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JDFワークフローの隠れた課題

「JDF Drupa」との前宣伝の上で行われたDrupa2004だが、JDF関連展示に関する評価は人によってかなりの幅があるに違いない。
JDFの利用で目指す全体最適化の効果は、「社内の連絡、確認等のコミュニケーション改善」といった業務処理の合理化効果が大きいので、展示会という場でアピールすることが難しい。見る側も、自社の業務処理が問題として意識されていなければ、その効果の多くを見落とすことになる。

JDFは、ベンダーの違いを乗り越えて、生産と管理に必要なデータの流通を縦横に可能にすることによって、ボトルネックを解消して格段の合理化を図るために使われるものである。したがって、各システム間のインター・オペラビリティー(相互互換性)が非常に重要で、この点についてどこまで出来るかという点が、ひとつの関心事である。ドルッパでは、いくつかのグループが、JDFによる相互互換性を実証しつつ全体の流れを感じさせる展示と行っていた。今後は、まず限定した範囲でのつなぎができて、それが広がっていくことになるのだろう。これはベンダー側の課題だが、印刷会社側で解消しなければならない問題があることを忘れてはならない。以下に、ドルッパ2004のPrint Cityで示された流れを紹介しながら、印刷会社側で考えなければならない点を指摘する。

最初に躓くのは見積もり

JDFワークフローの第一ステップは、OCSL社のMISソフト「オプティマス2000」に印刷物仕様を細かく入力するところから始まる。この入力によって見積りを作成する一方、この情報は印刷発注の指示情報として次の「予定組み」サイトに送られる。
ここでは、見積もりと作業指示がひとつの情報から作られるという流れになるが、ここが第一の問題点になる。少なくとも日本の場合、顧客毎に異なる見積書の項目、様式で提出をするために、見積もりをMIS本体と切り離した処理をしている印刷会社が多いからである。しかし、詳細な説明は紙面の都合で省くが、実はそのような印刷会社の現状自体が「全体最適化」の大きな問題であり、今後は、上記のように変えていくべきである。

標準の手順計画、工数設定はできないという問題

MISサイトから送られてきた受注のデータはppiメディア社の「ジョブプラン」による予定組みのデータとして使われる。MISから受け取ったJDFと、このサイトが持っているプロダクションテンプレート(機械設備のサイズ、色数などの情報)をもとにして、機械の指定と工程日程を組む、つまり機械取りをする。その結果がMISから来た希望納期に合わなければMISにその情報を伝える。

しかし、このようなことをするためには、どのような仕事の場合にはどのような機械設備を使うかという「標準手順計画」、その仕事にはどれだけの時間が掛かるかという「標準工数」が印刷会社毎に決められていなければならない。この点について、大多数の印刷会社の工程管理担当者は、そんなことはできないと言うだろうし、小規模企業ではそんなことをする必要はない、というだろう。もしそうだとするならば、ここでも情報流通の自動化の流れが中断することになる。これは印刷企業側の問題である。

日程計画機能が自動に近くなるほど、顧客との関係で校正出し日を指定しなければならないプリプレス工程と印刷以降のスケジューリングを一体化して扱うことが難しくなる。さらに、全ての印刷物仕様(部数、印刷用紙など)が受注段階で決まらないという状況では印刷以降の工程への作業指示をどうするかが問題になる。ただし、この2つの問題は、いずれもシステム構築側の課題で、後者については既にCIP4で検討が進んでいる。

かなり見えてきたプリプレスから製本までの流れ

プリプレス工程の作業では、アグフアの「デラーノ・パブリッシャ」がJDFによってページの入稿を確認、PDF変換、プリフライト管理、校正と校了、CTPなどへの出力を行う。社内だけでなく社外の顧客や協力先との均一なコラボレーションを実現し、業務の効率化とミスの削減が期待できる。
この段階では、プリプレス作業に必要になる多くの詳細な情報(トラップ、面付け、色のICCの情報など)を全てMISで扱うか否かという問題があるが、これはシステム提供側の課題でCIP4で議論が進められている。

校正に関しては、グローバルグラフィックス社の「ハーレクインRIP」がJDFを読み込んで、校正出力用のRIP処理、確認、面付出力、OPI処理、トラッピング処理、CMS、スクリーニング、校正出力を行うという展示が行われた。CTP力では、「面付け・RIP・校正・刷版」サイトで、アグフアの「アポジーX」がJDFを読み込んで、製版から出力までの処理を自動で行う流れが紹介された。また、ppiメディア社の「OM」がプリプレスから受け取ったデータを使った流れも紹介されていた。
印刷では、マンローランドの「PECOM印刷管理システム」がJDFとこれにリンクされているPPFを読み込んで、枚葉機ではインキング機構を含む細かな機械セッティングを行い、オフ輪でも用紙や折り機のセットなどができることをアピールしていた。 製本工程関連では、MBOの折り機、ミュラーマルティーニの中綴じ機で、JDFを読み込んで機械のプリセットをするデモを行っていた。

管理の基本と直結する実績データの使い方

ppiメディア社の「ジョブトラック」は、一定時間ごとあるいは仕事の完了時点ごとに生産機械が自動生成するデータをネットワークから集めて生産機器の稼動状況と完了情報を得る。この機能によって、工程管理部門、あるいは営業部門でもリアルタイムで仕事の進捗状況を把握できる。また、これらのデータからかなり詳細な一品別の事後原価計算を行うことができる。しかし、このデータをどのように使うかが大きな問題である。

詳細な一品別事後原価計算データを得ること自体は、いろいろな使い道があって有効だと考えている。しかし、いままでに紹介されているデータ利用は、売値と実際原価を直接比較するようなものになっている。部門別利益管理を重視し、社内仕切価格のような基準値を媒介として、営業の努力と生産現場の努力のそれぞれを明確にするべきであると考えるJAGATとしては、せっかく広がってきたそのような考え方を元に押し戻すことになりはしないかと危惧している。

(「JAGAT info 2004年6月号」より)

2004/06/19 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会