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IT化は印刷業界にどんな影響を与えたか その4

現在,印刷業界は厳しい状況にありますが,幸い最も得意とする紙メディアの有用性が再認識されて来たように感じます。これを追い風にして印刷業界は明るい将来を築かねばなりません。社会全体がIT化する中で,印刷業界が取り組むべき課題は非常に多くあります。
これから何をなすべきかという方向を決めるには,私たちの社会がどのように変化していくか,テクニカルロードマップをどのように描けるかを的確に把握しなければなりません。すなわち総論レベルで目指す方向のコンセプトを固めておく必要があります。次に具体的なアクションプラン,行動計画を立てることになりますが,ここでは総論をいくら論じても先へは進めません。徹底的な現状分析を土台にした各論ベースで行動計画を組み立てて実行に移していくべきです。

マーケティング戦略への参画ということが言われます。これは顧客が消費者を対象に戦略を展開する際,最初から印刷業界が持っている技術をリンクさせて顧客の目的達成に役立つことであります。印刷業界には文字,画像データの蓄積,加工,それらの組み合わせを変えた多様な表現,カタログ,パンフレットの柔軟な制作,あるいはWebメディアへの変換,接続など優れた技術があるので,顧客の要望に対応できる可能性は大いにあります。しかし顧客との間に信頼関係が成立していなければ,顧客が戦略を練る段階での参画はあり得ません。場合によっては顧客との信頼関係をどのように築くかが行動計画のスタートになるかもしれません。その際,顧客との関係は現在どのような状況にあるのか,競争相手の存在はどうかなど徹底的に現状を分析し,その結果として出てきた課題は全て具体的な行動に落とし込まなければなりません。なすべきことは山ほどあり,不退転の決意で一つひとつ地道な積み上げをしていくことしか成功への道はないでしょう。

印刷業が成長を続けるには付帯業務,派生業務を取込むことが大切であると言われます。印刷に付帯する業務は数多くあります。グラフィックデザイン,システムインテグレーション,データベースマネージメント,コンテンツソリューション,フルフィルメントサービス,さらにコールセンター,メーリングサービス,人材派遣業など数え上げれば切りがありません。実際に印刷業が取り組むのであれば印刷業の優位性が発揮できる分野から始めるべきでしょう。その一つにセールスプロモーション用印刷物があります。その印刷物を中心にして,マーケティング,企画,媒体計画,製造,製品在庫管理,配布,顧客管理など多くの付帯,派生業務が考えられますが,どの業務を対象にするとしても,徹底的な現状分析と,具体的な行動計画を欠かすことが出来ません。

顧客のサプライチェーンに印刷専業者として参画する選択肢もあると思います。もしそうであれば印刷専業者として他の追随を許さない体制を確立しなければなりません。印刷の高品質を保証するにはカラーマネージメントを正しく使いこなすことは当然で,更に印刷の感性評価ができる人材も揃えておかねばなりません。カラーの品質は印刷物の品質の一部であって全体ではありません。印刷物の品質評価は計器では不可能で人間の感性評価でしか出来ないのが現状です。また,印刷専業者としては低コストにも対応しなければなりません。印刷部門を新鋭機だけで運用するとコスト高になります。従って新鋭機と旧式機が並存できる管理体制が必要です。それにはあらゆる現象に対応できる職人技とも言える技術を印刷現場に維持しておかねばなりません

印刷専業者としては紙メディアの情報伝達機能を更に向上させるべきです。それは紙製品の加工工程での高機能,多機能化の追求あると思います。また,印刷専業者としては安定した製造現場の構築と正確な納期対応が必要です。それにはJDF,JMF,CIP4というキーワードが使われる新しいネットワーク管理システムの導入も避けて通れません。印刷専業者として生き残りをかけるのであれば,そこでも数多くある課題の対応策を各論レベルで確実なものにして,実行に移していくべきでしょう。
印刷業界が取組むべき課題は,これまで例としてお話したことに加えてCIMの構築,クロスメディア対応,デジタルセキュリティー対応など数多くあります。このことは印刷業がこれからも発展する可能性が非常に大きいことを示しており,明るい将来を期待することができます。

印刷業がIT化してきました。IT化はオープン化であり,ボーダレス化です。この環境の下で自社を発展させるには自社の特長を徹底的に伸ばして自立を図らねばなりません。特長の無い会社はボーダレスの市場で埋没してしまいす。
自主独立を図るには自社対応力の徹底分析がスタートです。自社にマーケティング力,企画提案力は備わっているか,技術力(プリプレス,プレス,ポストプレス)は十分かなど分析が必要です。さらに資金力,管理力,社内人材,社外人脈なども見ておかねばならないでしょう。自社の現状を明確すれば将来設計も明確にすることができます。自主独立に向かってチャレンジしていけると思います。
一方,IT化,オープン化の市場環境にあっては,目ざす特定部門での自主独立はあっても全体を一人占めするような独立独歩はあり得ません。自立した者同志が共生ネットワークを組んで大きなビジネスに立ち向かう方が成功の確率は高いといわれています。
技術・システムの物理的ネットワークに留まらず,人的ネットワークも含んだ共生ネットワークを顧客,同業者,関連業者に拡大して自社の発展につなげて欲しいと考えます。

あれこれ散漫な話になってしまいましたが,申し上げたいことは以下の通りです。

【1】 印刷業の顧客が厳しい企業間競争に勝ち抜くためITを駆使して全体最適を追求するようになると考えられます。
【2】 顧客サイドからみた全体最適追求の仕組みに積極的に参加する中にこそ印刷業界発展の道が存在すると思います。
【3】 印刷業が為すべきことは数限りなくにあるが,これは印刷業界の発展の可能性を示しています。
【4】 課題解決の行動計画には徹底的な現状分析を土台にした各論レベルの判断が大切であります。
【5】 自主独立と共生の精神で自社の発展を図って欲しいと思います。

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「JAGAT大会2004」講演より

2004/08/14 00:00:00


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