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なぜ,PDF/Xワークフローが注目を集めるのか? 現状と今後の行方

PDF Conference実行委員会 会長 白旗保則

なぜPDF/Xが,今注目されているのか?

昨年の後半辺りから,「印刷を目的としたPDFのガイドライン」としてISO規格であるPDF/Xが大きな注目を集めている。PAGE2004のセミナーやJAGATの通常セミナーでもPDF/Xを取り上げたセミナーは大盛況。では,なぜPDF/Xが今注目されているのだろうか。
1つ目のポイントは,DTPワークフローにおいてOSやアプリケーションが次々新しくなっている点。新製品が発表される中,制作側のアップグレードに印刷側が追いつかず,今までのアプリケーションデータのやり取りだけでは無理が生じてきている。つまり,一定のルールの上でPDF入稿が実現できれば,制作側・印刷側双方で同じ環境を用意する必要がなく,お互いの負荷が軽減できると期待されている。
2つ目のポイントは,今までのPDF入稿はトラブルが多すぎた点。今までのPDF入稿では,受け取る入稿データの品質にバラつきがあった。つまり,PDF作成側に正しい印刷用のPDF作成に関する知識が不足していたために,このような問題が起こっていたわけだが,このようにガイドラインができたことにより,一定品質以上のPDFが入稿され安心して印刷側が受け取れるのではないかと期待されている。
3つ目のポイントは,責任所在の明確化。今までのDTPワークフローでは,制作側のDTPデータに問題があった場合でも印刷側で対応することもあった。PDF/Xを印刷ワークフローに採用することにより,PDF/X作成側の責任が明確になりこのようなトラブルは印刷側としては回避することができ,安心してPDFを受けられる。また,CTPの導入が進みネットワーク環境が高速化されたことにより,リモートプルーフなど新しいワークフローへの期待も高まっている。この場合もネットワークに親和性の高いPDFのメリットは十分享受できるのではないかと思う。

印刷発注側でも期待されているPDF/X

また,印刷発注側でWindowsDTPを採用している場合,PDF/Xへの期待が大きい。WindowsDTPを採用している傾向が顕著なのはマニュアルと自治体広報紙である。これらの業界では,他部門との親和性を保つためWindowsでのDTPが一般的だ。印刷発注側がWindows,印刷受注側がMacOS。この壁を取り払うデータ入稿フォーマットとしてPDF/Xが注目されている。
マニュアル分野では,PDF/Xが注目されているポイントは3つ。1つ目は,メーカーの製造部門が海外に進出することに伴って,現地印刷のニーズが急速に拡大している点。現地での印刷発注に際して,分かりやすい印刷ルールが必要でありISO規格であるPDF/Xがメーカーでは安心して導入できるのではないかと期待されている。
2つ目は,マニュアル分野ではWindowsDTPが主流である点。WindowsDTPで作成したデータを,安心して印刷できることをどのようにメーカーで確認するのか? 例えば,「RGB→CMYK問題」を始めとしたWindowsDTPでの安定したワークフローを構築する上でも一つの基準になるのではないかと期待されている。
3つ目は,メーカー内部でDTPデータの修正などを行う場合も含めて外部とのコミュニケーションツールとしての期待。ISO基準でありネットワークへの負荷も低いPDFを採用することにより,より効率的な印刷ワークフローを海外とも構築できる可能性があるのではないかと期待されている。
自治体広報紙の場合も,マニュアル分野と同様にWindowsDTPで作成したデータを,安心して地元の印刷会社に渡すことができるのではないかと期待されている。

PDF/Xの導入は進んでいるのか?

では,実際の話としてPDF/Xの導入は進んでいるのだろうか?
正直なところ印刷会社でPDF/Xを推進しているところはまだまだ少ない。印刷会社において検証などが済んでいないPDF/Xに対して,自信をもてないというのが本音ではないか。ただ,JDFdrupaと言われた今年のdrupaでの近未来の印刷ワークフローにおいては,PDF/Xが主流となることはどの印刷会社も認識し始めている。今後の取り組みとしては,PDF/Xは必須と考えている印刷会社がほとんどで,少しずつ研究しPDF/Xへの対応を進めていこうという雰囲気にはなっているのが現在の状況である。

PDF/Xを採用している事例

社団法人日本観光協会が発行する,地方自治体・観光事業者・関連団体などのさまざまなニーズに対応した総合情報誌『月刊観光』。この『月刊観光』では,制作作業の効率化と印刷工程へのスムーズなワークフローを確立するためPDFによるリモートプルーフの採用と,PDF/X-1aによる入稿を行っている。これにより,制作側から印刷側へのデータの流れが一方通行になり,従来に比べ短い納期での印刷が可能となった。また,某出版社の発行する雑誌の中吊り広告でPDF/Xによるワークフローを採用したことにより,出版社の制作スタッフの残業時間が大幅に減り,制作コストも削減されたという事例も報告されている。

PDF/Xを導入するためにはどのような情報が必要か?

前述したとおり,注目をされながらもなかなか導入に踏み切れない印刷発注側と印刷受注側。今までの情報発信がバラバラになっているのが問題だと思われる。つまり,発注側と受注側を合わせた一つのワークフローとして提示することにより,分断されていた双方が情報共有でき,PDF/Xに対しての理解が急速に進むのではないか。印刷受注側としては,生産性の向上にどのくらい寄与できるかという面でPDF/Xにはかなり可能性を感じており,それらを実証する具体的な事例やツールを情報提示することによって,PDF/Xを使う目的をより明確化できるのではないかと思う。

PDF Conference実行委員会としての今後の活動

PDF Conference実行委員会の特徴は特定のベンダーの利害にかかわらずニュートラルな立場から情報を発信できる点。制作側と印刷側双方でつながった一つのワークフローを構築する必要性がある中で,「このようなやり方で,このような条件で」という具体的な例を挙げる,または制作側,印刷側の両者の考え方を広く反映したいろいろな事例やツールをご紹介することは大変重要なことだと考えている。
実際にそのような場として,ここ3年活動を休止していたPDFカンファレンスをPDF/Xに特化して開催することにより,印刷発注側と印刷受注側が同じ課題を共有し,新しいワークフローをともに考える場が提供できるのではないかと考えている。
下記の要領でPDF/Xに特化した「PDF/X Conference 2004」を計画している。ぜひ多くの方の参加を期待している。

『プリンターズサークル9月号』より

本イベントに関する詳細はこちら▼
PDF/X Conference 2004





【JAGAT PDF関連セミナーのご紹介】

2004年9月22日(水)開催
■はやわかりシリーズ
知らないと損するPDF
〜ISO化された印刷用PDF(PDF/X)などまだ知らない人のためのPDF入門〜

印刷界のみならず様々な分野に影響を与えているPDFを「まだ知らない」印刷会社の営業・企画・経営、及び関連部署の方々を主対象に、PDFの概念、PDFの作成、加工、またPDFの活用事例を解説する定番のPDF入門セミナーです。
JAGAT会員 10,500円 / 一 般 15,750円(税込)


2004年9月28日(火)開催
Windowsデータ確実出力のための
PDF/X制作マニュアル
 
〜Windows環境でのPDF/X-1a作成法〜
PDFを熟知した講師が「必ず印刷出来るPDF」の作り方教えます! PDF/X-1aをベースとし、Windows環境におけるDTPアプリケーション、そしてOfficeを中心としたビジネスアプリケーションでの制作方法を徹底解説いたします。
JAGAT会員  12,600円 / 一 般 15,750円 (税込)

2004/09/14 00:00:00


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