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JDFインターオペラビリティ(互換性)テストとは

CIP4ではJDF対応機器やシステムのインターオペラビリティ(互換性)・テストという相互接続性のテストを過去4回にわたって行なってきた。テストに参加できるのはCIP4正会員ベンダーであるが、第3回の互換性テストは2003年12月8日〜12日に米国・フロリダで14社のベンダーが参加し、また2004年2月23日〜27日に第4回互換性テストが、スイス・ゾーフィンゲンにある後加工機メーカーのミュラーマルティーニ本社に30社の正会員ベンダーが参加して行われた。以下はスイスで行なわれたテストの概要である。
国内のメーカーは大日本スクリーン製造から6名(現地社員を含む)、小森コーポレーションから2名、三菱重工業から1名、ホリゾンから2名などがテストに参加している。

互換性テストへの参加への敷居は高くなく、製品の登録フォームを送って、サンプルファイルを幾つかアップロードすればそれで参加は可能である。
CIP4の正会員であればWebサイトから、サンプルファイルを自由にダウンロードして、会場に行かなくても互換性の確認とかはできるような体制にもなっている。
現実のテスト会場にはソフトウェア担当技術者が、ラップトップコンピュータにテストモジュールを持ち寄って参加してきている。サーバー製品であってもラップトップコンピュータひとつであり、今回は各ベンダー2〜3人は参加していたので、計60人以上がテストに参加したことになる。

互換性テストではJDFの受け渡しを3種類の方法で行っている。
(1)ファイル渡し(F):メモリーカードか何かを持っていって、データを相手に渡して読み込んでもらう。これでJDFのフォーマットそのものと中のタグ確認を行なう。
(2)ホットホルダー(H):共有ホルダーによる方法でデータの取り方は共有ホルダーを定期的にチェックして(ポーリング)、コンピュータで読み込みを自動処理する。
(3)HTTP(J):JMFメッセージをHTTP(インターネット)でやり取りする方法。
この3種類で行われた。
 各社の製品はまだ、Fしか対応してないものからF、H、Jすべてに対応しているものまでいろいろな対応状況であった。フロリダでにテストのときに比べて2月のスイスではかなりHTTPで対応しているベンダーが増えているようであった。

基本的なデータのやり取りはまず、ジョブ開始前に指示としてJDFが来る。
ジョブの実行中にはJMFというシグナルメッセージで機械の状態をMISに返すが、これには印刷機械の回転数や何枚刷っているかなどの状態が定期的に返ってくる。さらに管理の為に1時間に1回づつ、現在の生産状況を含めたJDFをそっくり入れてMISに返す、というのも今回、議論されていた。

ジョブの終了後はジョブの結果を例えばセットアップは何時〜何時までとか、印刷は何時〜何時までとか、印刷は何時〜何時までやったとか、その間止まったのはどこか、結果いつ終ったかなど生産側のすべての情報を含んだJDFをJob終了後にMIS側に返す。MIS側は、それを取り込んで管理、原価管理や、コスト管理などに使用する。
互換性テストはテストのためのテストという側面もあり、営業上は通常は組まないようなベンダー同士の互換性テストも行われているという。しかしベンダーにとっては競合があったりや取引関係が無くても、ユーザーである印刷会社にとってはそれらを設備していることも十分ありうるので、技術者同士がいろいろなベンダー間で互換性をテストしてくれることは望ましい。例えば大日本スクリーンはESCOgraphicsのFirstLaneやハイデルのSignaStationなどの面付けソフトとの互換性テストも行っている。
国内ベンダーにとってやはり難しいのは海外ベンダーとのテストで、幾つかJDFの内容などに指摘を受けたり、お互いに仕様書の理解が違うが故に、すれ違っている点なども見つかったりするという。

テストではお互いに最新のモジュールを持ち込んで、JDFを送信したり、シグナルというJMFでメッセージを受け取って、問題がないかチェックする。ぶっつけ本番でテストをやってみると、お互いに基本的にはJDF対応していると言っても、対応のレベルがいろいろあるので、あれこれ不具合も見つかる。これをソフトウェア開発にフィードバックしてどんどんソフトの完成度を上げていく。
2月スイスでのテストではdrupaが近いこともあって新製品も含めてテストされており、大日本スクリーンではプリフライトした検証つきのPDFを格納できるという商品もテストに持ち込んでいるが、これはJDFでインテントを作れるので出力の指示が、MISからも出せる商品なので、RIPベンダーやMISベンダーとの互換性テストも行なわれた。

現在、JDF仕様書(バージョン1.2)は英文900ページ近くにもなっていて、初めから読むのは至難の業になっている。そこでより早くJDF対応ができ内部検証がし易いように整理された工程別仕様書とも言えるICS(インターオペラビリティ・コンフォーマンス・スペック)が整備されつつあり、昨年10月以降はMIS−プリプレス、MIS−印刷、MIS−デジタル印刷などの、特にJDF対応のMISの開発が加速されるようになってきた。
ICSの構造は一番下にベースコンフォーマンスレベルICSあり全部に共通する定義が書かれている。その上層にMISに関連しないICS、デジタルプリンティング、ポストプレスのICSなどがある。

