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技術向上を狙ったFM・高精細印刷への挑戦

およそ10年前に話題になったが一時期影をひそめていた高品位印刷が、最近になってまた新しい考え方のもとに注目されている。  印刷会社各社の品質管理のやり方は異なる。それだけではなく、一つの工場の中で各々の印刷機の設定を社内標準に統一しておいて同品質のものが得られるのがベストであるが、必ずしもそうならない時もあり、結果的に機械毎に設定を変えなければならない場合もある。そうすると、同じ会社でも複数の工場をもつ場合には工場ごとにその管理の方法に差がでることになり、いつでも同品質の印刷物を製作するとなると、なかなか難しい。品質の管理、安定化はどの会社にも共通した課題である。  ここでは、高品位印刷に取り組むことにより工場の技術力アップと品質向上を図っている印刷会社の事例を紹介する。

FMスクリーンの取り組み動機

 埼玉県に複数の工場をもつA社ではFMスクリーンに取り組んでいる。この会社は商業印刷が主力だ。 きっかけは、プリプレスのデジタル化とCTP化という仕事の流れの中でいかにコストダウンを図り、かつ品質を今まで以上に向上させるかという課題に直面したことであった。 また、古い機械、新しい機械によって管理も違い、工場間の違いから管理のやり方や品質にもバラツキがある。そのバラツキの是正と整合を図るという課題もあった。 そしてもう一つは、顧客から中間調の微妙な調子の再現性を向上させ写真原稿の階調に近づけたいという注文があり、それにいかに対応するかということもあって、FMスクリーンへの取り組がはじまった。

日常の仕事の中でテストを繰り返す

 実際の進め方は特別なプロジェクトチームを作ったわけではなく、日常の仕事の中でいろいろな印刷のテストをしながら現場の人間全員が参加して進めた。テストは、「この1台の機械」と拘らず、オフ輪や枚葉機すべての機械で行った。
 具体的には、カタログの仕事があった場合、最初は通常の175線のAMスクリーンで印刷をする。その後にFMスクリーンの版に取り替えて同じ絵柄をAMでの印刷と同じ条件で印刷するという方法でテストをした。そして、異なるスクリーンで印刷されたものを見比べ評価をした。濃度がどう変化したか、絵柄は校正と合っているかなどを評価することにより、FMスクリーンで印刷するときの機械の設定をどう調節するかというノウハウを積み重ねていった。
 この場合、同じ絵柄の版を替えて2度印刷することになり時間を費やすことになる。しかし、少々時間は費やしても、それぞれの機械ごとにどのような設定をしなければならないかを明らかにできること、オペレータにFMスクリーンを体験してもらうことによるプラスは大きい。結果としては、FMスクリーンでの印刷は当初からある程度のレベルできた。
 その理由は、機械のメンテナンスはもちろんのこと、湿し水・用紙・インキなどの基本的な材料に関する社内勉強会を日常から定期的に行っていて蓄積された理論があったからだ。  機械毎にどうすればFMスクリーンで印刷できるはずだという裏付けがあったため、多少強引な部分もあったが特別なテストをしなくても、日常の仕事と並行しての移行が可能だった。
 もうひとつ見逃せないのは、インキメーカ・製紙メーカー・機材メーカーの情報が必要であったということだ。メーカーの持つ情報と印刷会社のノウハウを組み合わせなければなしえないことだった。

AM・FMの使い分け

 今後、同社ではFMスクリーンの割合を増やしていくことは特に考えていない。現状は圧倒的にAMスクリーンでの印刷のほうが多く、AMにするかFMにするかは営業と顧客を含めて考えなければならない。基本的には日常の機械のメンテナンスをしっかり行い、顧客の多様な要求を受け入れられるための準備をしておくことが必要である。
 顧客からの多様な要求に応じられる受け皿を広く持てることにより、工場のレベルアップに繋がると考えている。

高精細印刷への取り組み

 東京都内に事務所、工場をもつB社では高精細印刷に取り組んでいる。この会社も商業印刷が主力だ。
 受注競争の激しい中で品質上、他社よりも一歩先をいくとしたらどうしたらいいかということで高精細印刷が考えられた。しかし、いきなり高いスクリーン線数だと問題がある。どこまで商業ベースにのせられるかということも考慮すべきことであった。結論として、商業ベースにのせられる範囲内で175線よりも少し違うと感じられる250線に取り込んでいる。

オペレータには知らせないでスタート  実際に進めたときには、オペレータに250線であることを告げず、通常の175線と同じ意識で作業させた。高精細であることを言ってしまうと、オペレータは変な方向へ意識が向いて構えてしまうと考えたからだ。そうではなく、オペレータは通常印刷している175線だという気持ちで作業できるように努めた。したがって、上記のような変更に関してオペレータレベルでの教育も行わなかった。印刷工場の責任者とプリプレスの責任者が印刷物を評価し、しかるべき措置は責任者から現場に伝えるようにした。
 このようなやり方で250線の印刷を行い、もしトラブルが起こったら何か問題があるわけで、原因を究明すればよい。結果として250線の印刷で、特に大きな問題は発生しなかった。 その大きな理由は、175線を何の問題無く常に印刷できるように、日常の工場・機械のメンテナンスを行っていたということだ。
 FMスクリーンについては挑戦中とのこと。商業ベースでは、250線が優先されるべきだと考えたからである。  250線での印刷を確立してさらに、その上を目指すというように1段づつクリアすることにより工場のレベルアップを図ることが重要である。そのような確実なステップを踏むことで営業も新しいツールとして使えるわけであり、顧客の選択肢も広げられる。

日常のメンテナンスが大切

 やり方は違っても上記2社の共通点は、工場・機械の日常のメンテナンスがしっかりできていることだ。そして、高精細印刷・FMスクリーンの成功自体が達成目標ではなく、常に問題意識をもちさらなる技術向上を目指している。
 カラーマッチングシステムも高精細印刷もFMスクリーンも工場内の空調・印刷機が日常的に管理できていなければその効果を発揮できない。印刷現場がデジタル化し自動化機能が向上する一方で、印刷機のメンテナンスのような基本的な部分が忘れられる傾向があることを指摘する現場の方もいる。印刷機のインキ・湿し水ローラーや版胴・圧胴、フィーダー・デリバリの調整など人間が管理できることが基本である。プリプレス側の数値通りでスムーズに印刷できるかというと、実際はそうとも限らないからである。だから、プリプレス・現場・営業がより多く意見を交換しコミュニケーシンをとることによって会社全体のデジタル化がはかられると思う。  (伊藤禎昭)

2004/10/06 00:00:00


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