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変化の時代は、チャンスの時代、というが…

アメリカの新聞協会が主催するnexpo2004が2004年6月19日から22日までワシントンDCで開催された。昨年のLasVegasのnexpo2003がイベントとして最低を記録したのとは違って、新聞業界にはそれほど復調の様子はないものの、今年は展示会の出展者も来場者も増えている。参加者が増えたのは、アメリカのマスコミが東側に重心があるので、ワシントンは参加しやすいという理由がある。南部やラスベガスなら家族を連れて旅行しなければならないエグゼクティブも、ワシントンなら単身で参加できる。

過去は新たに開発された制作システムの世界的な登竜門でありショールームのようになっていたnexpoも、DTP以降はほとんどプリプレスなどはなくなってしまって、10社ほどの制作トータルシステムベンダーに集約されつつあったのに、機器の出展が増えたのは意外である。これはトータルシステムが制作の部分だけではなく、新聞の購読管理から広告のECなど、新聞ビジネス部門も含めてトータルなIT化に進むために出展が増えたからだという。

新聞制作に関心ある人は、アメリカの大手新聞社に納入実績をもつシステムの細部に関心をもつであろうが、これらの技術は2000年頃からほとんど変っていないのでここではとりあげない。そのクラスのベンダーはCCIヨーロッパとか欧UNISYSなど非アメリカ勢に頼るようになってしまった。日本やヨーロッパはシステム全体の面倒を見てくれるベンダーがあって、アメリカはそれに対してモジュール提供中心のベンダーが主で、インテグレータは別というビジネススタイルであったが、それが効果的であったのはプリプレスの技術が流動的な時代に限られたようで、DTPも枯れた技術となった今ではモジュール側の問題は少なくなり、むしろトータルなまとまりとか全体的なメリットを重点的に考えるようになりつつある。

中規模のトータルシステムを提供するハリス&ベースビュー、DTI、それよりも小規模対象のMEI、APT、ATSなどが安定的にビジネスを伸ばしているようだ。老舗ATEXの復活会社AMCもレイアウトはInDesignで行い、システムにはWEB制作まで含めるなど現代的な展開をしているが、広告や購読など販売管理の全くビジネス側のシステムに制作システムをブラ下げたようなブレインワークスの方がさらに現代的なシステムに見える。いずれにせよMIS的なところや購読管理、広告ECなどの出展がかなり増えていたようだ。

マスメディア異変

アメリカのTVでは、人気番組と視聴率の点で、年間を通して地上波TVがCATVに追い抜かれたという。CATVもミニメディアではなくなったわけだが、それより大規模経営のマスメディアの退潮は3大ネットワークを中心とするTVも大新聞も共通したものがあった。しかし大多数の地域限定メディアである中小新聞は必ずしも一律の傾向を示しているわけではない。全般には部数の伸び悩みあるいは減少を示す新聞社が増加しているが、人口だけから考えるとアメリカは微増傾向だから減るはずがない。部数を増やしているあるにはある。新聞全般では特に広告が莫大にある日曜版の方が減りが目立っている。トップクラスの新聞社でほとんど伸びているところはない。

それでも新聞社の設備投資は続いていて、特にカラー印刷のためのオフセット輪転機の導入が進んでいる。ずっとアメリカの新聞の広告は本紙の中にあるものとは別に、先にグラビアなどできれいに刷られた何ページかの小売の広告(インサーツ)を折込んでいた。昔の新聞印刷は表現品質の点でインサーツにはかなわなかったが、新聞のカラー印刷の質がよくなったので、この折込広告を紙面の広告として取り込んで、部数減をカバーしようという方向にある。

インサーツは印刷会社で刷った物をトラックで運んでいたが、ページネーションがデジタルで容易になったこと、広告出稿がネットワークでリアルタイムに行えるようになったことなどから、こういうローカルな広告の業務全体が地域の新聞社自体に集まりつつある。実は技術的な意味では全国的な広告の方が先にネットワークで電子送稿をするシステムが先行して導入されて、集中的にサービスされていた。だが、地域の新聞にとってはローカル広告の方が量も多く重要である。ローカル広告を自分ですべてハンドリングするツールはかつては重すぎたのが、今はITのダウンサイジングで各新聞社自体が持つことが出来るようになった。

新聞はマスネディア的な性格が考えられがちであるが、アメリカの地域の新聞社はローカルコンテンツを武器にWEBでのローカル情報提供では圧倒的に有利なところにいる。これはWEBの初期からの努力の積み重ねによる。WEBのローカル広告のシェアではローカル新聞社のグループがトップであるし、WEBで新聞の拡販にも熱心である。これは新聞社によって成果があがっているところもないところもあるようだ。しかしWEB広告の獲得の先のターゲットとして、今まで別業者が行っていたインサーツや情報誌などの分野を新聞およびそのWEB版が取り込もうという流れがある。

ケータイでガラガラポン??

当面はこれでなんとかしのいでいけそうな気配である。しかしまた次の変革の波も押し寄せている。それはケータイがアメリカでもブレイクし始めたことである。nexpoでも毎年この話題は進展している。ちょうど新聞と放送では共通した取材という行為があり、デジタル化でメディア制作のコンバージェンスが進もうとしている。ケータイはその中でも活用されるだろうが、もう一つは情報発信として取り組もうという動きがある。日本では既にそうなっているので当たり前の話のようだが、アメリカはコンテンツ管理という点では日本よりも進んでいて、その分だけケータイ向け情報発信に進み易い基盤がある。

ところがケータイという市場はせっかく地位を確保したローカルメディアの世界にガラガラポンを引き起こすかもしれない。WEBであれば紙面作成のグラフィック能力によるヒューマンインタフェースや紙面と連動した広告などのノウハウが生かせるが、ケータイは純粋にコンテンツの自動配信になり、大規模なITの仕掛けで勝負するような新たな競合関係が出てくるであろう。すでにebayとかamazonが活躍している分野は歯が立たないように、ローカル新聞の攻め方ももう一度考え直さなければならない予感がする。日本ほどケータイが使われてはいないものの、ケータイが大きな脅威になりそうな気配がアメリカでも漂いだしている。

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2004/07/04 00:00:00


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