スイスの互換性テストは5日間行われたが、その中でもどういうICSのスペックを理想とするか、MISベンダー、プリプレスベンダー、印刷、後加工ベンダーそれぞれの立場から、ICSはこうあるべきだという議論がされた。現状のICSバージョンは1.2で、まだやわらかいところはたくさんあるという。

また、当初はMISからJDFによって、仕事の内容が確定した時点でプリプレスにも印刷にも別々に指示を出して、あとはプリプレス、印刷間でプレビューデータ、パイプという形で渡していただけたらいいとなっていたのだが、時間軸で考えた時にMISが最初から、プレビューデータのファイル名も分かって、出てくる刷版のIDも分かって、何もかも分かってJDFの指示を出すのは難しいということになった。そこで、仕事の受注が入った時点では印刷側には予約という形で、細かいパラメータを入れずに時間の予約だけして、別途、製版の指示はプリプレス側に出しておく。その後で、製版が終った段階でもう一度、印刷側には印刷指示の上書きをして刷版のIDとかプレビューファイルの在りかをわたす、という2段階の指示にしないと、うまくワークフローは動かないというような議論になっている。

また、JDFスナップショットというものを要求して、JDFチケットを実行している状況を逐次MIS側へ報告を求めるような内容が追加されている。これも、殆どの項目が、原価管理、生産側でどれだけの原価が掛かっているのかというのを、より精度を高く集めてくるための手法のひとつである。こういった流れでJDFの仕様はどんどん詰められておりJDFバージョン1.2という仕様書が、ほぼフィックスされていて近日中はCIP4非会員にも公開されていく。

実際に日本側で開発したJDFのファイルを、特に欧米の印刷機メーカーに渡すと、幾つかすれ違う点として、例えば紙の指定が欧米はグラム/平方であるが日本では連量指定が一般的など商習慣の違いなどから来るものがある。また、印刷工程の指示ではワークスタイルというパラメータを記述するが、選択肢には6種類あり、片面、両面、反転方法などの組み合わせの名称がシンプレックス、ワークアンドパック、ワークアンドタンブル、ワークアンドターン、ワークアンドツイスト、パーフェクティングとなっている。これを日本語訳しただけで、実際に日本の事情に合っているか、印刷オペレータに分かってもらえるのかという確認もこれから必要である。そして、このような日本の事情とJDFの仕様のギャップを、CIP4の議論の場に挙げていく必要があるという印象をもっている。

今回のスイスでのインターオペラビリティのテストの前に、「GrayBox」という新しい考え方が出てきた。これは特にプリプレスはどういう処理をするかというパラメータの種類が非常に多くて、MIS側で詳細なプロセスやパラメータをすべて記述して、JDF対応機へ渡すというのは、非常にむずかしいということへの対応であり、MISとデバイス(プリプレス機器や印刷機などのこと)の間におかれるBoxである。プリプレスの工程管理の難しさは世界共通の悩みのようである。
プリプレスにはトラップ情報や面付け情報、色のICC情報などあるが、これらも全てMIS側で用意するかという議論はあり、これらのものは中間に置いたGrayBoxで対応するという考え方である。つまり、プリプレス側の細かいパラメータはグレーなまま、刷版何枚出しなさいというような大雑把な指示だけで、あとは、ワークフローRIPの製品に処理はまかせてしまうというような指示が可能になる。こういう指示の仕方は、印刷や後加工でも使われるのではないかと思う。
印刷では基本的には、MISからJDFが来るが、プリプレスからはリソースコマンドメッセージという、刷版の情報やインキキーの開き度に換算するプレビューデータが来る。印刷におけるGrayBoxの役割は、プレビュー画像からインキキーの開き度を計算する、プロセスや実際に印刷するプロセスに必要なものが含まれるようだ。
GrayBoxは完全に結論はでていないが非常に議論が活発になっている。

もうひとつ「NewJDF」というコマンドが新設された。これは仕事の指示、JDFの発行というのは、いままではMISからデバイスという、上から下へという方向しか規定はなかったが、今回はじめてデバイス側からアクションを起こして新しいJDFを作る、あるいはIDを割り当てるというリクエストができる仕様が追加された。この必要性は夜間とかに飛び込みの仕事が入ったとかいう想定で、要はプリプレスの方で新しいジョブを設定できるということで考えられたコマンドだと思われる。ただ、このコマンドについては非常に議論になっており、デバイス側から受注なしに新しい仕事が勝手に発生するとなると、原価管理の精度が保障されなくなるということで、MISベンダーからは強い反対が出ている。

drupa会場のCIP4主催ブースでは22社のベンダーがJDF対応システムを持ち寄ってデモンストレーションを紹介することになっている。
また第5回インターオペラビリティテストはクレオ本社があるカナダのバンクーバーで2004年6月12日〜16日に、その次は大日本スクリーンの京都で2004年10月25日〜28日に行う予定である。日本の事情にあったICSとかJDFのスペックというのは、なかなかこの議論から外れやすい対象なので、活発に議論して盛り上げることが必要である。

(第2回JDFフォーラムジャパン会議 2004年3月25日より、文責JAGAT)


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