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想像してみよう!将来の生産システムの姿

Drupa2004は「JDFのDrupa」になると言われている。JDF対応システムの第1段が一気に紹介されるだろう。しかし、それらを見ても、何故、JDF、JDFと騒ぐのか理解できないだろうし、自社として何を買ったらいいかよくわからないということになりかねない。JDFを使った全体最適化は、従来とは異なる要素を組み合わせて実現するものであり、各社が、5年後、10年後に自社が目指す姿を描いていなければ、ひとつひとつの製品の評価ができないからである。

全体最適化が目指される背景

DTPのデジタル化が目的としたのは,紙面の中の要素をデジタルで扱うことであった。したがって,印刷物の設計・見積,その作業分担,素材の管理,工程間のデータ受け渡し,次工程に対する指示などは,アナログ時代と同じように人間が関与して行っていた。
紙面のデジタル化が完了し、印刷機の自動化が機械単体としてはほぼ到達点にきた今日では,従来の個別工程内での生産性向上努力で得られる成果は少なくなっていく。そこで,各工程にまたがるコントロールをうまく行い,印刷物制作・製造全体を見渡してのボトルネックの排除,生産に関する情報伝達の効率化など,生産性向上の視点を変えなければならない。これからは、CIMやEDI(Electronic Data Interchange)による全体最適化が目指される。

CIMとは、コンピュータ支援製造(CAM:Computer Aided Manufacturing)、コンピュータ支援設計(CAD: Computer Aided Design)およびコンピュータ支援管理(CAP: Computer Aided Planning)を共用データベースによって統合したコンピュータ統括生産システムである。
現在の印刷に即して言えば、コンピュータ支援設計とはフルデジタル化されたプリプレスでのデータ作成であり、ここで作られたデータとコンピュータ支援管理、つまり管理情報システム(MIS: Management Information System)で作られた日程計画、作業割り当て情報に基づく生産設備の運転指示によって、自動化された印刷、後加工機をコントロールする。これがCIMである。また、生産機械の稼動状況に関する情報は機械から直接管理情報システムに送られてリアルタイムでの進捗把握やその後の生産性分析や各種の経営判断資料として活用できる生産システム、と言い換えることができるだろう。このようなプリプレスシステム、印刷・後加工機、管理情報システム間のデータ交換フォーマットがJDFである。

全体最適化が目指す印刷物生産のビジョン

CIM/EDIそしてMISによる全体最適化の全体構成と情報の流れは図のようなものだが、そのシステムでは次ぎのようなことも可能である。

得意先の印刷物発注担当者が、あるマニュアル500部を倉庫から出して必要な部署に送った。その担当者は、資材の在庫管理のコンピュータに500部使ったことを入力する。その資材管理のコンピュータはそのデータに基づいて在庫数量を変更するが、その部数は180部となった。実は、この得意先と印刷会社ではマニュアルの在庫が200部を切ったら再版を発注するという取り決めをしてある。したがって、得意先の資材管理コンピュータはその取り決めにしたがって、自動的に印刷会社の受注・販売管理のコンピュータにあらかじめ決めておいた一定量のマニュアルの印刷発注を行う。印刷会社の受注・販売管理のコンピュータは同社の工程管理のコンピュータに仕事を受注したことを自動的に伝える。工程管理のコンピュータは、受注したマニュアルのプリプレスデータを、各仕事のデータファイルを保管してあるコンピュータから呼び出し、そのデータと製造指示とをデジタル印刷機に送る。デジタル印刷機はそのデータと製造指示にしたがってマニュアルを印刷・製本して製品を仕上げる。デジタル印刷機は、印刷製本が終ると、それが終ったという情報を工程管理のコンピュータに自動的に伝える。連絡を受けた工程管理のコンピュータは、契約している配送会社の受注管理のコンピュータに出来あがったマニュアルの配送依頼を、これも自動的に行う。

人間の介在は判断のみ

上記の流れの中では、流れの節々で、確認、承認といった人間の判断を受ける形になる。得意先の在庫管理コンピュータが印刷会社に発注するときには、まず最初に印刷物発注担当者にメールを送り、発注しても良いかどうかの判断を促すことになるだろう。印刷会社の方では、発注情報を受けた受注・販売管理のコンピュータは営業マンの携帯にメールで受注したことを伝えて、担当営業マンの承諾を得て工程管理のコンピュータに受注連絡をするだろう。工程管理のコンピュータは、デジタル印刷機の作業予定を参照していつ印刷が完了するかを調べ、その結果を受注管理・販売のコンピュータに伝え、それはさらに担当営業マンにメールで伝達されて生産開始がOKか否かの判断を受けることになる。営業マンがOKを出せば、受注管理のコンピュータは得意先のコンピュータにいつ印刷が終る、あるいは納品できるという情報を自動的に送るということになる。

いま、考えてみること

以上のように、CIM/EDIとMISによる全体最適化とは、外部組織を含めた経営管理の各コンピュータアプリケーションと各種生産設備のコンピュータ間でデータを自動的に縦横に流通させ、さらに情報処理や機械設備の運転を自動化することである。このような自動化は、全ての企業で実現しなければならないこともないしできることでもない。
ここで考えていただきたいことは、いろいろな自動化の要素から成り立っている全体最適化のビジョンの中で、自社で実現する部分はどこかを想像してみることである。その時には、上記のビジョンでわかるように、CIP3対応のインキコントロールのような生産現場の合理化効果よりも受発注や社内のコミュニケーション合理化の部分でより大きな効果が得られるという点を理解しておくことである。現時点でも、上記で示した自動化のなかの「リピート品の受発注」、「メールによる各営業マンへの完了報告」、「EDIではないがコンンピュター to FAXによる配送指示」を行っている会社がある。コンピュータ to 携帯による配送合理化はいくつかの会社で始めている。

(「JAGAT info 2004年4月号」より)

2004/04/26 00:00:00


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