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メディアビジネスの職場は社外にあり

たいていの情報がパソコンやネットで整理・加工して発信される今日では、印刷物の制作に関わっている立場の人は、そこからさまざまなメディアビジネスへの接点を見つけられるはずである。かつて印刷産業はデジタル化によって情報処理やコンテンツ加工などソフト化・サービス化が促進し業務拡大するともくろまれていた。しかし現実には従来から情報発信に深く関わっていた出版・印刷分野から新たなメディアのビジネスを立ち上げた話は滅多に聞かない。

技術的に可能だ、という話と、どんなビジネスがしたいか、は別である。デジタル化をビジネスチャンスと感じるか、苦労が始まったと感じるか、の違いはビジネスへの意欲の違いである。出版・印刷という歴史の長い業態は、今日の分業形態に至る過程で教育体制ができ、「棲み分け」や「最適化」がされて、枯れたビジネスモデルになっているので、それよりも効率のよい利益のあるビジネスはなかなかない。これが新たなビジネスを立ち上げてもワリが合わないと考える大きな理由だろう。

新たなビジネスといっても、難易度や利益性はさまざまであり、自分の身の丈に合ったところから出発しなければならない。最も努力を必要とするのが、まだ誰もやったことのない事業立ち上げへの挑戦である。これはうまくいけば「その世界のトップ」に君臨できるかもしれないが、効率も悪く成功率も低く、人の何倍もの意欲に駆り立てられないと続けられない。こういうことをするには、いままでの出版・印刷はあまりにも安定的業種でありすぎた。

全く白紙の縁のないところではビジネスはやりにくいので、既存の隣接分野とパートナーシップで共同事業をする方が立ち上がりが早い。隣接の異業種と交流して、運命を共にする相手を見つけるのである。これには相手を選択する「目」が要求され、関連分野の多くの人脈がないと合理的な判断や付き合いはできにくい。むしろ業者間の連携をうまくまとめる求心力をもった人ならば、どこかのクライアントの要求を満たすように関連業者をコーディネートすること自体がビジネスになる。

ビジネスを興す力というのは、一般的にはもはや純技術やコンテンツの処理能力ではなく、リアルな世界での人間関係をうまく取り仕切る方に比重が移っている。出版・印刷業が新ビジネスを興したければ、社外で活躍できる人間を増やさなければならない。

通信&メディア研究会会報 VEHICLE 180号より

2004/04/04 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会