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オンデマンド印刷が、従来の印刷感覚で経営できない理由

10年ほど前にindigo社のePrintが話題になった時には、すでに商品の製造年月日やロット番号をインキジェットのマーキングは製造業で多く使われていた。カラーコピーも十分普及していたし、カラー印刷のカタログが足りなくなればカラーコピーして使われることもあった。カラープリンタも業務用に使われていた。ではなぜePrintなどでカラーのオンデマンド印刷という新たなジャンルが出来たのだろうか?

ePrintがオフセット印刷機と同様な紙の搬送機構をもっていたように、従来の印刷機の遣われていた分野に投入されたカラープリンタであったといえる。当時では高速・高精細という特徴もあったが、カラーのイメージングエンジンの開発はボディとは独立して開発されているもので、後にindigo社も軟包装用などニッチな展開もしている。ともかくオンデマンド印刷は、印刷機と同じように汎用性の高いものという位置付けがあったように思える。

しかし従来の印刷機の汎用性の高さは、表現力(解像度、色域など)において十分であることや、扱える紙の厚さやサイズの自由度以外に、インキの機能性もある。つまり耐光・耐水・耐摩擦…さらに特殊インキが多く開発され、それが印刷の用途を広げてきた。印刷インキは顔料くらいの大きさのミクロな「機能」を運ぶものでもあった。この点ではトナーはまだあまり特殊用途向けに開発される体制にはなっていないだろう。

オンデマンド印刷のレベルでは耐摩擦性が製本加工適正の点から問題になったが、これは随分改善されてきた。また特殊機能インキという点ではインクジェット用にさまざまなものが開発されるようになり、特にUVインクの登場は産業用途では応用範囲を非常に広げるものになりつつある。だからデジタルプリンティング総体としては従来印刷の汎用性に近づきつつあるといえるが、装置としてみると用途ごとふさわしいイメージングエンジンが異なることになり、装置・イメージングエンジンの汎用性はなかなかない。

もともとカラープリンタは印刷機のような強靭なボディを作らなくても、安いメカで似たものができるというのがデジタルの狙いどころであった。その小型化したイメージングデバイスを使うために高額で強靭なボディを作るというのはなかなかバランスの取り難い開発になる。製品開発がうまくいっているのは従来の印刷では出来ない「穴」を見つけた場合と、むしろインキジェットのマーキングのようにイメージングデバイスを何らかの生産ラインに組み込むことが多くなっているようだ。

いずれにせよ、印刷機のように汎用性に望みをかけて、とりあえず導入してから使い方を考えるというような装置ではないことが、この10年間で明らかになったといえる。

テキスト&グラフィックス研究会会報 Text&Graphics 223号より

2004/10/03 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会