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文字の標準化目的を考える

印刷関係ではAdobe1-5の文字集合も,実際は全フォントの提供の目処がなく,アプリケーション上での扱い方が決まっていなくて,需要を超えた文字集合ではないかという人もいる。しかし自分にとっての必要な文字が何かという問題とは別に,コンピュータの利用が進展するに従って,文字に対する要求が社会的に変わってきたことも理解しなければならない。

活字から写植の時代を通じて,印刷関係の仕事の中で発生する「常備」していない文字を外字として作成して管理していた。実際は使い捨てで,必要な都度外字を作成しても差し支えなかった。それは,外字を含むテキストをデータとして再利用することや,流通させることは,印刷物制作に比べると二の次であったからだ。そのころと比べると印刷を取り巻く外部環境はすっかり変わってしまった。

コンピュータの浸透によって起こった日本の文字の規格化の変化を振り返ると,過去は大きく3つの時代に分けられる。最初は,少々は我慢するが「欠くべからざる字」のニーズで,1970年代にオフコンクラスで漢字が扱われ始めた時期で,地名・人名はカタカナのジャーナルプリンタでの印字で済んでいた状況なので,これらはあまり問題にされず,むしろ和文タイプの事務文書に近いような文字種が優先されて第1水準となり,ビジネスには関わりの少ない日常的な文字で第2水準になったものもある。

1990年ごろはプリントよりもデータ交換に比重が移って,デジタルインフラの中での「より正確な,より多様な表現」というニーズが興った。漢和辞典規模に拡張を考えた「補助漢字」はUnicodeのCJKのもととなり,地名や公的な文書の再現などを考慮した第3第4水準,伝統的活字書体への配慮をした「表外漢字」などへとテーマが移っていき,「学術・文化の基盤整備」的な色彩を強めている。

標準の世界で漢字の追加は,私的な外字との区分がされるようになっていて,共通の大きな目標の実現に向けた活動であると理解すべきである。ただ「学術・文化の基盤整備」的なコンセプトはまだ漠然としたものであって,個々の分野ごとの利用文字の整備がされなければ,共通項としての標準化には反映できない。

今後はECやeラーニングの発達などネットを介して,紙の上に表現するあらゆる文字がデジタルデータで交換できることが強く要求されるだろう。しかしそれは文字を多く羅列するのではなく,用語の統一や定義の辞書など,ECやeラーニング自体のインフラ整備でもある。そういう意味で文字の標準化活動そのものも変わるだろう。

印刷環境の変化の問題として捉えなおすと,文字の要求はクライアントの個別の事情という要素は変わらないものの,クライアントの要求の背景をも理解して,学際・業際的な基盤の構築というところに印刷のミッションを置いて取り組むのがよいだろう。

(テキスト&グラフィックス研究会より)

2004/06/24 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会