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ブロードバンドはFTTHの時代に

インフラ高速化の飛躍的拡大の要因として,ブロードバンドアクセス回線の多様化,高速化,低価格化が挙げられる。FTTH,IP電話,放送が1本のネットワークで提供されるようなワンストップ型のサービスがマンションを始めとする集合住宅に広がっている。技術的には明るさが見えてきたIT・情報通信であるが,FTTHの普及は,サービスを提供する通信事業者にとって,苦しい戦いを強いられることになる。
今後の課題は,この高速化されたネットワークでいかに収益の出るビジネスモデルを築くかである。情報通信総合研究所の櫻井康雄氏はインターネットというネットワークで構築される環境全体で何を創出するかのビジョンをもち,そのビジョンを実現していくために必要な仕組みを整備していく必要があると指摘する。

FTTHと事業者の動き

2002年4月にソフトバンクBBが,Yahoo!BBにIP電話を加えたサービスを開始した。頭に「050」を付ければ受発信ができるというもので,インターネットと同時利用なら基本料金は無料である。無料とはいえ,IP電話の有料部分は提供事業者の収入になる。また,たくさんのサービスを利用するところへ顧客を誘導しているので客単価が上がる。
有線ブロードでは,第一種電気通信事業者として光ファイバを都市部に展開している。その中でIP電話をバンドルした「GATE CALL」を行っている。
「GATE CALL」は,グループ企業ではあるが有線ブロードとは別の会社によって提供されている。従ってIP電話は無料で付かず,何百円か料金が余計に掛かる。BBフォンの場合は無料なのでBBフォンは要らないという顧客はいないだろうが,「GATE CALL」は要らないという顧客は出てくる。
合理的に考えればADSL市場が大きいので,ADSLでサービスを充実化することは正しい。光ファイバがいずれ伸びてくるということを見越して,FTTHの上でYahoo!がやっているような高速インターネット+IP電話+放送を商品化したのがKDDIの「光プラス」である。3つのサービスを合わせると6950円で,IP電話,高速インターネットの2つでは4550円である。
集合住宅向けのサービスは,電力会社などの安いメニューを探せば3900円くらいで見つかるが,IP電話をさらに加えるとセット割引で,5000〜6000円が多い。2つ合わせて4550円というのは格安である。
KDDIは集合住宅での光ファイバにおいては後発である。集合住宅のFTTHで今一番シェアが高いのは有線ブロードと言われている。有線ブロードは既設のマンションに強い。そこにKDDIの「光プラス」がやってくると,集合住宅同士でバッティングするので,有線ブロードは「GATE CALL」を充実化させてくるだろう。
「光プラス電話」と「GATE CALL」は大きな差がある。どちらも光ファイバのIP電話で,電話番号も0AB〜Jという普通の加入電話と同じ体系をもっているが,「GATE CALL」の場合は番号ポータビリティが効かない。「光プラス電話」はNTTの電話番号と同じ番号を使える。
また「GATE CALL」の場合は,110番などの緊急通話ができないが,「光プラス電話」ならつながる。IP電話は110番ができない,停電になったら困るなどと言われるが,「光プラス電話」は緊急通報ができる。つまり固定電話が不要になり,1750円の基本使用料を払わなくていい。そうすると「光プラス」のセット料金4550円を払っても,実質3000円弱でサービスが受けられるという仕組みである。

垂直統合型と水平分業型

Yahoo!のビジネスモデルは1事業者が,1人のユーザに対して複数のサービスをバンドルして提供する垂直統合型である。Yahoo!BBというADSLによるインターネットの接続サービスを提供する。無料でIP電話のBBフォンが付いてくる。またキャンペーン期間中はモデムが無料で貸与されるが,最終的にその顧客が魅力を感じて,知らない間にいろいろなサービスに加入し,いろいろなものを買ったりすることで客単価はだんだん上がり,会社としてペイするのが垂直統合型のビジネスモデルである。
一方水平分業型は,同じようなレイヤーのサービスを複数の事業者が提供していく。Yahoo!BBと対照的なのはNTT東西のフレッツサービスである。フレッツサービスはインターネット接続サービスだけでISPサービスは含んでいない。NTTは通信に特化してある限定的な通信サービスだけを行うべきであるという考え方が従来からある。フレッツに入った顧客がISPはニフティがいいと言えば,ニフティとフレッツのペアで割引や特典が付く。
Yahoo!の場合は,ISPもYahoo!になり,回線はADSL,電話はBBフォンになる。ユーザから見ると,一つ決めると全部セットになっている。フレッツのほうはユーザが全部選べるというメリットがある。逆に言うと,全部個別に契約しなければいけない。ニフティのホームページには,自動的にフレッツも契約できるという工夫はあるが,基本的には別々のサービスになっている。IP電話は,ニフティに入ればニフティのIP電話を利用できるが,基本的にはインフラ提供とは別になっている。

垂直統合型がやや優勢か?

ビジネスモデルの垂直統合型と水平分業型は,やや垂直型が優勢のようである。なぜかと言うと垂直型には,ネットワーク外部性,経済学で言うエクスターナリティのメリットがあるからである。
外部性とは例えば職場でMacを使っていたが,10人のうち6人はWindowsを使い始めた。Macは好きだが,取引先はWindowsで,隣の人もWindowsである。もらったファイルもWindowsで,やむを得ずWindowsにするという人が後を絶たない。これはWindowsの策略ではなく,ユーザが勝手にWindowsを選んでいった結果という具合である。
垂直統合型は,その外部性が最も強く出ると考えられる。例えばBBフォンなら無料である。全国にBBフォンの加入者は350万くらいいる。無料でモデムをもらって,無料で電話できると思えば,その人は加入するだろう。同時に,バンドルでほかのサービスも受けるようになっていく。
水平分業型でも,例えばニフティの電話同士は無料なので,ニフティの電話に加入しようと考えることもある。
ネットワークの外部性というのは,1万人加入している電話に新たに入る場合と,10万人のネットワークに入る場合では便益が違う。自分が10万人のネットワークに10万1人目として入るということは,自分も便利だが,残りの10万人の人にも良いことである。それは市場で取引される概念ではないので,外部性と言われている。
水平分業型の場合は,ユーザが全部選択できる。無理に提供されるのが嫌という人は,水平分業型でオプションとして一つひとつ選んでいけばいい。オープン化ということでもある。NTTフレッツ上でいろいろなサービスが提供できるので時代に応じた最先端の技術が参入しやすい。
垂直統合型は閉じているので,ソフトバンクは自分の力で技術を開発,購入し続けなければいけない。インターネットの世界は創造的破壊が激しく,昨日まで当たり前だった規準が翌年そのとおりにいくかどうか分からない。そういう意味では,水平分業型のほうがスムーズに新しい技術が入っていけるので,技術革新にも対応しやすいのではないかと考える。

2004/07/12 00:00:00


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