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ダイレクトメール・関連性のメディア

〜ポスタルフォーラム2004基調講演報告〜

米国ワンダーマン社名誉会長 レスター・ワンダーマン氏

DMビジネスショー,ポスタルフォーラム2004が2月3日から6日に渡り,池袋サンシャインシティにて開催された。3日間で展示会には約21,000名,コンファランスには1,250名という多数の方々が参加された。今回は国内初のイベントでもあり,開会式には田端総務副大臣,日本郵政公社 生田総裁等,各界から著名人をお迎えした。コンファランスは基調講演を含み39セッションの規模で実施されたが,本稿では6日の基調講演の概要を紹介する。講演者は,ダイレクトマーケティングの父として知られているレスター・ワンダーマン氏である。氏はマスマーケティングが主流の1991年にダイレクトマーケティングという言葉を提唱され,今日に至るまでその普及活動に多大な貢献をされて来た。顧客とのコミュニケーション手段としてダイレクトマーケティングの考え方は欧米では非常に普及している。需要より供給量が多いという状況を考えると日本国内でもこれから大いに普及促進がはかられる事が予想される。印刷業界にとっても広告代理店やクライアント側のこの変化を把握し,特にDMビジネスを拡大するという営業の観点で本稿を参考して頂きたい。


電話発明以前の昔は,郵便が距離に関わらず,ビジネスや個人的な目的で互いに連絡を取り合うための唯一の手段でした。郵便は話す事を別とすれば,最も古いコミュニケーション手段です。郵便は今日私たちがワンツーワンコミュニケーションとして考えているコミュニケーション手段なのです。手紙はいつもある種の情報や知識を含んでいます。例えば,あなたが購入した物の支払い請求書,広告,子供の誕生案内,ラブレター等々様々な情報を含んでいるのです。手紙の最も優れた機能は,特定の個人宛に関連する情報,個人的な書類や法的な文章を送り届ける点にあります。すなわち,本来,知識ベース,情報ベースの媒体であると言っても良いのです。

しかし最近ではメールの果たす役割が変わってきました。ダイレクトマーケティングやDMは商業やコマーシャルコミュニケーションの世界で最も成長し,最も効果的な手段となったのです。従来の手紙や電話といったメディアだけではなく,インターネットやWWWにもめぐまれて急成長をとげたダイレクトマーケティングはコミュニケーションビジネスに競争を作り出したのです。そして同時に,新しいビジネスチャンスも作り出しました。

DMは広告業界が作り出したメッセージを伝達する知識ベースのマーケティングツールです。しかし,DMは多くの人々から時代遅れのコミュニケーション手段と思われているようです。DMの本来の役割を知らない人々はbelow the line ビローザライン(4つのマスメディア以外)のメディアとして他と区別している様です。しかしTV,ケーブルテレビ,衛星放送,ラジオ,雑誌,新聞,電話,インターネットなど,より華やかで現代的で,より技術的であると考えられているメディアは,手紙やメールが有するアドレス可能なコミュニケーションという特徴や継続的な価値といったものを持ち合わせていないのです。

広告制作に携わっている私達は,10秒または30秒のコマーシャルで伝える事ができる知識というものが如何に僅かであるかを認識しなければなりません。そのようなコマーシャルは消費者に知識を与えるのではなく消費者の態度に影響を与えようとしているのです。実際の所,広告の大きな仕事は常に消費者の知名度を上げ,その態度に影響を与える事とされて来たのです。そのような広告を批判するつもりはありません。それぞれの役割があるからです。しかしラジオやテレビの短いコマーシャルは知識社会の一部とはなり得ないでしょう。また最も新しい媒体であるインターネットには情緒や情熱が欠けています。以上から郵便が今でも,そして将来にもわたりデータベースコミュニケーションシステムの根幹をなすものとなるでしょう。

ここで各メディアがコスト効率やデリバリー効率で世界的レベルで競争している事を頭の中に入れておかなければなりません。この要求を満たせない様であればDMのもつ本来の機能が脅かされる事になります。正しく理解し利用すればDMは最も現代的なメディアとなるのです。DMは名前でデータベース化され,内容に関連性があり,個々に家庭や会社へハードコピーとして配達される唯一のものなのです。インターネットを除く他のメディアは産業革命の副産物であり,マス生産,マス流通,マスマーケティングそしてマスメディアに乗せるマス広告なのです。こうしたマスメディアの目的は昔も今も可能な限り,安価な安いコストで最大限の人々に同じメッセージを伝える事でありました。こうした環境下では,マスメールと呼ばれるものでも制作し取り扱う費用をかけるという事は効率の良くない選択とされるでしょう。DMをその様なマス領域で比較競争させてはいけないし,すべきではないのです。

