本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

進化したハイブリッドインキと商印への使用事例

ハイブリッドインキについては、UVインキと油性インキの中間ぐらいのものというようなあいまいな認識が一般的である。しかし、ハイブリットインキが上市されてからの市場での反応・ニーズに対応するために、中身は第一世代から第二世代へと大きく変化してきている。  それは当初限られた使用方法からその方法が広がったということであり、そのことにより企業によっては生産効率がアップしたところもある。 
ここでは、ハイブリッドインキの生い立ちと、うまく使いこなしている会社の使用事例を紹介したいと思う。

ハイブリッドインキ開発の背景

ハイブリットインキは、基本的にはインキの乾燥に関する問題の解消というニーズから生まれた。ハイブリットインキが開発される以前には、油性インキの上にUVニスをかけて瞬間的に硬化させた。これによってパウダーを必要とせず、すぐに加工もでき皮膜も強いというUVの特長を生かせる。
しかし、UVニスをかけても、油性インキの皮膜の薄い部分は艶がでるが、厚い部分はマット調となるといったグロスバックが発生した。また、油性インキの上にはUVニスが密着しづらく、UVニスだけが剥がれるという問題も発生した。
 そこでこれらの問題を解消するために開発されたのが第一世代のハイブリットインキである。

UVニスコートを前提とした第一世代 

 第一世代のハイブリットインキは必ずUVニスがかけられるという前提のもとに開発された。このインキの乾燥機構は酸化重合型+UV硬化型であり、UVニスコートをかけてもグロスバックがある程度解消された。また、価格も安いことからコストダウンに繋がると考えられていた。 さらに、印刷機のローラーも従来の油性インキ用のローラーがそのまま使え、洗浄液も油性インキの洗浄液で対応できるというメリットがあった。
 しかし、UVニスをかけないで印刷することも多く、その場合には乾燥に関する問題を解消することにはならなかった。
 そこで開発されたのが第ニ世代のハイブリッドインキであった。

第二世代の特長と従来のUVインキとの違い

 第ニ世代のハイブリッドインキは殆どUVインキに近くUV照射により乾燥させる。乾燥性能は、通常のUVインキに比べると若干甘いことからインキ単独での耐摩擦性・スクラッチ性が劣るとの評価も受けている。そのことは逆にインキ皮膜に柔軟性があるので罫割れ適正がそこそこあるという利点になる。
 したがって、このインキを使う場合はローラーもUV専用でなければならないし、洗浄液もUV専用でなければならない。
 また、従来のUVインキより水幅適正があり、価格がUVインキに比べて安価であることから、今ではパッケージをはじめとして商業印刷でもハイブリットインキの使用を検討しているところもある。
 第ニ世代のハイブリッドインキは重合度が少し弱いため再生紙化のプロセスにおける脱墨基準に合うというところも通常のUVインキとの違いがある。従来のUVインキは脱墨してもインキが取れないことが多かったし、そのためにエコマークを取得できなかった。
第ニ世代のハイブリットインキは脱墨が可能でありエコマークが取得できる。当然のことながら第一世代のハイブリットインキも主に酸化重合を乾燥メカニズムとしているインキだからエコマークを取得できる。
 現在では大豆油のUVインキもあり、インキの成分7%を大豆油で占めればアメリカ大豆協会が UVの大豆油ということで認めており、SOYシールを取得できる。
 ただし、エコマークを取得するためには、脱墨性を考慮して配合したものでなければならないので、SOYシール対応UV大豆油インキの中でもエコマークを取得可能なインキと取得できないインキがある。

多様な被印刷体の商業印刷物に使用

 実際にハイブリットインキを使用している会社をご紹介する。
都内で商業印刷の仕事を中心に行っているA社は、ハイブリットインキを殆どの仕事に使用している。
 一般の用紙はもちろんのこと厚紙、PET、蒸着紙、塩化ビニールといった紙以外の被印刷体にも印刷しており、幅広い営業展開をしている。 
商業印刷が中心のため必ずしもコーティングしなくてもいい第二世代のハイブリットインキを使用している。導入に際しては、試行錯誤した時期も若干あったが特別な問題もなかった。
 A社は、通常の紙はもちろんのこと、蒸着紙やPET系・ユポ・塩化ビニール等、紙以外の被印刷体への印刷もたくさん行っている。そのため乾燥のことを考えれば、通常はそれぞれの被印刷体に合ったインキが使用されることになる。しかし、第二世代のハイブリットインキの場合、UV 照射して乾燥させることができるため被印刷体を選ばずに印刷できる。その結果、異なる印刷媒体を印刷するときにも印刷機上でインキの入れ替えをやらなくても済み、手間と時間が削減でき作業効率に大きなプラスになった。
 また、専用インキを必要とする仕事だと4〜5種類のインキを各色すべて揃えなければならず、1度仕事が終わると今後使われるかどうか判らない状態でストックされる。使わないインキだと半年〜1年も使われなくなり、使用期限切れで廃棄されることになり、年間で数百キログラムも使用しないで捨てなければならない。
 しかし、ハイブリットインキはそういう無駄を出さずに消費できることから、ロングランでみるとコスト削減に繋がる。

ポイントは湿し水の管理

 A社の場合、ハイブリットインキは幅広く多くの印刷物に使えるというメリットはあるが、厚みの異なる被印刷体に印刷していると印刷機に相当な負担がかかってくることも見逃せない。
 版圧、ローラーの状態は常にチェックしておかなければならない。そして一番大切なのは湿し水の管理だ。エッチ液、IPAの状態を常に管理しないと十分な乾燥性能は得られない。
湿し水の管理の仕方には各社いろいろなノウハウがある。A社にも湿し水循環装置が導入されている。この装置を使用してエッチ液のpH、IPAの濃度を調節することにより湿し水の安定を図ることが目的であったが、今までの実績から少なくとも同社のハイブリッドインキにおける判定基準としては安定性に欠けるということで現在は使っていない。そのためエッチ液のpH とIPAの濃度は1日数回すべてビーカーや測量可能なバケツを使用して管理し、手で湿し水を供給している。
 何かトラブルがあったときに最初に行うことは、改めて言うまでもなく印刷機の状態がどうかを点検することである。このとき、機械のメンテナンスを自らの手で行っていないと、トラブルが発生した場合何が原因か判らなくなるからである。
 ハイブリッッドインキのトラブルにおいては、少しでも印刷機のバランス、特に湿し水の状態が狂うと乾燥不良を起こすことになるため、細心の注意が必要であり、手でエッチ液・IPAを調整・供給することは上記のような考え方を持っているからでもある。A社ではハイブリットインキの導入の際に大きな問題はなかったと述べたが、それは徹底したメンテナンスと長年培われたノウハウがあったからだ。(伊藤禎昭)

2004/12/06 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会