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デジタルカメラによる印刷ワークフローの変化

 デジタルカメラの普及により,プリプレス工程をはじめ撮影までがデジタル化されつつあるが,その運用についてはルールが確立されていない。テキスト&グラフィックス研究会では,デジタルカメラ運用の課題とデジタル撮影によるワークフローの変化についてミーティングを開催した。

データフローとコミュニケーション

 DTPが普及して仕事のやり方,ワークフローが随分変わってきたように,デジタル撮影も単に撮影したデジタルデータを受け渡しするということではなく,ワークフローの合理化,効率化,あるいは経営の改革にまで発展しなければならないという基本認識がある。
 デジタル撮影では品質保証,あるいは要求品質にどう応えるのか課題になる。これは,何か決まったルールがあるわけではない。カメラマン側は撮影データをRaw Dataか,CMYK変換して渡すのかが決まっているわけではない。得意先あるいはカメラマン,製版部門と立場によってすべて状況が違うのが現実であるが,何らかの基準は欲しい。

 デジタル撮影では,撮影直後がRaw Dataで,従来の現像に当たるのがTIFFやEPSデータへの変換であり,従来のスキャナ分解がCMYK変換といえる。そして画像修正の工程となる。  最初のクライアントあるいはカメラマンのイメージが製版・印刷会社まで正確に伝わらなかったり,データがきちんと伝わらず分断状態にあるのが問題である。カメラマンがどこまで処理するかは,バラバラであり,そのことが品質保証を困難にする。

分野別による要求品質の違い

 広告・出版あるいは商業写真とプライベートな写真とは,当然使っているカメラも違い,求めている品質も異なる。
 広告・出版,商業写真分野では,被写体を忠実に再現しているかより,消費者や読者にアピールしたいことがきちんと表現されているかがポイントになる。それに対して,報道・出版分野では情報としての正確さが要求される。

 また,大型カタログ,通販カタログなどの商業印刷は撮影量が多く,このような仕事では品質をある方向性に揃えて撮らなければならない。
 そのためには個人の能力に依存するのではなく,仕事の進め方そのものも含め,システム的に対応する必要がある。
 撮影の内容によって,仕事の進め方や要求品質が大きく変わり,それらを明確にした上で仕事の進め方を考えていきたい。
 こうした要求品質の違いをなおざりにしたままデジタル撮影のデータの問題が議論されている。

 また,製版と撮影がコラボレーションしながらデータを作成しているが,製版担当者は製版しやすいデータが欲しいと主張することがある。製版という立場でしかものが考えられなくなってしまう弊害である。
 撮影後には修正をしないほうが合理的であり,カメラマンが撮ったものがそのまま製版されるのが理想である。
 このように何を優先するかによって品質の判断が変わり,ワークフローも変わってくる。カメラマンが印刷されたときにどうなるかをきちんと理解した上で判断できればそれに越したことはない。

 要求品質が明確になれば,責任領域が明確になり,責任領域が明確になれば,工程が明確になる。そして工程が明確になれば作業負荷が明確になり,作業負荷が明確になれば,コストも明確になる。
 しかし,最初の要求品質が不明確なまま仕事が流れてしまうと,どこが品質に責任を持ち,どこがお金をどれだけ取るのかということもはっきりしなくなってしまう。
 ワークフローをきちんと設計するということは,品質設計や工程設計であり,予算の設計である。

目的別ワークフロー設計

 ワークフローといっても,自分たちが望むような仕事の進め方1つで済むわけがない。まず撮影の位置付けによってワークフローは変わる。
 最終的なターゲットをカメラマンのイメージ優先,言うなれば入り口を固定するのか,あるいは最終的なターゲットは印刷物であるが,まず撮影データありきで,それを製版側で得意先の望む表現や要求品質に合わせるのか,つまり出口を固定するのかでワークフローは大きく異なる。
 ワークフローの設計としては,撮るデータを設計する「統合型ワークフロー」と撮られたデータを処理する「翻訳型ワークフロー」という二つの対応が求められる。

 「統合型ワークフロー」では,製版担当者は,カメラマンやクライアントなども交え,「最終的な要求品質がこうなら,撮影はこうあるべき」ということを提案する必要がある。コミュニケーションが一番大切である。
 それに対して「翻訳型ワークフロー」は,最終的な要求品質に変換するための仕組みやツール,ワークフローを考える必要がある。
 入稿された撮影データに対し,いかに得意先の要求品質に合うような印刷物が得られるように製版するかということである。その際,何度も校正を重ねなければ目的の品質が得られないというのではなく,何らかのツールを利用することで効率的な処理を行いたい。

 代表的なワークフロー設計は上記の二つであるが,もう1つ作品作りのデータ処理がある。これは写真集などのクリエイティブな仕事において,撮影段階で表現しきれなかったディテールをカメラマンと製版担当者が一緒になって作品を完成させるような「協労型ワークフロー」である。
 このように各々要求品質があり,仕事の進め方,役割分担が違う。極端に言えば,個々の仕事ごとにワークフローは異なる。これからの印刷会社には一つ一つの仕事をきちんとコーディネートして,得意先に提案あるいはコンサルティングできるような能力が,ますます求められてくる。
 会社や持っている経営資源によって,何ができるのか,どこまでできるのか,どんなやり方ができるのかは変わってくるが,自分たちの会社の経営資源を有効に活かして,各々のワークフローのモデルを作っておくことが大切である。

デジタルワークフローに求められていること

 デジタル撮影を含めたフルデジタルワークフローを構築する上で,最も求められていることはコミュニケーションである。得意先,カメラマン,デザイナといった担当者の中できちんとコミュニケーションをとり,何を作りたいのかというゴールの設定とその共有化がされないと何回やり直しても満足のいくものができない。ゴールが決まらないと表現,工程,運用が決まらない。これが最重要な仕事となる。
 次に柔軟な対応であり,仕事ごとに全てワークフローが異なるという前提に立つ必要がある。簡単に結論を出す前に,さまざまな手段を柔軟に考えることが大切である。新しい仕事に取り組むときには新しい仕事の進め方を開発するくらいの心構えが必要である。

 また,標準的なワークフローのモデルを作らなければいけない。会社によって,組織によって持っている経営資源が違うので,各々違ってくるが,いくつかモデルを作った上で提案し,常に試行錯誤しなければならない。
 こうした対応をするためには,フォトディレクションの拡張が必須である。写真の目的や品質,製版工程をよく理解した上で,さらに技術や社内の経営資源までを含めて,トータルで判断できる人材が必要である。

(テキスト&グラフィックス研究会)

2004/06/14 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会