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「電子自治体」最前線――官民のパートナーシップ化促進で増大するビジネス機会

東京23区に接し人口約17万2,000人(2004年1月現在)を抱える三鷹市は,行政の情報化を比較した『日経パソコン』(日経BP社)「e都市ランキング」で2002年,2003年の2年連続第1位の評価を得ている。
2001年10月にオープンした「三鷹の森ジブリ美術館」はスタジオジブリの属する徳間書店グループ(日本テレビ・グループ)と市との協働化により設立された。情報政策コーディネーター(CIO)の民間登用も行なってきた。
今各自治体は行政の情報化と同時に、民間企業、市民との協働化の促進,市民満足度向上と行政のスリム化の推進が求められている。その中で三鷹市は情報化政策を積極的に事業者に委託していく考え方でいる。
その情報化の推進役である三鷹市企画部情報推進室室長・後藤省二氏(2004年4月より市民部調整担当部長兼市民課長)を講師に迎え,三鷹市の取り組みの全容とその背景について詳細な報告を得た。そして「紙媒体」と「印刷」の今後の必要性に関しての考え方も出された。

IT化、そして市民との協働化の歴史的背景

三鷹市ではITに関して市民の高い関心があるが,これは当時の電電公社(現NTT)が1984年から1986年の2年半程かけて市内で大規模に行なった、現在のISDNの原型にあたるINS実験に起因する。今のブロードバンド,ビデオ・オン・デマンドにあたるものも当時試された。
この実験を通して市民も行政も,市民生活や行政サービスにITがこれから果たすであろう大きな役割に気づかされたのである。
また市民との協働化にも三鷹市は積極的に取り組んできた。それは人口急増期の昭和40年代に始まったコミュニティ政策に遡り,以来30年以上続いている。
その時,今後の行政運営は市民の要求にすべて答えることは難しく,住民自らの力で地域づくりをしていくことが大事だという観点で,市内を7つの「コミュニティー住区」というエリアに分け,住区それぞれに「住民協議会」という住民の自治組織を作った。その活動拠点として「コミュニティーセンター」も作った。ここで他の自治体と違う点は,市で必要な資金は出すが運営は住民にすべてまかせ,口を出さない形にしたということである。運営の専任職員も住民協議会が雇う形である。
住民協議会でできることはやっていく。手に余ることは行政に相談が来、それを解決する方法を住民と一緒に考えていくという市民と行政との間の協働関係が、これらのコミュニティー活動を通してきちんとできてきた。その流れの中で,三鷹市では市民参加型で基本計画「第3次三鷹市基本計画」も作った。

IT活用プロジェクトと実証実験

この「第3次三鷹市基本計画」の最重点プロジェクトの1つにIT活用プロジェクトを掲げた。市政の情報提供における電子化の推進,手続きのワンストップ化,電子自治体の構築,情報格差の是正,個人情報保護条例の見直し,情報政策コーディネーター(CIO)の民間登用,等が盛り込まれた。
この基本計画を受けて,2002年から2003年3月にかけて実証実験もいくつか行なった。国のIT戦略「e-Japan戦略」とも重なった国がスポンサーの取り組みで,その中に「e!プロジェクト」というものがあった。
これはIT活用のモデルケース,ショーケース作りの取り組みで,三鷹市では学校教育に高速ネットワークを導入する「e-スクール」実験と高齢者の生活支援の「情報家電の活用」実験を行なった。
もう一つ「e-Japan戦略」を受けた「電子政府・電子自治体の推進プログラム」というものがあり,「電子自治体推進パイロット事業」として電子申請,電子収納等の実験を行なった。電子申請は,汎用の受け付けシステムの構築とその実証で,これにMPN(マルチペイメント・ネットワーク)を使い、公金の電子収納実験を自治体としては全国で最初に手掛けた。

ホームページの活用と印刷の内製化

市民との情報交換という意味から紙媒体の広報誌は大変重要な役割を持っている。16ページ立て中心に現在月に2回発行していて,全戸配布している。
しかし最近は広報誌プラス・ホームページということで,ホームページの内容も大変充実させてきている。以前は作成業者に依託制作していたが,非常に時間がかかるので,ホームページ作成の仕組みを作った。
これまで市では予算書,決算書をかなりの厚さの本で作っていた。それを外部の印刷事業者に発注していたが,今では入力から版下まで全部内部のシステムで処理するようにした。それに加えて,庁内で製本までしてしまう動きがだいぶ大きくなってきた。
そして,計画書等がホームページに全文載せられるようになり,全文ダウンロードできる時代になってきた。市民の申請,届け出,手続きの電子化の進展により,申請に必要な申請書,パンフレットが減ってきた。財政課からも予算が削られるようになってきた。印刷の需要とボリュームがかなり変わってきているのである。

今後の展望と課題

2003年度には、住民基本台帳ネットワークの二次稼動を受け全庁的なセキュリティポリシーを作った。経済産業省の情報セキュリティ・マネジメントシステムの認証基準ISMSと,英国の規格協会のBS7799-2という二つの認証も取得した。その他,市民向けホームページの全面リニューアル,庁内LAN整備の継続などを行なった。
そして都内の自治体のほぼすべてが参加をする形で,電子自治体のシステムについての共同開発・共同運営をスタートすることになった。2004年度中には電子申請,電子調達もスタートさせたいと考えている。
また今後の課題には「行政事務の効率化と市民サービスの向上」「公民協働型サービスシステムの構築」「市民との協働のまちづくり」の3点がある。
「公民協働型サービスシステムの構築」について,三鷹市では株式会社まちづくり三鷹という第三セクターを作っている。市の機能で持っていけるものはできるだけここに持っていきたい。いい意味で公共の持っている公平性や公共性を持ちつつ,民間企業の迅速性や柔軟性を併せ持った組織として活用していきたいと考えている。
三鷹の駅ビル内の出張所は,2002年からここに運営を大幅に委託している。法的制約もあるので市職員が必ず1人いる形にしているが,残りはまちづくり三鷹の社員である。子育てに関するポータルサイト「子育てねっと」の運営も市から委託している。これは,子育て中の市民の意見や要望が反映しやすい仕組みになっている。
市民から見れば,市役所の情報だけでは役に立たない。民間の情報と併せてセットをすることで初めて役に立つということからも、まちづくり三鷹が果たす役割は大きい。 市民満足度と経営品質の向上の観点からも,このような組織を活用するということである。
今までは行政区域と住民の生活圏,情報圏がイコールであるところが全国的に多かったが、その関係が崩れてきている。それを適切化していく必要がある。今,国を挙げて電子自治体への取り組みが進められているが,電子自治体ということは目的ではない。地域特性に合わせた取り組みをスタートをするべきではないか――これが三鷹市の基本的な考え方である。

(通信&メディア研究会)

『JAGAT info 5月号』より

2004/05/19 00:00:00


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