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2004年の印刷業界を振り返る

2004年の印刷産業の売上前年比は前年並に終わったようだ。2004年度上期の中間決算における上場印刷企業23社の売上高前年比平均は5.8%増で、2000年度の4.7%増以来4年ぶりのプラスになった。一方、中小印刷業界の売上前年比は▲1.4%の前年割となった。その結果、印刷産業全体としては1.0%増と久し振りのプラス成長と推計された。
しかし、上期に大きく伸びた上場企業も下期は景気後退懸念から売上の前年割を予想(平均1.8%減)している。中小印刷業界では、8月〜10月の3ヶ月間、マイナス幅を深めながらの前年割が続いている。したがって、2004年暦年では、上期の1%増が帳消しになって前年並あるいは若干のマイナス成長になる可能性が高い。

価格に関しては、一部では止まり感もあるようだ。上場企業の決算資料からも、合理化効果を越える価格低下によって売上原価率が上昇し営業利益率が低下するという状況には反転が見られた。そうであったとしてもここ数年の低下が大きかったために「当社の4年前の価格を基準としてみると、その50%の価格水準で落札できる比率は2割あるかどうか」という企業が多いのかもしれない。価格破壊については、官公需に関する声が増えているように思われる。民間企業からの受注減の中で地場の既存市場である官公需で受注競争が激しくならざるを得ないということだろう。
ここ数年のGDPと印刷産業の景況の関係を見ると、景気が多少良くなっても印刷業界の景気は元の水準に戻らず、悪いときには景気全体の落ち込み以上に落ち込むという傾向が見られる。それは価格下落に拍車をかけることになるが、そのような傾向が8月以降の仕事量と売上高の動きにすでに明確に現れている。

日本経済の回復が、輸出産業やエレクトロニクス分野の大手企業の業績が支えたもので、地方の景気の悪さは相変わらずという状況は印刷においても同じである。JAGATが毎月行っているJAGAT会員企業からの景況に関する声を拾ってみると「地方経済は鳥肌が立つほど低迷」している上に「今後、益々、都会に一極集中の時代になりそう」と、さらなる差の拡大が懸念されている。東京に進出している企業からは「地元の仕事では官公庁の量の減少、価格競争で悪い。東京からの仕事は悪くないが月によるムラが多い」、「6月、7月の売上前年比はぞれぞれ10%増、20%増を予測しているが、東京からのチラシ,カタログ等の販売促進印刷物の受注がプラス要因である。地場の仕事では地元企業に元気がないために商業印刷物はダメである」という声が寄せられた。

このような中で、「CTP導入や8色機導入のような生産現場の合理化、人員削減でどうにか採算を合わせている」というのが多くの会社の現状だろう。業界統計における1人当たり機械装置額の連続低下は、全体として見ると供給力過剰の調整になるが、個別企業単位でみれば、必要な設備更新も手控えせざるを得ない企業と新たな投資で合理化を推進して対応している企業との差は広がっているだろう。ある企業は「人員削減でつじつまを合わせているが、新規雇用ができなく代謝がきかなくなった」という。 2004年は、価格低下以外に、さらなる短納期、小ロット化によって利益が出にくい状況も加速した。

2004年は、プロ野球の再編問題が話題となった。そして新たなオーナーとして名乗りを上げた企業が、いずれもIT関連企業であったことは時代の変化を感じさせずにはおかない。印刷業界の不振をよそに、世の中全体は「そうなる」と言われていた方向にどんどん進んでおり、その波を捉えたところは拡大している。
バブルと言われたITだが、バブルとはIT関連の株式市場がバブルだったのであり、ITが社会の隅々に行き渡って企業活動、個人生活に大きな変化をもたらすという流れがバブルであったわけではない。過去3年間で通信事業者の売上高は13%増加し、情報サービス業者の売上高は30%、3.2兆円も増加している。ITのインフラとそれを使ったサービスは着実に日常生活に浸透し、デジタル製品が日本経済の牽引役となっている。

印刷のビジネスも、このような時代の変化に沿った部分が拡大していることは、上場企業の決算における好調分野(エレクトロニクス系、データプリントサービス(DPS)、ICカード、環境対応製品)に見ることができる。
中小印刷業でも、新事業の展開、大きな体制変更を行なった企業から次のような声が寄せられた。
・ 「XMLによる定期情報誌の自動組版の仕事がうまく回り始めた。サーバーに入れたデータを印刷物に使ったりWebに発信するが、印刷物向けの組版は夜中に処理できて、納期、コスト両面で大きな合理化ができる。経費削減に取り組む自治体等での利用も期待できる」
・ 「2004年は、昨年までの諸準備、地盤固めの上に立って提案等を行なった結果、2005年に向けて明るい年であった。T-CMS(サーバーでコンテンツをコントロール)の積極活用、提案。レディーメイド商品による販路開拓と売上増伸。制作コストの大幅な削減(秘策あり)
・「5月より2交代制(AM8:30〜PM5:30又はPM1.00からPM10:00)。現場のオペレーターは残業が減少した。土曜日も交代制で土休無しで営業している。」
・ 「現状のままでコストダウンを進めてもあまり効果が出ないと思う。8月より全社的営業支援体制の組織改革を実施する。得意先への対応のスピード化、環境改善、社内の活性化などである。8月中に営業本部と生産管理の統合が終わり、9月から新体制になる。得意先への全ての対応が早くなり、全社的に顧客への視点が変わると思う」
・ 「今期は5ヶ月連続で対前年同月比が売上増となった。営業への企画担当者の配転効果と短納期・小ロット対応が顧客に満足感を与えていると思う」

業界運動としては、全日本印刷工業組合連合会が2005計画の次の計画として「業態変革推進プラン−全印工連2008計画―」を発表し動き出した。
先進国の印刷業界はどこでも価格低下と利益の減少に苦しんでいる。日本から見れば決して景気が悪くない米国の印刷産業でも、日本の印刷産業と同程度の事業数減少があり、英国の印刷会社の収益性は1998年からの5年間で1/3にまで低下した。
印刷ビジネスは、市場の成熟化と技術革新による供給力過剰と価値の変化、そしてメディアの多様化という印刷ビジネスの基盤の変化によって、もはや景気頼みでの上昇は期待できなくなっている。このような変化に応じて自己の変革なくして経営の持続はできないとうのが、業態変革推進プランの基本認識である。

先に紹介したように、世の中の潮流は予想されたとおりになっている。大きな変革の必要性に直面するほど現実逃避に向かいがちだが、事業の継続、発展を望むならば躊躇している時間はあまり残されていない。どのみち変わらなければないなら、業態変革を皆で成し遂げていこうという業界の提案は踏切りをつけるのによい機会であろう。

2004/12/31 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会