JAGATの推計による2003年度の印刷産業出荷額前年比は0.8%減で、6年連続のマイナス成長になった。
2001年4月に発表された印刷産業ビジョン「Printing Frontier 21」では、印刷産業はこれからの10年間、年率1.7%±1.4%増という幅の中で伸びていくと予測した。全体としては、従来の一般印刷市場が縮小していく一方、デジタルデータの処理や印刷付帯サービスに関わる印刷派生事業を4兆円近く拡大して情報価値創造産業として伸びていこうというのが「Printing Frontier 21」が掲げたビジョンである。特に、デジタルデータの処理・加工に関わる分野を大きく拡大していく姿を描いている。
しかし、2003年までの印刷産業はビジョンが描いた最悪のシナリオを下回って推移している。
上記のビジョンにおける市場の見方はなかなか味のあるものである。それは、印刷業界の拡大を牽引するデジタルデータ関連の事業は、2005年まではたいして伸びず、一方で既存印刷物市場は縮小するので、印刷産業の出荷額は悪くすれば年率1.2%程度のマイナス成長になる、しかし、2005年以降2010年までの5年間でデジタルデータの処理・加工に関わる印刷派生事業が急速に拡大し印刷産業の出荷額を大きく伸ばしていくという見方である。
印刷派生事業に関する印刷産業の状況を見ると、情報処理関連の事業はそれなりの規模になっているが、印刷付帯サービスを含めても、その売上は印刷産業の出荷額全体の2%に満たない。また、この比率は過去3年間上昇しているとは言えない。
しかし、世の中全体を見ると、IT関連の技術、サービスの普及が加速度を増し、印刷物需要や印刷産業のビジネスに大きな関わりを持ちつつある状況が明確に見えてきた。
総務省が公表しているインターネットの利用者数は、2003年に6,942万人になった。ブロードバンドの契約は、DSL、FTTH、ケーブルを合わせて1364万契約になっている。図1・2は、平成12年「通信白書」に記載されていたインターネット利用者数の2005年までの予測と2003年までの実績を示したものである。先に紹介したように、2003年のインターネット利用者数は6,942万人だが、それは予測に対して1500万人も多くなっている。
同様に、携帯電話は契約者数ベースで7,979万台という驚異的な台数になり、携帯を使ったiモード等の契約数は6,781万件である。これも当初の予測を15%を上回る普及である。携帯電話は、既に自由時間内でのメディア接触時間、メディア関連家計支出のいずれにおいても最大のメディアになった。
EC(電子商取引)の市場を見ると、B to Cは2000年に出された普及予測どおりに普及してきており、B to BのECの市場規模は2000年における予測よりも1年早く60兆円に達した。このような状況は、当然のことながら印刷物市場、主要関連産業に影響を与え、DM、通信販売などの分野でその一端が見られるようになってきた。
世の中は、いまその助走を終えて本格的なIT化、デジタルネットワーク化、ユビキタス社会に入りつつある。印刷産業がその流れに乗って飛躍すべき時は刻々と近づいている。
(2004年6月9日開催 「JAGAT大会2004」より)
2004/06/27 00:00:00