効率の良いDMは情報ベースです。他の従来メディアと違い,一人一人に異なる関連性のあるメッセージを1回に1通ずつ配達できるのです。知識ベース及びデータベースの媒体としてDMは知識経済の一部なのです。DMは関連性の観点から2つの特徴を持っています。第一は受け手によってメッセージを変えられる事です。例えば請求書や個人的な手紙がこれに相当します。第二は,あるメッセージを作成し,これをデータベースによって関連性があるとされる消費者層に届けられる事です。しかし発送業務のカスタマイズが個々によるものかマスなのかは関連性を作り出す基礎データの正確性に依存します。この点にDMの費用を正当化するパーソナライズのビジネス機会があり,この事によりDMは効果的で費用対効果の高いメディアとなるのです。 とても興味深い事ですが総広告費が減少している時でさえDMは成長し続けています。また今後も成長し続けるでしょう。概して総広告費は景気に左右されがちです。しかしDMは最も悲惨な経済状況下以外のいかなる経済状況下でも成長していきます。ダイレクトマーケティングがこれからも普及・成長し続け,マーケティングや流通の重要なパートとなるからです。

広告の使命は変化しています。顧客を獲得する方法は,ブランドの常連客が繰り返し購入する忠実なロイヤルカスタマーを創出するコンセプトに取って代わられています。今,私達は試し買いをさせるよりはむしろ反復購買をさせる方に力を入れているのです。現代では製品やサービスを作り販売している企業と,現在あるいは将来の顧客との間でたえず交わされている知識ベースのやりとりこそが重要なのです。従来の広告の様に,製品に対する認知,あるいは好意的な態度を作り出すという時代はもう過ぎ去ったのです。広告やプロモーションの焦点は見込み客や試し買いの創出をするという事から顧客の新規獲得,及び顧客の維持/リテンションへと移っているのです。顧客の現在そして将来の行動だけが企業のマーケットシェアの増減や現在または将来の収益に大きな影響を与える事ができるのです。

これまでの人の記憶や文書の記録に依存するといった対面的な(フェイストウフェイス)のやりとりとは違い,今や売り手も買い手も,電子化されデジタル化された履歴,これまでの取引の詳細や総計,顧客を導き獲得に至ったダイアログ等,最新で複雑なデータストーレージを使ってやり取りを行っています。このデータを収集し,アクセスしそして分析する結果,マーケティングや広告メッセージの内容,文脈が変わります。誰が受け手となるのか全く分からない過去のマスコミュニケーション,一つのメッセージで全てをこなすその過去のマスコミュニケーションに変わり,今では顧客を見込み客から選別する事ができるし,また顧客や見込み客を大衆一般から選別する事ができるのです。そして今ではほぼ正確に個人個人,または消費者層それぞれの潜在的な生涯価値を推測する事ができるのです。良いコミュニケーション戦略とその実行能力により私達が望めばわずか1人の顧客とでもコミュニケーションをとる事ができます。郵便料金別納の返信郵便,フリーダイヤルやホームページを有効に利用する事もできますので一般の人々は私達のメッセージに返信する事や反対に彼らの側からコミュニケーションを簡単に始める事ができます。私達は,一次情報の配信といったシンプルなものから有る程度の関係構築ができるよう,より複雑にデータベース化された対話情報を深くも浅くも配信できるのです。これらについてはCRM(カスタマー・リレーション・マーケティング,顧客関係マーケティング)として知られているものがあります。しかし私はこの様な考えに反対致します。もしCRMがカスタマー・レレバンス・マネジメント(顧客関連性マネジメント)を意味するのであれば私は納得できます。

