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JPEG2000技術を利用したコンテンツ配信技術

最近出版用のコンテンツを印刷物のイメージで見せて読みやすくしようというコンテンツ配信の動きが多く出てきている。マニュアル,新聞,雑誌,カタログ,企業情報などが対象となっている。
これを実現する技術にも,いろいろなツールが出てきており,これからツールやビジネスの方法も含めて競争が激しくなりそうである。

これらは大抵は1ページずつ見開きでページをぱらぱらめくるようなイメージで見ることができる。また全体像を見せるので,当然画面の大きさでは字が小さくて見づらい。そこで虫眼鏡のような機能や全体のズームアップ機能で読みやすくするのはどのツールも似ている。
このようなツールを利用したデジタルコンテンツの配信は,これから多くのコンテンツを対象にさまざまな動きが出てくると思われる。ここではその中でも新しい技術であるJPEG2000を利用したツールを紹介する。

DocumentSkipper

高速文書閲覧システムという位置付けでNECが開発したシステムにDocumentSkipperがある。ブロードバンドネットワークが普及してきたので,従来のコード化された文字情報を送るのではなく,印刷物の紙のイメージをそのまま効率的に送ろうという考え方である。
速く送れて奇麗に見せられるという点が特徴である。これは逆に紙文書と電子文書を共通の見せ方をしたいという要望も実現できる。

このような要望を実現しようとする技術がいろいろなツールとして出てきており,その中の一つがDocumentSkipperである。概要は印刷のイメージを次世代画像フォーマットのJPEG2000(後述)を用いて高速配信かつ高速閲覧を実現するためのソフトパッケージである。

DocumentSkipperの特徴

DocumentSkipperには,ぱらぱら表示と呼ぶページの高速連続表示機能がある。ぱらぱら表示の時は低解像度データを使い,ページを選んだ段階で文字が読める高解像度データを使って鮮明な表示を行う。例えば600dpiのデータの場合,ぱらぱら表示では75dpi,ページを選んだ段階で150dpi,さらにこれを拡大すると300dpi,600dpiと解像度を動的に変える。
この機能は一つのファイルの中に,複数の解像度データを保つJPEG2000の特徴を活用して実現している。さらに画像をタイルに分割することで,拡大表示では表示領域に相当するタイルのデータのみを取得する。
以上のような効率の良いデータ転送によって,スムーズなページめくりとレスポンスの良い拡大が可能なブラウザ機能を提供している。

また,コンテンツの保護機能としては,サーバ側で印刷機能のオンオフが設定可能であり,記事のコピーを禁止することができる。
このような機能は,配信と閲覧を目的として,広帯域,常時接続のブロードバンドネットワークが利用される時代に,いつでも見たい時にサーバから閲覧できる仕組みを実現している。オンラインで素早く閲覧でき,クライアントにコピーを作らない。これで最新情報をコンテンツの保護を行いながら閲覧させることができる。

適用市場

このようなシステムの適用市場は次のような対象が考えられる。まずは出版コンテンツの配信システムとしての市場がある。書籍,雑誌,カタログ,パンフレットなどの従来の印刷コンテンツをデジタルで配信する市場である。
また美術館・博物館では展示内容をもっと知ってもらうために,常設展・企画展の図録制作データをそのままWebに掲載することができる。図書館書籍閲覧システムのような持ち出し禁止資料を電子化し閲覧できる。
ネット上の書籍販促としては,内容の一部分を閲覧可能にでき,内容を確認してから購入できるようにする。

通販カタログの電子化にも活用できる。印刷物では頻繁な商品入れ替えが大変であるが,電子カタログにすることでこれが可能になる。紙のカタログに掲載しきれない部分をネット上から閲覧できるようにするとか,印刷コストを下げながら多くの商品を掲載することが可能になる。また印刷機能をもたせれば紙への印刷も可能になる。今までのWeb利用では,見せるのはWebで見せて印刷する場合はPDFをダウンロードするといった,作成も利用も面倒であった部分を解決できる。

電子書籍の利用としては,会員誌や定期購読の雑誌などを会員向けに配信して購読できるようにする。またバックナンバーなどをデジタルで有償で販売するなどが可能になる。
新聞コンテンツも配信可能である。輸送の時間が掛かるような所での電子新聞閲覧システムが可能である。全体を閲覧しながら読みたいページを拡大表示して読んだり,また紙で出力して読ませることも可能である。しかも海外にいても日本語のフォントなしで読むことができるのがJPEG2000の特徴である。

電子出版,電子書籍以外の利用としては,ドキュメント管理システムとしても利用可能である。社内文書やマニュアル,保存帳票などの社内文書の閲覧システムとしての利用である。この場合は,ドキュメント管理としての工夫が必要であるが,OCR機能などと組み合わせて全文検索との組み合わせや,または電子書棚やキーワードや各種の分類方法と組み合わせながら,さらにドキュメントをぱらぱらめくりながら探すこともできるシステムになる。
長期保管義務のある帳票や申請書,契約書などを保管システムで保管しながら,閲覧はパソコンから高速に閲覧ができるような利用もできる。

このように,紙イメージのドキュメントや書籍をネットワーク上で高速に閲覧できる技術ができてきている。ここでは,配信技術とブラウジング技術になるが,このような技術とコンテンツ管理システムを組み合わせることで,いろいろな利用用途が可能になる。

JPEG2000の特徴

国際標準規格(ISO/IEC 15444-1)であり,一般的にJPEGと比べて圧縮率が20〜30%高い。また,一つのファイル中に複数の解像度を保持し,用途に応じて必要な解像度のデータを取り出すことができる。さらに,元のデータを忠実に再現できるロスレス圧縮にも対応している。
DocumentSkiperの新バージョンでは,JPEG2000の配信面での特徴だけではなく,管理面での機能としてリモートサイトからのアップロードとブック登録,キーワードによるブック検索および閲覧中のキーワード検索などの機能が強化された。また不正閲覧防止を行うための期限付きURLなどが搭載された。詳しくは,NECのDocumentSkipperのホームページで確認できる

このようにコンテンツ配信のためのいろいろなツールが出てきているが,従来のWeb利用では実現できなかったコンテンツ配信技術を利用することで,印刷会社が得意とする紙イメージでのコンテンツデザインでコンテンツを見せるビジネスの新たな提案が可能になってきてた。
このようなツールはここで紹介したNECだけではなく,いろいろなベンダーから登場してきている。それぞれ細かな特徴や導入コストも違うので,コンテンツに合ったツールを選んで使う必要があり動向を見ている必要がある。
(通信&メディア研究会)

出典:社団法人 日本印刷技術協会 機関誌 JAGAT info 2004年8月号

2004/08/12 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会