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eラーニング――高度化するコンテンツと活用スタイルの進化

eラーニング導入企業は着実に増えていて,市場は年間平均15.5%程度ずつ伸びていき,2006年には1491億円になると想定されている(IDCジャパン,2002年の調査)。これが将来性のある大きな市場であることは間違いなく,現に様々な業種が参入しはじめている。印刷業にとっても,既存のコンテンツ資産をマルチユース活用するための大きな可能性があり,ここにビジネスチャンスがあるわけである。
『eラーニング 成長する「個人」 発展する「組織」』(エイチ ・アンド・アイ)の著者で,ITビジネス関連のルポライターである吉村克己氏を講師に迎え,豊富な取材事例を中心にしながら,主に企業研修のためのeラーニングコンテンツの今後について,検討した。
eラーニングコンテンツには,「同期/非同期型」「マニュアル/シミュレーション/バーチャル型」等さまざまなタイプがあるが,これらのどれかに収束するということでなく,場面場面で最適なものが活用されていく形になっていくと,吉村氏は予想する。

eラーニングの現状

先日,ある大手ラーニングベンダーから「最近はダンピングが激しく,値崩れが起きて,もうパッケージコンテンツはもうからない」という話を聞いた。LMS(Learning Management Sysyem)というコンテンツを配信するプラットホームも売れないと聞かされた。
しかしこのことが,そのままeラーニングビジネスがだめになる,ということを意味するわけではないと考えている。
これまではシステムをユーザーのニーズを考えずに販売した結果,あまり効果をあげず,そのまま使われなくなっていくという実態がいくつもあり,それが市場を成長させない原因の一つだった。
こうした初期段階が落ち着きはじめ,ようやく着実に伸びていく段階に入ったと考えている。 その中で,eラーニングに関するユーザーの不満は,圧倒的にコンテンツである。ガートナーによる2003年2月のデメリットに関する調査でも1〜3位までがパッケージコンテンツへの不満となっている。「コンテンツが面白くない」「自分に合わない」「内容に説得力がない」という声が多く,ユーザーはまったく満足していない。
eラーニング市場は,いずれにしてもコンテンツありきなのである。コンテンツがよければ市場は伸びるが,だめだとこれ以上伸びない怖れもある。

コンテンツ制作の事例

オリジナルコンテンツをうまく作っている会社の事例を,以下見ていく。
まず,eラーニングを日常的に使いこなしているNRIラーニングネットワークの事例で,eラーニングの将来的使い方にとってはいいケーススタディと考えている。
ここは野村総研系のeラーニング・ベンダーで,外部にサービスを提供していると同時に,自社内にも早くから導入していて,2001年からポータルサイトを作り,社員にeラーニングを使わせている。
安価に手軽に自分たちでオリジナルコンテンツを大量に作る,という方針でやっていて,現在400本以上のコンテンツがある。
各事業部門,プロジェクトチームなどの人たちが,自分で作りたいと手を挙げたら,どんどん作らせている。
それを自社のポータルサイトに次々とアップし,新しい技術情報,商品情報などの日常流れている情報も全部コンテンツ化して,ポータルサイトに上げている。ゆくゆくはナレッジマネジメント・システムと合体させて,付加価値の高い会社になろう,ということを狙っているのである。 次の事例は,大手自動車メーカーの事例。
系列ディーラーで5000店の店舗を持っているのだが,昔と違い営業マンがユーザ宅を訪問して自動車を売るということがなかなかできなくなってきている。自動車業界では基本的に外回りの営業ではなく店舗で売る方向に変えていきたい,という流れになっている。
これまでディーラーの店長は,客が来るのをじっと待って,来たら説明してあげる,という消極的な役割だったものを,積極的に客を店舗に呼んで買ってもらう,そこで売れるお店にしようということで,5000人の店長教育をeラーニングで実施した。
ここで面白いのは,実施したものが単に知識を記憶させるコンテンツではなく,実践を伴った200枚からのワークシートを問題の中に仕込んでいる点である。
ある仮想的な問題が出題されて,それを店舗スタッフと話し合い,その結果をまとめてeラーニングにアップして返すという実践作業があり,かなり時間のかかるコンテンツを作っているのである。これを通して,店長の意識改革を図っていこうとしている。
成果を上げた店長は全国大会など実際に集まった場で表彰するなどして,リアルの場を併用してモチベーションを高めるようにもしている。
普通eラーニングというと,知識伝達が中心で,ノウハウなどは伝えにくいと言われているが,この場合は,知識伝達よりも共感を作り出し,意識を変えていく上で非常に役に立つメディアだと捉えている。eラーニングの一面を突いている,面白い使い方と感じている。
実際,ユーザ企業ではオリジナルコンテンツをできるだけ安く作りたいというニーズが高まっている。今後,eラーニング・ベンダーが生き残る方向としては,ユーザの安価で学習効果の高いオリジナルコンテンツづくりをどのようにサポートするかが,重要だろう。
NECもセミオリジナルというコンセプトを打ち出し,いくつかのテンプレート(パターン)を用意し,ユーザーの要望を組み込み,短期間で安く作るサービスもはじめている。
流れから言えば,パッケージコンテンツが主役の時代は終わりを迎えているのである。

eラーニングの未来

これまでほぼ人事系教育=eラーニングと思われてきたのだが,これからは業務系教育が伸びると感じている。業務系教育の中では,営業マンの商品知識をどうつけるか,コミュニケーション・スキルをどう伸ばすか,SEの技術知識,企画提案力をどうやって上げていくか,という部分に対する要望が非常に高まっている。
また,ミッションクリティカルと言うが,全社的に緊急に解決を要する課題が発生し,全社員を一斉に教育する場合,eラーニングは非常に効果的だ。今後こうしたニーズが増えてくるように思う。
もう一つの流れは,情報共有で使っていく方向である。eラーニングのプラットホームを使って,ナレッジマネジメントに結びつけていく方向である。
また,企業研修以外で今後かなりニーズが出てくると思われるのが,学校教材の電子化である。 アメリカの大学などでは学校教材の電子化が進んでいて,複数のデジタル化されたコンテンツを各生徒に合わせて一本のコースにまとめ,それを印刷会社に刷ってもらう,という形をとっている。一種のオンデマンド出版である。紙で学ぶのだけれど,その元は電子テキストだ。おそらく日本の大学などでも,今後,こうしたニーズが増えてくるのではないか,と考える。

(通信&メディア研究会)

『JAGAT info 2月号』より

2004/02/17 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会