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「印刷側の都合」から、「需要側の都合」へのシフト

印刷物の制作方法は技術の進歩に沿って多様化したが,印刷物を売るビジネススタイルは根本的には変わってこなかった.印刷物の発注者に印刷営業が出向いて原稿を預かり,見積もりや納期の折衝をして,納品・請求をするという流れである.しかし印刷の制作方法の多様化では,電子写真やインクジェットなどオフセットとは異なる新方式によるものだけでなく,オフセット印刷においてもDI機のようにプリンタに近い操作性のものも産み出し,従来とは異なる印刷ワークフローを可能にした.逆にみると多様化したさまざまな印刷方式を駆使してビジネスを拡大するには,印刷物を売るスタイルそのものも再検討する必要があるということだ.

さらにもう一つの変化は,多様化が発注者側の選択の幅を広げたことで,従来なら印刷作業のスケジュールなど「印刷側の都合」が優先していた取引交渉が,「需要側の都合」の方に引っ張られるようになったことである.現在は取引価格の乱れがあるように言われるが,これは「作る側の論理」と別に「買う側の論理」がアタマをもたげてきて,意識のすれ違いが起こっていることも底辺にある.

今後は双方の論理をつき合わせて,新たな秩序ができることになろうが,価格は何通りにもなるであろう.今までは新たな印刷手段が出ても価格は従来の相場どうりに引き込まれていたが,サービスや品質の差がはっきり異なれば,それが価格に反映する方向に向かうだろう.

このような品質・サービス・価格のバランスは,ある発注者の仕事を特定の印刷会社が集中して受注しているような関係では難しく,発注者の要望にあわせていろいろな印刷会社がそれぞれ得意なサービスを提供するような関係にならなくてはならない.そういう取引関係のオープン化に向かわせる力はECにあるし,それに供給側が呼応できる体制としてJDFの導入がある.

取引は長期契約に基づくパートナーシップ的な関係で行われるものがベースであるが,その他にスポット的な発注も出てくる.だからメインの仕事はメインの印刷会社に発注していても,その印刷会社で対応できにくい仕事を別のルートで調達することを,発注者側が同時平行でコントロールできる仕組みとして,発注者側はECを導入することになる.そこでは発注者側の業務スケジュールと印刷側の業務スケジュールの突合せも,営業や工務を介在させるのではなく,双方が直接に情報共有できるようにして,お互いに無理のない作業を計画し,リアルタイムに協力し合える環境をECで構築することになる.

ECで顧客を囲い込むことはできず,むしろ「買う側の論理」を取り入れないとECは前進しないし,またJDFも生かされない.JDFは最初は生産管理的応用からスタートするだろうが,経営戦略的な位置付けができるものへと発展していくだろう.

テキスト&グラフィックス研究会会報 Text&Graphics 215号より

2004/03/13 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会