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IT化は印刷業界にどんな影響を与えたか その2

印刷業界は従来からあらゆる業種の企業を顧客にしてきましたので印刷業周辺というのは産業界全体を指しても良いのではないかと思います。
産業界全体のIT化の中で最も顕著な影響をもたらしているのはインターネットと携帯電話の普及であります。これによる情報伝達が急激に増大していますので,印刷物である紙メディアの比重が低下することは避けられないと思います。
既に百科事典や大型の事典類はCD-ROMや電子辞書,あるいはWeb配信が主役になっています。また,最近発売されたソニーの読書端末リブリエ,松下電器のシグマブックなどもやがては書籍分野に着実に進出してくるでしょう。
とは言っても,紙メディア自体は情報を伝える点で他のメディアにはない非常に優れた機能をもっているとマーケットで十分に認識されていますので,紙の印刷物が急激に減ることはありません。しかし,長期的にみれば量的な面での比重は低下するものと判断しています。このことは印刷業にとって嬉しいことではありませんが,印刷業の長期展望の中に組み込まざるを得ません。

もう一つ,産業界全体にIT化の影響として現れてきたのがSCM(サプライ・チェーン・マネネージング)システムを構築して全体最適を追求する動向が強まっていることです。
産業界全体がIT化する中で,SCMシステムを構築することで何とかこの厳しい経営環境を乗り越えて生き残ろうとする顧客の変化を見逃すわけには参りません。
作れば売れるというバブルの時代はもう来ません。消費者の嗜好が多様化して商品のライフサイクルが短期化しています。サプライチェーンに澱みがありますと,消費者にタイムリーに製品を届けられないため不良在庫を抱えてしまい,その状態から抜け出すことも侭ならないという企業の存続をゆるがすような事態に陥らないとも限りません。
顧客や消費者のニーズに素早く対応するには,サプライチェーン全体を需要の変動に即してコントロール出来るシステムを構築しなければなりません。
ITを活用して製品と情報の流れを一元化し,サプライチェーン全体でタイムリーに情報を共有できるシステムが必要です。
このようなSCMシステムが出来れば,常に全体最適を実現する経営判断が可能となり,在庫を圧縮にし,機会損失を最少にすることが期待出来ます。

印刷業界のサプライチェーンのイメージを図に表わしてみました。
発注元から消費者までのサプライチェーンに多くの企業が繋がっていることが分かります。各々の企業が独立して作業をしているのであれば,企業毎に類似の作業が繰り返されていることが考えられ,全体最適の観点から見てコストと時間の無駄が発生していることになります。印刷物の発注元である顧客が自社の印刷物製造をSCMシステムでコントロールして無駄の削減を図ろうとするのは当然でしょう。
しかし,SCMの導入は簡単ではありません。
ある広告主が電機メーカーだと仮定します。その広告主は電機製品を消費者に向けて製造販売をしています。広告主はマーケットで厳しい競争に晒されています。生き残りのポイントは如何にタイミング良く新製品をマーケットに投入するかです。この広告主の必要な印刷物の一つは取扱説明書です。
この例では取扱説明書は新製品の開発,製造,販売と密接に連動して製作されなければなりません。新製品の機能と取扱説明書に記載されている内容に不一致があることなど許されるはずがありません。取扱説明書は最終的には製品と同じケースに梱包して出荷されるので,製品製造のSCMと取扱説明書のSCMは両者の整合性が保証できるシステムでコントロールされる必要があります。
これは広告主の製品製造のSCMと印刷物製作のSCMが完璧に連動するシステムが不可欠であることを意味してます。
この例でお分かり頂けると思いますが,完璧なSCMシステムを構築するにはまだ多くのバリアーがあって難しいことです。
特に複数の企業をつなぐサプライチェーンでは企業間の調整が難しいため,実施例は極めて限られています。このため日本でのSCM導入の殆どは単独企業かグループ内企業に留まっています。 しかし,厳しい市場競争を勝ち抜くには,常に全体最適を追求しながらリードタイムを短縮して機会損失を無くし,在庫圧縮によりキャッシュフローを上げるSCMを避けて通るわけには参りません。
今後多くの企業がSCMの導入にチャレンジするものと思います。
印刷業界も顧客の動向を的確に捉えて,共にチャレンジすべきではありませんか。

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「JAGAT大会2004」講演より

2004/07/29 00:00:00


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