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中国のモバイルビジネス

中国に普及した携帯電話は3億台を超えるという。世界一の携帯電話大国となった中国に,日本のコンテンツホルダーや携帯電話メーカーが期待を寄せる。中国で実際にモバイルコンテンツのビジネスを手掛ける株式会社ジェー・シー・ディー常務取締役COO木戸康孝氏に,通信&メディア研究会のミーティングで話していただいた。中国のモバイルビジネスにおける期待とそのギャップ,そして可能性について紹介する。

建築からモバイルへ

ジェー・シー・ディー(JCD)は代表取締役社長の徐志敏氏が1993年に創業した。2004年4月時点で,資本金は3億5000万円,社員は日本の事務所が約50名,北京の子会社は2社合わせて約80名いる。今期はグループ全体の売り上げが約16億円を達成する予定で,2005年秋に向けて東証のマザーズへの株式公開の準備を進めている。

JCDにはサイエンス事業,モバイル事業,システムソリューション事業という主に3つの事業がある。サイエンス事業は建築の構造解析,モバイル事業は中国へのモバイルコンテンツ配信,システムソリューション事業はモバイルシステムの開発や中国へのローカライゼーションなどを手掛けている。もともとは建築・土木系の事業が中心の会社であった。この1〜2年で事業の中心はモバイルビジネスへと移っていった。

技術が多様化する中国の携帯

中国にある移動体通信系のキャリアは「チャイナモバイル」と「チャイナユニコム」の2社である。携帯端末市場における2社の比率はチャイナモバイルが7に対し,チャイナユニコムが3である。

携帯電話の技術は現在第2世代から2.5世代に移りつつある。チャイナモバイルはGSMからGPRS(General Packet Radio Service),チャイナユニコムはCDMAからCDMA 1xへの配信を始めている。

携帯電話の技術において,日本と大きく違う点は,日本は携帯電話のキャリアがイニシアチブを取るが,中国は携帯電話メーカーがイニシアチブを取るという点である。日本では携帯電話のキャリアが携帯コンテンツの配信の仕様を決めているので,それに合わせて携帯電話メーカーが機器を製造し,モバイルコンテンツプロバイダーがコンテンツを配信する。端末やキャリアが異なっても,仕様を合わせれば比較的容易にコンテンツ配信ができる。

中国の場合は携帯電話メーカー主導である。キャリアも配信の技術がチャイナモバイルはGSM,チャイナユニコムはCDMAと異なる。主要である約40社の携帯電話端末のメーカーを押さえれば8割くらいの機種には対応するコンテンツを作ることはできる。とはいえ,コンテンツを配信するためには40社と打ち合わせをするというのは大変な作業になる。

JCDの中国へのモバイル戦略

中国でモバイルコンテンツサービスが開始されたのは2002年9月である。まだ2年を終えたばかりのこれからのマーケットである。

JCDは日本のキャリアが中国に進出する際の手伝いをしてきた経緯もあり,チャイナモバイルからJCDに日本のiモードのようなサービスを開始したいと相談された。これが中国のモバイル市場に参入したきっかけである。

JCDの中国の現地法人は移動納維(MNC;モバイル・ナビ・コーポレーション)と通聯天地の2社である。

JCDでは当初,中国に設立する子会社は1社を予定していた。2001年4月に1社目を作り,約1年を掛けて準備をして,2002年9月に正式にGPRSのサービスをスタートした。ところがチャイナモバイルとユニコムは,それぞれに対して強い競争心を抱いている。例えば,チャイナモバイルに提供しているコンテンツをチャイナユニコムに提供するというのを大変嫌がった。モバイルビジネスが始まってまだ間もないという背景もあった。そこで,JCDでは会社を2つ作り,全く別組織ということで,それぞれにコンテンツを配信している。

子会社2社は両方とも社長が中国人である。通常,中国にある日系企業は,トップや管理職は日本人でスタッフが現地の中国人というケースが多い。しかし,移動納維と通聯天地には,現地採用の日本人女性が1人いるだけで,ほかの社員や管理職はすべて中国人である。この組織体系になっているからこそ,中国のスピード感に合わせられる。

日本のコンテンツは受けるのか?

JCDの子会社MNCのサイトには,約40種類の公式サイトがある。最も人気のあるコンテンツは着メロで,次は待ち受け画面である。男性であれば女性のグラビア系やスターの写真なども人気がある。

実はJCDがチャイナモバイルとチャイナユニコム向けにコンテンツ配信をしている中で,日本からのコンテンツは1割にも満たない。日本で人気があるから,中国でも人気が出るというものではない。日本のコンテンツをそのままもっていくだけでなく,ローカライズすることも大切である。

例えば,日本の女性向けサイトで有名なカフェグローブドットコムと提携して「風流佳人」という情報サイトを提供している。スタート当時は「東京流行色」という名前で東京の流行情報を発信していたが,すぐにユーザが増えなくなった。そこで,日本の情報を2割に減らして中国で取材した情報を8割にした。するとすぐにアクセス数が上がった。

また,ゲームはサッカーゲームを提供している。Javaではなく,単に携帯電話のブラウザで行うゲームである。携帯電話を使ってゲームで遊ぶという文化は,まだ広まっていないという現状がある。

携帯電話の端末については,日本製は中国で数%のシェアしかないと言われている。多く利用されているメーカーは,外資系ではノキアやエリクソン,モトローラ,国産メーカーではTCL,イーストコムなどである。

ただし,折り畳み式の携帯電話の技術が高い日本メーカーは今後シェアを上げる可能性がある。現在,中国では折り畳み式の携帯電話は普及していないが,今後のコンテンツは画面が大きいほうが一層コンテンツを楽しめるからである。

数社の日本のコンテンツプロバイダーが中国でコンテンツを提供している。しかし,自社で配信しているのではなく,中国のコンテンツプロバイダーにコンテンツを預けて配信をしてもらっている。JCDが日本のコンテンツを配信する場合は,日本のコンテンツプロバイダーから預かり,中国の現地法人2社から配信をする。売れたコンテンツに対して,販売した価格のある一定の割合を返す。

中国と日本のゲートウェイに

2004年8月の時点で,中国の現地法人2社が提供するサービスの会員は有料会員と無料会員合わせて約200万人いる。日系企業でここまで大規模に携帯のコンテンツプロバイダーとして中国でビジネスをしている会社はない。日本のコンテンツプロバイダーは撤退もしくは買収された。その一方で,JCDは日系企業で唯一チャイナモバイルと戦略パートナーになったり,3Gやモバイルソリューションを協議する研究会のメンバーとしても参加している。比較的早く中国のモバイル市場に参入したため優位性をもってビジネスを継続している。

JCD(Japan China Development)という名前が示すとおり,会社の経営方針は「日本と中国のゲートウェイ役を担う」ことである。JCDは中国における会員200万ユーザを日本企業に提供し,日本企業とともに中国のBtoCチャネルへビジネス展開を目指す。
(通信&メディア研究会)

2004/12/11 00:00:00


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