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動画ビジネスのアプローチと利用者の傾向

かつて動画といえば,映画などのエンターテインメント分野での活用が主流だったが,今や商品プロモーションや制度・利用の説明など,ビジネスユースがメインとなった。また制作〜配信においては,手持ちのDVで撮影した映像を用い,コンテンツの容量を気にせず,簡単に動画を管理・配信できる技術も生まれてきた。Webビジネスに携わる企業は価値あるビジネスを行っていくために,概要,メディア特性,制作工程まで一通りを理解しておく必要がある。そこでユーザは何を欲し,どんなコンテンツが供給されているのか,動画管理・配信技術はどこまで成長してきたのかなど,ストリーミング事業の最大手であるAII株式会社の掛上智史氏に,ブロードバンド時代におけるビジネスアプローチについてお話を伺った。

視覚と聴覚に働きかける「映像」力

「ストリーミングとはどういうものですか」と,よく質問を受けるが,簡単にいうと,視覚と聴覚に働きかける「映像」の表現力の一つとなっている。人に何かを伝える場合,文字・絵・音声・映像など,いろいろな方法がある。例えば文字は,記録として残すのにはいい方法で,だれが見ても同じ情報が得られると思う。しかし,相手に対して「読んでください」,「難しい漢字があったら理解してください」という行為を強要してしまって,百パーセント伝わるかという問題がある。
そこで絵や写真を用いれば,一層イメージが伝わるようになるのではないかという考えが出てくる。もちろんそれはそのとおりだと思うが,細かなニュアンスが伝わるかということである。写真ではその前後の風景,におい──もちろんストリーミングではにおいは出ないが──のようなニュアンスが伝わることは難しい。では,電話や音声などを使えばどうか。そこからストリーミングということになってくるが,音声や電話などを使うと,確かに相手は聞くので,受け身にまわることができるが楽に情報を得てしまうために,なかなか相手の表情や身ぶり手ぶりということに気を遣うことがない。例えば商品の構造などを電話で話している場合,ニュアンスや細かなことまで説明するのは少し難しいのではないかと思う。
さらに音声に映像を加えてみたらどうだろうか。例えば商品を販売するという状況を考えたとき,会うという行為に近い状況を作り出すには,映像というものが一番適しているとわたしたちは考えている。
ただ,ストリーミングをWebサイトに入れれば情報が伝わるのだろうかということを説明したい。
Webサイトでの情報提供は映像ストリーミングを用いることによって,本当に効果的なものにすることが可能だと思う。しかし,このストリーミングを使いすぎると,一瞬で分かるイラストであっても,映像にすることによって非効率になって,最後まで見ないと情報が伝わらないというようなデメリットが出てくる。そのため次の3点に当てはまる条件がある場合は,ストリーミングで流すことをお勧めしている。
第1に人の発言にリアリティ,抑揚などを持たせたい場合。第2に動きや仕組みを正確に表現したい場合。第3に場の雰囲気,臨場感を正確に伝えたい場合。このような場合にストリーミングがいいのではないかと思う。Webサイトで映像を配信する技術の中では,ストリーミングという技術が一般的である。

ストリーミングのトレンド

最新ストリーミングのトレンドでは,Webサイト全体の中でいかに有効に映像を見せるかに気を配ったWebサイトが増えており,第1に映像・テキスト・静止画といった素材を一つのウィンドウに配置して連動されることによって,より効果的に伝えようと意図されたコンテンツが増えている。
第2に「Webサイトと他の媒体との連携」である。Webサイトだけではなくて,テレビCM・雑誌広告など,さまざまな媒体を複合させたキャンペーンが実際に増えている。例えばお菓子を買った場合に,応募はインターネットや携帯で行うというようなコラボレーションが多いと思う。その多くの場合は,テレビやマス媒体では簡単な告知をして興味を持った視聴者や読者をWebサイトへ誘導し,「それをアクセスしてもらうともっとより深い情報を与えます」というような手法を取っている。今後,入り口は紙媒体などに出して,もっと欲しい情報は「Webサイトに来てください」,「ストリーミングで見せます」というようなトレンドもある。
ストリーミングを日本語に直すと「小川」とか「一方向の流れ」ということになるが,双方向のやり取り──先ほどニーズであったが,テレビ電話などのようにお互いでやり取りするような手法や,メールやチャットを生かして一緒にやるようなWebサイトによるeラーニングがトレンドとなっている。
ストリーミングを導入にあたっては配信,企画(どのようなものにしようか),撮影・編集(その素材をどのようなものにするか),ビデオパッケージしてからエンコードなどの業務をどこから始めていいのかと迷われる方が多いと思う。例えば,社内で制作した製品紹介ビデオテープの活用や,営業担当者や販売員の製品説明をそのまま撮影したもの,発表会やイベントで撮影した記録用のビデオの活用,社内や社外のパートナーとの情報共有を目的としたビデオなどがある。
難しいビジネスでなくて,運動会,入学式などをハンディカムで撮ったものがストリーミングの素材となる可能性が高い。
ビジネスでストリーミングをする場合に,最初に目標を作るとストリーミングビジネスが進めやすいのではないかと思う。

購入してもよいコンテンツ

「どのようなコンテンツだったら購入してもよいのか」というアンケートでは「好きなアーティストのライブ中継」,「レンタルビデオショップにあるのと同様のビデオ配信」というもので,金額も450円から500円,安いものでは150円から200円がユーザの希望として挙がっている。これは携帯のサイトでコンテンツを買う場合も,300円=コーヒー1杯という感覚で出してもいいというのが世の中の流れとなっている。月当たりの金額が1,000円を超えるコンテンツもある。AIIでも1,000円を超えるコンテンツを幾つか売ってきたが,1,000円以上払うというコンテンツはユーザの敷居が高くなり,売るのは困難ではないかと考えている。今まで売ってきた金額を考えると300円から500円ぐらいが妥当なコンテンツのお金ではないかと考えている。
今後どのようなニーズがあるのかに関しては,映画とかアニメのようなものが動画配信のニーズとして今後伸びていくのではないかと思っている。地方で場所がない所でも遠隔で「医療分野」や「音楽ダウンロード」,「ネットゲーム」,「eラーニング」が今後増えてくるのではないかと考えられている。「音楽ダウンロード」では,ソニーから「エニーミュージック」というパソコンを使わずに音楽機器で受信できるようなものが出ている。
ビジネス向けのほうではどうなっているかというと,「eラーニング」という社内教育向けのニーズが高まってくるのではないかと考えられている。
5年先のブロードバンドサービスでは,主に映像向けが多くなってくる。テレビ電話のような使い方,お互いに離れている方とのチャットでの動画利用,長時間のホームシアター,在宅ライブハウス,テレビでのインターネットのコンテンツを見たいというニーズがあるのではないかと思う。
(通信&メディア研究会)

2004/10/05 00:00:00


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