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色,画質の標準化動向と複写機用カラーテストチャート

 色や画質評価,あるいはカラーマネジメントに関連した標準化活動が各方面で活発に行われている。ICC(International Color Consortium)やCIE(Commission Internationale de l'Eclairage ; 国際照明委員会),ISO(International Organization for Standardization ; 国際標準化機構)やIEC(International Electrotechnical Commission ; 国際電気標準会議)では,印刷,写真,オフィス機器,マルチメディア機器等の分野ごとに審議を進めている。

 色や画質評価に関する国際標準化の最新動向や,ISO/IEC15775規格に準拠した複写機用カラーテストチャートについて,富士通研究所 臼井信昭氏からお話を伺った。

インキの定着:耐性評価に関する国際標準化(ISO/TC42)

 写真分野の国際規格を検討する委員会であるISO/TC42ではインキの定着,耐性評価に関する国際標準化の動きが始まっている。2003年6月18日にISO/TC42/WG5で新課題提案されたもので,Humidity Fastness(対湿度保存性),Indoor light stability(室内光保存性),Fingerprint(指紋保存性),Outdoor Durability(室外光保存性)などを協議することになっている。

 日本では,写真感光材料工業会が中心となり,JBMIA(社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会)も参加し協議する。富士写真フイルムやコダックといったフィルムメーカーだけではなく,最近ではデジタルカメラで撮影してプリンタから出力することが一般的になっているため,インクジェットプリンタメーカーも関わっている。耐性評価が規格化された場合には,評価結果を一般コンシューマにも知らせることになる。これはプリンタの評価と直結するのでプリンタメーカーは営業的にも無視できない。今後の審議進捗に注意が必要である。

CIELABSCID国際規格化(ISO/TC130)

 SCID(Standard Color Image Data)とは,印刷等における作業の標準化や符号化特性の評価等を行なうことを目的に,日本で検討されたものをベースに国際標準化された標準画像データセットである。日本語名では「高精細カラーデジタル標準画像データ」とされ,英語名ではGraphic technology-Prepress digital data exchange-CMYK Standard colour image dataと言う。当初は印刷分野の国際規格を審議するISO/TC130のWG2の支援のもとに,日本の画像処理技術標準化調査研究委員会によって,1995年10月作成されたものである(ISO 12640,JIS X9201-1995)。これは主に製版印刷業界用の評価用標準画像としてCMYKデータで作成された。そのため今ではCMYK/SCIDという呼び方をする。

 その後,デジタル画像を扱うデバイスが急速に増えるとともにカラーマネジメントの概念が浸透し,標準画像のカラースペースがCMYKというデバイスに依存するものでは都合が悪い場合があるという声が出てきた。そこで,CIELabベースの標準画像が規格化されつつある。現在,最終国際規格案FDIS(Final Draft of IS)という規格制定の最終段階まで進んでいる。
 CIELAB/SCIDの評価画像はすでに完成し,絵柄はCMYK/SCIDとは異なり色域も従来より大幅に拡大している。CIELAB/SCIDの画像をモニタ表示したり印刷するには,ユーザがRGBデータやCMYKデータに変換する必要がある。この際,色分解や色域圧縮を伴うが,その責任はユーザが負うことになるのでデータの扱いには注意が必要になる。また,今後「SCID」という場合には,CMYK/SCIDかCIELAB/SCIDかを明確にしないとトラブルになる可能性がある。

複写機用アジア版カラーテストチャート(ISO/IEC JTC1/SC28)

 JTC1(Joint Technical Committee 1)は,ISOとIECのそれぞれの情報技術部門を統合し、再編して設置された技術委員会で,情報処理分野の標準化を担当している。JTC1のサブコミッティであるSC28専門委員会では,「複写機・プリンタ・スキャナ・ファクシミリ等,通常のオフィス環境で使用される事務機械およびこれらの組み合わせにより構成されるシステムの基本特性・試験方法,その他これらに関連する事項の標準化」を担当している。国際組織はSCのみであるが,国内では,WG 2(プリンタ),WG 3(複写機),WG 4(画質評価),WG 5(リサイクリング),WG 6(カラーマネジメント),WG 7(消耗品)のワーキンググループを編成して活動している。

 カラーマネジメントに関しては,ICCプロファイルを使用することにより解決されるが,画質に関しては未だ議論が十分ではない。そこで,複写機ではあるが,色を含んだ画質を評価するための方法を規格化しようとする動きがある。
 ISO/IEC JTC1/SC28がISO/IEC15775として1997年に提案したカラーテストチャートは,ドイツが自国のDIN(ドイツ規格協会)規格を強行にISO規格としようとしたもので,当初からいくつかの問題点が指摘されていた。例えば,グレイスケールやカラーパッチのチャートにドッドスクリーンではなくラインスクリーンが使われていたり,解像力の評価に今ではあまり使われることのないLandolt-rings(視力検査に使われる一方向だけ切れた円)が使われていることや,2バイト文字が一切入っていないことがあげられる。

 また,ドイツはFast track投票(Fast-track procedure,ISOでの迅速法による規格作成手順)やBRM(Ballot Resolution Meeting ; Fast track投票後に開催される投票結果調停会議)など,あらゆる標準化手段を用いて国際規格化しようとしてきたが,日本が技術的な議論を中心としてこれに抵抗したため,最終的にはアジア版テストチャートが国際規格となった。
 そこで日本では,ISO/IEC15775規格の内容や書式を改善し,かつアジアを含め国際的に活用できるカラーテストチャートを開発した。このチャートは2003年に国際規格として制定されており,JBMIA(http://www.jbmia.or.jp/)より購入することができる。

プリンタの工程管理手法

 プリンタの出力品質を管理するために必要な要素技術を定義し規格化する動きがある。画像を印刷する際には,シアン,マゼンタ,イエロー,ブラック(スミ)の各色成分ごとに,濃度を色材の定着する面積に変換する必要がある。この変換に際し,網点化という技術が用いられ,変換の対応関係を示す網点が重要となる。プリンタでは伝統的にディザパターンと呼ばれる。

 一般に,プリンタは機種ごとに少しずつ印刷特性が異なっており,使用する網点によって画質に差が出る。例えば分解能(印刷機,プリンタなどで用いる解像度の単位)が同じであれば,同じ網点を使用すれば良いということにはならない。プリンタの特性に応じた網点の選択が必要で,適切な網点を設定すれば画質が大きく向上することもある。

 印刷では,出力画像品質を使用するディザパターンを変更し,ドットゲインをコントロールすることで管理するというのが一般的である。しかし人により考え方が異なっているため,定義などを統一する必要がある。このときのパラメータ(網点形状,線数,角度)の測定方法などを規定するのが,このプリンタの工程管理手法という規格の目的である。

(テキスト&グラフィックス研究会)

2004/03/26 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会