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ゴールはメディアでなくソリューション

ある目的のために複数のメディアを効果的に利用するクロスメディア。クロスメ ディアのビジネスと,従来のメディアビジネスである印刷との違いは何か。大日 本印刷技術本部シニアエキスパート江川裕仁氏にお話を伺った。

マルチメディアのパッケージの登場で明らかになったことは,技術やデザインど ちらかの要素だけでは十分でなく,両方のスキルが必要であったことである。 その後マルチメディアは一気にインターネットに置き換わり,更にクロスメディ アへと変化を遂げる中で,これらに加えてビジネスソリューションのスキルが必 要になってきた。

印刷で紙メディアが作られる場合,出版物であれば出版社側が企画,編集し,印 刷会社でプリプレスと印刷を行う。商業印刷の場合も同様に,一般企業が販売促 進のための印刷物を企画し,印刷会社に印刷物を発注した。DTPの登場は,この 流れを大きく変えるものではなく,印刷で必要であった写真技術などの知識が, コンピュータの知識に変わったという程度であった。

マルチメディア,インターネットが登場した時には,静止画だけでなく動画の要 素も加わった。紙は色やサイズの自由度が比較的高かったが,ディスプレイは紙 に比べれば2次元表現は限定される。その上でいかに効果的に見せていくかとい う表現上の能力が求められた。さまざまな表現を実現するためには,プログラム やオーサリング,ブラウジングなど新しい技術を知る必要があった。従来のプリ プレスよりも知るべきことが多いが,ある程度勉強すれば対応できた。

クロスメディアの場合,メディアを横断すればクロスメディアなのか,ワークフ ローをまたぐのがクロスメディアなのか。何をすればクロスメディアなのかは人 によって理解の異なることが多い。インターネットで単に情報を伝えるくらいま でならコンテンツを作れば良かったが,クロスメディアはそれだけでは十分では ない。クロスメディアのディレクタからプロデューサを目指す人は,ビジネスソ リューションやデザインなどの知識も必要である。メディア単体だけではなく, それを補完したり複合し,顧客の課題解決をしたりして価値を創造するスキルが必要で ある。

技術側にフォーカスするならば,個々の技術の知識をさらに深めていかないとい けない。情報処理技術者の試験は,以前は第一種情報処理技術者試験と第二種情 報処理技術者試験に分かれていた。今ではシステムアナリスト試験,初級システ ムアドミニストレータ試験など職種や技能が明確にわかるような形で資格が分か れている。データベースひとつとりあげても,データベースをきちんと設計でき る人がどれだけいるだろうか。オブジェクト指向のプログラミングも,クラスを 寄せ集めて巨大なプログラムを作り上げていたというケースは案外存在するので はなかろうか。こういう実態を踏まえてより良い方向にもっていくためにはどう したらよいか,ということもカリキュラムに求められる。プロデューサとしてソ リューション実現手段のクオリティを見極めるのも重要な役割になる。

DTPでのメディア制作では,カンプを見せればクライアントもだいたい完成品の イメージを理解してくれるが,クロスメディアはそうはいかない。どちらかとい えば,システム開発をするソフトウエアの産業のスタイルに近い。受注 などの形態も同様ではなかろうか。顧客の抱える課題に対して,カスタムでメデ ィアのソリューションを提供するケースや,パッケージ製品のようにメディアを 作るケースなどが考えられる。ソフトウエアの業界を一度調べておくと参考にな るだろう。

ソフトウエアの業界も顧客の仕様にしたがってソフトを開発する下請け的な仕事 も多い。ソフトハウスが営業する際には「リスクを減らすためにもコンサルティ ングから仕事をする必要がある」と聞いたことがある。「仕様書」だけを持ち込 まれるよりは,「こういうことに困っているので,解決策はないか?」と持ちか けられるほうが双方にとって良いと言うことだ。「クライアントに対して事前に リサーチをして,それをもとにコンサルティングを行うので実態と目指すところ がよくわかる。そうするとソフトハウスにとってもリスクは少ないし,クライア ントにとっても適切なシステム設計・開発ができる」という理由である。

クロスメディアはソフトの開発よりさらにスキルが必要だ。コンピュータにプロ グラムを入れれば終わるのではなく,なんらかのメディアに展開し,ビジネスに しないといけない。ソフト開発主導で「メディアに落とし込む」ところだけを任 されてもクロスメディアのソリューションにはならないであろう。メディアを生 かしたソリューションの仕組み作り,システム開発にまで入りこんでいかないと ならず、そうでないとビジネスのメリットも少ないであろう。

2004/07/22 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会