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静的書籍,動的書籍

紙の書籍をどのようなものと捉えるかによって、電子書籍の設計なりコンセプトは変わってしまう。辞書や辞典が手本ならデータベースが電子書籍である。1980年代初頭の電子出版とはそのような定義から始まった。

しかしパソコンでテキスト検索を扱うことが当たり前になると、それらをいちいち「電子出版」とは呼ばない。その後も電子出版はいろいろ定義されたが、あまり使われなくなった。それは電子出版の実体がなくなったのではなく、それだけでビジネスモデルが出来るようなものではなくなったということだ。

百科事典のマルチメディア化をしようという試みも10年ほど続いたが、先にある本のコンテンツにあわせてマルチメディア素材を集める動的書籍編集は労多くして実り少なしであった。むしろテキスト中心の辞書だけの方が、さまざまなところで利用されるコンテンツとなった。

単に動画がはめ込まれているというだけのマルチメディアは流行らなかった。おそらくインターネットのブロードバンド向けサイトが、テキスト、アニメ、オーディオ、動画を組み合わせた新たなメディアとなっていくのだろう。あるいはeラーニングのように目的のはっきりした教材は、それぞれの必要性にあわせてマルチメディア化することは必須である。

eBookというのも過去は専用端末で苦戦していた。パソコンの機能は肥大化して、DVDの再生は標準になり、MPEG2のエンコーディングもできるものが、世界で年間何千万台という数の生産がされる、大変なスケールのビジネスで、単価競争が激しく日本のメーカーではなかなか太刀打ちできなくなっている。

この機能てんこ盛り路線を携帯電話も追いかけるようになって、同様の巨大な市場を作り出している。eBookの専用マルチメディア端末機を、これらよりも優れていて安いデバイスを開発することは不可能だろう。こういった肥大化したデバイスでは当然「電子出版」アプリはあるが、それらとの棲み分けを狙って電子書籍は出てきたようにも思える。

それは紙に近い静的な電子書籍として機能を絞り、紙の本のかさばりをなくせるという優位さをもちつつ、低消費電力・読みやすいなどではパソコンや携帯電話よりも優位で、紙の書籍のメリットに近づこうというコンセプトに集約されつつある。

通信&メディア研究会会報 VEHICLE 177号より

2004/01/29 00:00:00


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