入した。各支店へはDDCPを宅配便で送り校正を行っていた。例えば夕方,営業が顧客から赤字の入った校正を受け取って戻ってきて,それを翌日訂正して再提出する時に宅配便で送ると到着するのはその次の日となる。クライアントに対しては中1日のブランクができてしまう。
本社には宅配業者が夕方6時半から7時半に集荷に来るが,前日営業から戻ってきた校正の赤字を訂正してその日の夕方に間に合わせることは時間的に難しい。集荷に間に合わなければ,配送センターに直接持ち込む。2年前までは夜の10時くらいまで受け付けてもらえたが,アメリカでテロがあって以降,配送センターでも8時までしか受け付けないことになり時間的制約が厳しくなった。
2002年5月に東京支店を開設したが,営業の武器として本社のDDCPを利用せずに品質保証できる機器が必要になってきた。それには高価なDDCPを購入すべきなのかと悩んでいた。また,同時期にカラーマネジメントに真剣に取り組まなければと考え,本社の各印刷機の色の標準化を目指していた。
ちょうどそのころ,雑誌のリモートプルーフの紹介記事でrosette Star Proofを知り,昭和堂のワークフロー,導入時のコスト,維持管理のコストなどを検討し,2002年12月に決断して,2003年1月から2月にかけて導入に踏み切った。
rosette Star Proofは大判インクジェットプリンタで色校出力するシステムで,CTP出力用のRIP処理済みの1bit TIFFデータを校正出力する,印刷網点のシミュレーション機能をもちモアレの確認ができる,ターゲットとなる印刷物のベタ濃度やドットゲインを反映してカラーマッチングを行う,といった特徴がある。

システムとワークフロー

現在,昭和堂では写研ラインからの出力も含め,ほぼ100%CTPを利用している。リモートプルーフ導入前のCTPワークフローは,組版が終わった後,DDCPのSpeedProof8000から校正を出力し,校了後はファシリスで面付けし,TWiSTというセンターRIPでアウトラインPDFを作成。TrueFlowでスクリーニング処理を行って大日本スクリーンのCTP(PT-R8000/PT-R4000)から出力するものであった。
リモートプルーフのシステムを取り入れるに当たり,プルーフ専用のTrueFlowを導入,RIP後の1bit TIFFデータを書き出せるようにした。1bit TIFFデータはG4圧縮され,所定のフォルダに保存されるように設定している。支店にあるrosette StarProofは,常に本社の所定のフォルダを監視しており,圧縮された1bit TIFFデータが入ると自動的にカラーマッチング処理を行い,エプソンのインクジェットプリンタ(PX-9000)から出力される。通信環境としては2002年10月からOCNのBフレッツを利用し,VPNという形で本社と各支店を結んでいる。

導入後の効果,メリット

導入後は,先述の3つの問題点に効果が現れている。まず短納期への対応では,東京支店を例に取ると,従来,校正は宅配していたので中1日掛かっており,翌日届ける場合は航空便を利用しなければいけなかった。それが現在はデータ量にもよるが,A1サイズの校正なら1時間掛からずに東京支店から出力できている。
その結果,顧客の要望にこたえられるタイミングで校正提出が行えるし,何よりも営業が時間を有効に使えるようになっている。福岡支店の場合は,急ぎの校正出しに関しては,従来は福岡から営業が車で走り,本社から担当者が車で走り,中間点の佐賀で落ち合って手渡しするという非常に効率の悪い方法を取っていた。
コスト面でも,長崎から東京へ宅配すると約800円,航空便では約2300円掛かっていたが,時間的な制約もなくなり通信費のみで送れる。
本社にもPX-10000を2台設置しDDCPからの切り替えを進めている。現在では,従来使っていたSpeedProofをほとんど使っていない。特定の顧客に関してのみ若干残っているが,ほぼインクジェットプリンタで運用している。ランニングコストはDDCPの4分の1から5分の1になっている。
リモートプルーフを使うことによって,時間的制約が大幅に解消された。制作側が宅配便の締め切り時間に間に合わせようと焦って犯していたミスがなくなるだけでも十分な効果と言える。現在,全体の校正量のうち約3割が各支店でのリモート出力となっている。
品質についても,PXインクは印刷により近い発色性とプリント後の色変化が少ないというメリットがある。半年以上利用しているが,クレームはほとんどゼロである。1bit TIFFというプレートに出力する最終のデータを使用し,かつ網点再現した信頼できる色校正を顧客に見せられる。

リモートプルーフ導入のポイントを挙げると,まず印刷の色の標準化および色を安定させる品質管理がある。次に高速かつ安価で信頼性の高い通信環境の整備である。それから,カラーマネジメント技術の理解がある。印刷とプルーフの色合わせを行うにはICCプロファイルを利用する仕方もあるし,rosette Star Proofのように独自のシステムを利用する方法もある。ワークフローを組み立てる上では,こうした仕組みをきちんと理解する必要がある。次に1bit TIFFのようなCTP出力とプルーフ出力の内容が同一であることを保証できるようなファイルの活用であり,最後に導入後のプリンタ品質の維持管理がある。

今後の課題と展開

リモートプルーフのプリンタの品質管理が重要だと考えている。導入時に各支店のプリンタの色と本社の印刷機の色とのマッチングをしているが,常に同じ色が出力されるように維持管理していくことが重要なポイントである。現状でも毎月2回ほどチェックをしているが徹底していきたい。
今後は本社に導入しているPX-10000の稼働を上げ,コストの掛かる本機による校正を減らしていきたい。さらに,昭和堂の標準印刷色をより確実なものにして,工程全体を見渡してトータル的な観点からカラーマネジメントに取り組んでいきたい。また,今後はさらに高品質な印刷を目指して新しいスクリーニング技術の研究に取り組んでいきたい。

(JAGATinfo 2004年1月号より  文責:テキスト&グラフィックス研究会)

2004/01/16 00:00:00


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