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IT化は印刷業界にどんな影響を与えたか その3

印刷業界は多くの顧客を持っていますので,顧客毎にSCMの構築を要請されるかもしれません。そこにはハイレベルシステムもあるでしょうし,場合によってはローレベルのもあるでしょう。印刷業は基本的にはあらゆる業種の顧客と共にビジネスを展開しますので,顧客側の事情がストレートに自社内に持ち込まれます。従って印刷業界が受け止めるIT化,それに伴う環境の変革は均等には来ません。
これに対応していくには非常に難しい面があるのですが,顧客サイドの意向をくみとりながらチャレンジするしかありません。その時大切なのは受け身に回らないことです。
顧客とともにSCMシステムを導入するとき,全体最適を目指すのですから各々の業務担当部門は対等であるべきです。SCMの中に上下関係を持ち込んで下に無理を強いると全体最適は実現できません。したがって印刷業界は対等な立場を主張できるように準備しておく必要があります。


▲ 印刷業界サプライチェーン

さて,印刷業界の現状をもう一度見ますと,最大の問題は低単価,短納期,小ロット,高品質問題です。これらの問題は印刷業界にいる誰もが抱えている問題で,何とか解決したいと考えていますが,これといった解決策見当たらず,苦労が続いています。
この問題をどのように考えるかは解決の方向を定めるポイントであると思います。
少々乱暴ですが,私は敢えてこれらの問題をSCMの全体最適追求が先行した現象であると捉えてみました。
先ほど申し上げましたように,印刷業界へのSCMシステム導入はこれからです。全体最適を追求するシステムはまだ存在しません。それにも関わらず単価ダウン,短納期,小ロット,高品質保証が印刷業界を覆っています。全体最適などとは何の関係もない現象だと言えるかも知れません。
それではこのような状況からどのようにして抜け出すのでしょうか。
単価ダウンに対応するため,印刷製造部門が必死になってコストを下げます。全体最適の考えが無く,部分だけを見る限りは,印刷コストが下がればそれに超したことはないということでまた単価を下げられます。全体の中で考慮してこそ適正価格という判断が出来るのですが,部分最適の追求体制では安ければ安いほど良いということになって歯止めが効かなくなります。
納期設定でも同様なことが言えます。企画,製造,納入,配布のサプライチェーンのなかで,リードタイム短縮を図りませんと,ただ単に印刷製造のスループット時間は短かければ短かい程良いという部分最適の判断に陥ってしまいます。
ロットの問題にしても,紙面に盛り込んだ新しい情報価値がいつまで持つのか,次の紙面作成のリードタイムはのどのくらいかということも含むサプライチェーン全体をコントロールする中で適正ロットを決めるべきでしょう。
印刷業界が必死の思いで対応する短納期や小ロット対応策がサプライ・チェーンの中で有効に機能して価値あるものとして評価されなければ,何のために苦労するのか分からなくなります。全体最適を追求するシステムの中で印刷業界の働きが評価されるようにしたいものです。

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「JAGAT大会2004」講演より

2004/08/01 00:00:00


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