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IT化は印刷業界にどんな影響を与えたか その1

皆さん既にご承知のように,ここ10年から14,5年の間にDTPの普及によって印刷の画像情報,テキスト情報がフルデジタル化されました。
このフルデジタル化によって,印刷業の製造工程で多種多様なコンピューター技術を使ったシステムが使えるようになりました。また,取り扱う情報がデジタル化しているので,通信ネットワークにも乗せることができます。
このことは印刷情報のフルデジタル化によって印刷業界IT化のインフラが出来たことを意味しています。
もし,何らかの理由で印刷情報のフルデジタル化が出来なかったら印刷業界のIT化は不可能となり,印刷業界が時代の波に取り残されることになったかもしれません。
幸いそのようにはならず,印刷業界はIT化を受け入れています。

印刷業界がIT化してきますと当然のことですが印刷業本体は大きな影響を受けます。
まず,印刷物の製造工程ですが,プリプレス部門がDTPと言うITによって様変わりを遂げたことは皆さん先刻ご承知の通りです。アナログ時代に大きな比重を占めていた文字組版,写植版下作成,カラー分解,レタッチ,面付けなどの作業がDTPに集約されました。プリプレス部門ではDTPを始めとするITを駆使して徹底的に人手作業を削減しましたので,その面から見ますと大きな合理化益を生むことができたと言えます。
しかし,合理化とは今まであった作業を無くすことでもあります。そのため作業の空洞化という事態に直面することになって,これの対応に苦しんだケースも多くありました。

印刷物製造の流れの全体を見ますと,印刷物の発注から始まり,制作内容が企画され,その意図に従って取材,執筆,撮影がなされ,印刷の素材データが用意されます。編集者やグラフィックデザイナーは印刷紙面のレイアウトを決定し印刷物の製造工程に指示をします。その指示に従って製造された印刷物は流通部門の手によって消費者に届けられます。
印刷物製造の大雑把な流れはこのようなものですが,この流れ全体がIT化の影響を受けています。
アナログ時代は作家や記者が書いた文字原稿,カメラマンが撮影したカラーフィルム,或いはグラフィックデザイナーがデザインしたレイアウト指示書などがそれぞれの業務間で受け渡されましたが,これによって業務間の境界線も明確に存在していました。
印刷物の製造とはそれぞれの業務が情報加工することで付加価値をつけ,それを累積していき,最終の印刷物を仕上げることであります。印刷物製造の流れの中で,どこの業務がどのような付加価値をつけたかが明確であればビジネスは円滑にできます。
ところが,現在はフルデジタル化された印刷情報は業務間を自由に移動できるので,印刷物製造の環境はオープンの世界になっており,業務領域の境界線も曖昧になっています。このためプリプレス部門が混乱しており,対応に苦慮しているケースが多く見られます。印刷業界ではこの状態からの脱却が急がされているのであります。
さらに,プリプレス部門がオープン化したがための空洞化も起こりました。
印刷物を製造する流れの中で,出来るだけ上流で付加価値をつけた方が効率的と考えられますので,下流にある製版,印刷会社が担っていた役割が上流に移って行ったのです。
作家や記者が文字原稿をパソコンで作ってデジタルデータで入稿すようになってアナログ時代では印刷業が受け持っていた文字入力という業務が上流へ移って,空洞化してしまいました。カメラマンがデジタルカメラを使うようになりますと,カラー分解による画像入力という業務が上流へ移って,これも空洞化します。さらに,レイアウト,割付の指示が編集者やデザイナーのところのDTPで完結しますと,印刷業での業務は無くなってしまいます。
このようにIT化の影響は印刷業のプリプレス部門に顕著に現れていますが,現在のところ残念ですが,プラスよりマイナスの方が大きいように思われます。
印刷業界ではプリプレス部門に留まらず全部門を対象にしてITの新しい技術を駆使してプラス面を最大にしようと努めております。


▲ 印刷業界サプライチェーンのイメージ

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「JAGAT大会2004」講演より

2004/07/16 00:00:00


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