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新旧共存をコントロールして変革への挑戦を

社団法人日本印刷技術協会 副会長 島袋 徹
             

      明けましておめでとうございます。

昨年初頭から日本の経済も少し明るさが見えてきましたが,暮れが近づくにつれてもうピークは過ぎたのではないかとも言われました。日本経済の回復によって印刷業界にプラスの影響が及ぶものと期待してますが,少なくとも現在の景気がもっと続いてくれないことには期待はずれに終りかねません。

21世紀に入って日本もネットワーク社会に変わってきましたが,その象徴的な出来事が昨年起こりました。それは「楽天」と「ヤフー」というネットワーク企業がプロ野球の球団オーナーになったことです。インターネットや携帯電話網を主体にしたビジネスが成立して,旧来の事業体と取って代わる実力をつけたことを実証したのです。

このことでも分かるように日本社会は将に変革期にあります。長くJAGATの最高顧問であった塚田益男氏は「収穫逓減」(投資を増やしてもそれに見合う受注・生産は伸びず,利益が減っていく)の印刷経営から脱皮して,「収穫逓増」(投資額が増えれば受注・生産がそれ以上に伸びて,利益が増える)の印刷経営を目指すべきであると提唱しました。これからは新しい経済原理に基づいた経営を心掛けねばなりませんが,印刷業においては一挙に新しいビジネスモデルに変わってしまうことはありません。変革期には新しいものと古いものが入り混じるのは当然です。変革期の経営はやみくもに新しい方向へ突っ走るのではなく,新旧両方を共存させてコントロールしなければなりません。

新旧の混在は顧客との関係も複雑化するので営業活動を旧来のままにしておくわけには参りません。また,会社組織においても中高年社員と若手社員の価値観の混在があり,新旧の共存をコントロールするのは並大抵なことではありません。

JAGATはこの変革期に望んで印刷業界に幾多の提言をしてきております。例年通り2月に「循環型メディアビジネスに向けて」というメインテーマでPAGE2005を開催します。

初日は基調講演「Web:飛躍の原動力」に続いてデジタルコンテンツの制作・管理,クロスメディア,新ビジネスに関する講演がなされます。また2日目,3日目はクロスメディア,グラフィックス,MIS・JDFの3トラックに分かれてコンファレンスを開催します。

これらのテーマは全てIT技術を基盤にしており,全体像を正確に理解するには基礎技術からの知識が必要であります。それだけにこの分野は若い人がリーダーに適しており,中高年者は支援の役に回るケースが多くなります。ここでも若手社員と中高年社員の関係を新しい組織を構築する過程でバランスをとり,個々人の活性化を呼び起こさなければなりません。

企業の経営トップとしては新しい分野を若い人にリーダーを任せるとしても丸投げすることは許されません。戦略の策定や実施内容の立案に際して,最終の決断は経営トップがすべきであり,そこに生じるリスクは当然経営トップが負うことになります。

経営トップがリスクを恐れて新しいビジネスモデルへの挑戦を避ければ企業の発展は望めません。旧来からのビジネスを安定させながら新しいことへ挑戦するという新旧両睨みの経営が大切であると思われます。万が一経営トップの判断が誤ったとしても,旧来からのビジネスが安定していれば,早め早めの対応をすれば再度の挑戦も可能となり,最後は成功に導くことが出来るでしょう。

経営トップの判断が誤ったときの姿勢に関して中国古典の論語に参考になることが記されています。

子貢曰く,君子の過(あやまち)や日月の食の如し。過つや人皆之(これ)を見る。更(あらたむる)や人皆之を仰ぐ。

子貢は言う,君子にも過失が無いわけではない。しかし,その過ちは小人と違って隠し立てをしないから,衆人皆がこれを見て,あの君子にもこのような過ちがあるかと驚くことはちょうど日蝕や月蝕を見て驚き怪しむようなものである。しかし,君子は過ちに気がつくと直ぐに改めるものだから,それを見て,人々はさすがに君子だと仰ぎ見て感服することは,ちょうど蝕が終わった後の日月が再び円やかにして,その光輝が前にも倍するのを仰ぎ見る如くである。

日本社会の変革期にあたり,印刷企業の経営トップがリスクを恐れず,情報を共有することで組織一体となって新しいビジネスモデルへ挑戦することを期待するところであります。

2005/01/03 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会