何故なら利用製品やこれを作り販売している企業と消費者が関係を持ちたいと考えているとは到底思えないからです。私は使用しているコルゲートの歯磨粉や歯ブラシにはとても満足しています。だからといってコルゲート会社等と関係を持ちたいとは思いません。私が必要とする関係は,私の妻,家族,会社ご近所,そして我が国であり,それが全てなのです。私は歯ブラシや石鹸やトマトスープやソーセージ,マスタードなどに身を捧げるつもりはありません。同様にマーケティングに携わる人達の中で[ロヤリティ]という言葉についても誤った使い方が見られます。ロヤリティというのは本来[忠義]の一種です。私は国に対してロイヤルです。多くの人がそうである様に,私の命を捧げても守ろうとするでしょう。私は自分の家族に対してロイヤルであるし,彼らの幸福の為に自分自身を犠牲にする事もあるでしょう。私は自分の信仰に対してもロイヤルですからそれを攻撃する人には悲しい思いを致します。もう一度いいますが,歯ブラシ,歯磨き粉,トイレットペーパ等にも同じ様にロイヤルでいる事ができるでしょうか?私は自らがロイヤルでありたいと思う[人々]や[組織]に感情移入をしますが,自分で使っているブランドや製品・サービスに対して忠誠の感情などありません。私は好きな製品やサービスを購入します。それも幾度となく。何故なら,私のニーズ,好み,ライフスタイルを満たしてくれる良い製品であると認めているからです。私にこうした[満足感]を与えてくれる限り,私は同じ商品を購入し続けるでしょう。間違ってロヤリティと呼ばれている機能と刺激について簡単に4つの[R]ではじまる言葉で説明したいと思います。それは[Relevance]関連性,[Relationship]関係性,[Repurchase]再購買,[Retention]顧客維持,の4つです。これら4つの情緒的な結果が満足感なのです。ロヤリティではなく,この[満足感]こそが成功事業が維持し続けなければならない事なのです。

最後になりますが,著書(『Being Direct(売る広告への挑戦)』:電通出版)で私はダイレクトマーケティングで成功する会社の19のルールを挙げました。詳細は省きますが以下簡単に紹介致します。

1. ダイレクトマーケティングは戦術ではなく戦略である。価値ある顧客を獲得し,維持しようとする意思である。
2. 主役は製品ではなく消費者でなければならない。製品はそれを使用する消費者一人一人のために価値を創造しなければならない。
3. 個々の顧客や見込み客に対して1人の対象としてコミュニケーションを行う。一般広告もよりターゲットを絞ったダイレクトマーケティングも,どちらも総合的なコミュニケーション戦略の一部である。
4. 「なぜ私に?」に答える事。見込み客や顧客の理性と感性の両方を納得させる答えを提供し続ける。
5. 広告は消費者の態度だけでなく,行動も変えなければならない。利益を生み出すのは,問い合わせ,購買,反復購買など説明できる具体的な消費者の行動である。
6. 次の段階・利益を生む広告。広告の成果はますます測定可能になっており,広告は単に行為を形成するのみではなく利益を生む為の計測可能な投資でなければならない。
7. 「ブランド体験を作る」。ブランドはコミュニケーションを含む全ての面で継続的に深い満足を顧客に与えるものでなければならない。
8.関係を創造する。買い手と売り手の関係が良好であればあるほど,利益は大きくなる。
9. 個々の顧客の生涯価値を知り,投資する。ロイヤルカスタマーに投資する。
10. 不確定見込み客は見込み客ではない。不確定見込み客とのコミュニケーションは単に広告費の増大につながるだけである。
11. メディアはコンタクト戦略である。大切なのはメディアから得られる測定可能な結果であり,関係構築を始められるのはコンタクト,消費者との接触だけである。
12. 顧客にアクセスできる体制をとる。顧客のために常に待機している事。彼らのデータベースとなり,情報源となりできるだけ多くのコミュニケーション手段を通じてサービスを提供する事。
13. 勇気を出して双方向の対話を始める。消費者に対する一方通行の広告から双方向の情報共有に改める。
14. 言葉には出なかった「いつ」を学ぶ。正しい方法で問ねれば,消費者は何時買うか教えてくれる。
15. 売りにつながる広告カリキュラムをつくる。
16. ロヤリティを高める意図のもとで顧客を獲得する。正しい顧客はプロモーションが提供するオファー,特典,ではなく製品自体の価値によって獲得されなければならない。
17. ロヤリティは継続的なプログラムである。全ての面で満足している顧客は離脱せず単に満足している顧客が前触れもなく離れる。
18. マーケットシェアではなく,ロヤリティに基づくカスタマーシェアが利益を生む。既に確保している有力顧客にもっと金を費やす。
19. あなたの価値は持っている知識の量によって決まる。知識があってこそ成功が約束され,失敗が最小限にくい止められる。企業はもっている知識の範囲以上の存在になり得ない。

ダイレクトマーケティングの理論とこの19のルールはきっと皆様のビジネスでお役に立つはずです。これらを活用し,成功される事をお祈りいたします。本日は御静聴ありがとうございました。

以上,一般論でない非常に鋭い理論展開で聴衆を魅了した講演であった。

2004/05/02 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会