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電子書籍の第2ラウンドを予測する

20年前には電子出版と呼ばれ、近年は電子書籍とも呼ばれる。これほど永く語られながら、概念が未整理な分野というのも、ちょっと珍しい。共通の理解は、紙の本という物的存在ではないことだけで、FD、CD、その他記録メディアの形態を取るビジネスも試みられたが、音楽と同じように次第にオンライン使用に重心がシフトしてきた。

内容は、紙の本のコンテンツの2次利用という出版側の考えから始まった。例え内容に新規性がなくても、売る側からは在庫を抱えないのでコスト負担が最小になること、買う側からは品切れにならず、欲しいときに入手できること、という利害の一致があろうから、インターネットなどオンラインの普及は電子書籍の普及を後押しすると思われた。

違った視点では、著者側に立った見方としてMicrosoftのeBookはWordで書いたものを本人が本の体裁に変換することで、コンテンツが増やせるだろうと考えた。一方ボイジャーは読者の側が画面でもテキストを縦組みにして読めるようにしたビューアを開発し、しかもWebのテキストコンテンツでもeBook化してしまう方法を提供した。

コンピュータが劇的に一般化したこの10年で、どのアプローチも一般化しなかった。しかし実は画面でテキストを読むことはeBookがなくても、mail、メルマガ、ブログと、あまりにも日常的なものになってしまったのである。テキストコンテンツの有料流通や、本に似せたフォーマットについては、この間の人々のデジタルリテラシーとはズレたところで議論していたのかもしれない。

現在青空文庫が着実に積み重ねをしていることや、マンガミーヤなど漫画電子ビューアが続々と立ち上がっている中で、過去の電子書籍のネックであった面白いコンテンツ、新鮮なコンテンツの登竜門といった面も、徐々に電子的な環境でできそうである。そうであるならば電子書籍はこのまま終わるのではなく、第2ラウンドがあろうことが予測される。それは初期の電子書籍事業のパイオニアが個別に未知のマーケットに挑戦していたようなスタイルではなく、デジタル・ネットワークという環境にどっぷり浸かった著者と読者が行き巡る場から興るであろう。

ビジネスとしての問題は課金である。音楽は数分間楽しむために100円を払いダウンロードする。同じ金額を払ってテキストコンテンツを購入しても、それを「消費」するには何百倍の時間がかかる。音楽は繰り返し利用なので時間あたりの金額が高いが、テキストは従量的な考え方が難しい面もあろう。そのようなわけで、電子書籍はビジネスモデルよりは無料に近い利用が先行する可能性もある。

通信&メディア研究会会報 VEHICLE 187号より

2004/10/30 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会