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求人情報のWeb配信と情報誌制作の現状

製品カタログや情報誌などの制作において,テキストや画像のデータベース化と自動組版レイアウトは,すでに一般的となっている。また近年では,情報誌の発行とWebでの情報配信を同時におこなうスタイルも普及している。テキスト&グラフィックス研究会では,求人情報誌「Type」の発行と転職情報サイト「@Type」を運営している(株)キャリアデザインセンターにおけるWeb制作と情報誌制作について,同社クリエイティブ部課長の斉木氏に話を伺った。

求人情報誌のミッション(使命)

キャリアデザインセンターは,1993年7月に設立し,現在「Type」と「Engeneer Type」,「ワーキングマンタイプ」という求人情報誌を発行している。求人情報誌のミッション(使命)は,転職のための情報を仕入れようと思っている読者に,質の高い情報を紹介することである。求人する企業と読者とは接点がなく,その間に立つのが私たちなので,読者の目で企業について詳しく分析し,その情報をより分かりやすく伝えることがミッション(使命)である。
従来の求人広告の制作は,社内のクリエイティブ部門の者が,Macを中心として,Quark, Illustrator,Photoshopの3種類のアプリケーションを使っておこなっていた。紙で出力して,顧客のところにお持ちし,修正していた。

自動組版レイアウトシステム導入の目的

広告量が増え,いずれ業務フローが破綻するということで,制作業務の効率化の検討を始めた。「@Type」というWebの転職サイトも並行して運営している。Webのデータを情報誌の制作に取り込めないかということも検討した。Founder FITを選択したのは,他社の中古車情報誌での導入実績を見て,安心感があったからである。
また,同時に誌面をリニューアルを進めることになった。編集記事と求人広告が5:5であったのを,求人寄りにシフトして,情報誌としての価値を高めることになった。Webのデータを流用することで,人員や業務量を増やさずに,情報量とページ数を増やすことを目指した。
さらに,本の位置付けを変更した。読者が情報を探すのはWebが中心である。したがって情報誌単独で読者に応募というアクションを起こさせることはできない。情報誌を,Webに誘導するためのツールとして使う方向性を目指すこととなった。

Webと紙媒体の棲み分け

読者アンケートによると,情報を紙で見た後,企業のホームページを見る人が多い。情報を全て紙で提供できる時代ではなくなった。顧客に対しても,求人広告を出すことで転職したい人の応募が増えるという言い方が通用しなくなっている。私どもの最終的なサービスは,人材を送り込むところにあるので,その方法は様々である。顧客のホームページを紹介してアクセスを増やし,応募を増やすという方法もあるし,顧客のホームページの代わりになる情報を私どものWebサイトで提供することも,一つの方法である。そこで考えたのが,紙でキャッチして,私達のWebサイトに誘導するということだった。紙の広告で伝えきれない情報を,制約の少ないWebの世界で補完し,最後の応募までつなげるというサービスを企画した。

具体的な運用フロー

台割も含め,受注から出版までの制作全体のフローをFounder FITを使ってやりたいと思っていたが,一気に変えることは難しく,社内で検討を継続している。最終的には,受注情報から台割作成まで一つのシステムで全て行えるようになれば,人の数も作業時間も減らすことができるだろう。
実際の運用フローとしては,クリエイティブ部の広告制作担当者が,Webのデータベースに情報を入力し,Webでの発信をおこなう。Web用のデータベースから抽出したCSVデータを,Founder FITの製版・集版割付機能というパレット上に取り込んでくる。カセットが自動的に組まれ,ページが新たに追加されながらページネーションをしていく。Web用データの情報量が多く,流し込んだときに溢れてしまうことがある。今は,Web上でもある程度文字量を制限し,コンテンツを作ることをおこなっている。流し込みを終えて校正紙を出力し,チェックをかけてPS出力をし,大日本印刷にまとめて渡している。CSVで抜き出したデータを,ボタン一つで自動的に流し込んでいくという作業である。
作業時間は,データベースが用意されている状態から,約400ページを作り終えるのに,30分〜1時間でできる。「Type」をそのまま手作業でやっていると,一人で2〜3日もしくは1週間くらいの時間が掛かっていただろう。巻末にインデックスがあるが,以前はそれもQuarkで作っていた。タイトル付けや,ページをまたぐ際の調整に,非常に手間がかかった。それを,Founder FITで作ると数時間で全部の作業が完了できるようになった。

導入の効果

今まで,Webだけしか使っていなかった顧客に,低価格で誌面をご利用いただけるようになった。「4分の1のコマの広告を通じて採用が決まった」という例も出始めている。
また,社内では人を増やさず,導入の最初のコストだけで,求人情報は1.8倍,ページは200ページ近く増えている。
今回のリニューアルを機に,Webで応募した人がどのような経路をたどっているのかログをとっている。求人情報を見てからの応募は今までの倍以上に増えているので,紙とWebの棲み分けも機能しはじめていると実感している。
経営層にも評価されている。制作の現場や営業サイドではまだ不完全であるが,インフラ整備,営業ツールの充実などで解決できるだろう。顧客の評判もいいので,総じて見ると評価はプラスである。

今後の展開

Webと同じ方向に紙の価値を求めていくのは無理がある。情報量やスピード,お手軽感で,Webの方が価値が高いし,情報の検索のしやすさも,Webは本に比べて格段に高い。本の価値はもう少し変えていかなければならない。
情報誌にもいろいろあるが,企業が発信する情報だけではなかなか発見できない部分を,私達第三者が紹介することで読者に提供することができる。また,求人情報を扱う場合,読者をWebにどうやって誘導していくのかが重要だ。本は少しでも読者にとってメリットの高い情報を提供し,ねらった層を囲っていく。その囲った読者をWebに効率よく誘導していくということで,紙の価値は上がっていく。Webはオープンな情報なので,意図していない方もページを見に来るが,それをセグメントし,本当に伝えたい人ばかりをそのページに誘導することに情報誌としての価値がある。

印刷会社への期待

私たち出版社は,読者がどのような情報を求めているのか,本をどうやって売っていくのかを考えており,印刷の工程や本を作る仕組みまで考えが回らない。それを効率よく本にしていく仕組みを印刷会社で担当してもらいたい。印刷会社にもっと知恵を貸してもらい,ソフト会社からもソリューションを提供していただき,それぞれの強みを発揮して,よりスピードを上げていくようなコラボレーションができれば一番いいだろう。

「JAGAT Info 7月号より」

2004/07/02 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会