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HP社新工場稼働〜液体現像方式電子写真記録装置の動向〜

HPインディゴ社はシンガポールに液体トナー製造の新工場を建設し,この度稼働を開始した。本稿では新工場稼働に当たって行われた講演を中心に報告し,ドライトナーに対する液体現像方式の特徴について再確認したい。

デジタルプリント技術の現状

デジタルプリントを実現する方式としては各種ある。日本国内市場では現在,ドライトナーを用いた乾式電子写真方式が主流である。しかしデジタルプレス分野に目を向けると,液体現像方式の電子写真技術が主流であり,世界的に市場が拡大している。特に今後は中国市場の成長に対する期待が大きい。
HPインディゴ社は今までイスラエルに工場・開発拠点をもっていたが,需要拡大に対応するために新たにシンガポールにトナー工場を設けた。今後は製造工場のみでなく開発部隊も設ける方向であり,アジア戦略の中核がシンガポールに集結することになる。現在,液体現像方式の製品はHPインディゴ社が供給している。日本を含む数社で開発がなされていることもあり,ここでは液体現像方式の電子写真技術の可能性について報告を行う。

液体現像方式の可能性

液体現像方式の電子写真技術の最大の特徴は,使用される@トナーの粒径が細かい点にある。通常のドラートナーの粒径が5〜8ミクロン程度であるのに対し,液体現像では1〜2ミクロンと約5分の1も細かい。従って,記録時の解像力が高いことになる。また,粒径が細かいことにより,紙繊維の凹凸を保存しながら忠実に記録できる。またドライトナーと異なり熱による定着プロセスがなく,A定着時に溶融させる必要がない。そのために熱による水分減少による紙収縮の影響が少ない。また紙以外の媒体に対しても容易に転写・定着が可能となる。以上,高い解像力の記録,紙以外への記録という点が液体現像方式の大きな特徴であり,この点から商業印刷分野のみではなく,産業用印刷分野での活用も次第に進んでいる。
印刷業界の観点では,いかにオフセット印刷に近い画質がデジタルで実現できるかという点にに大きな関心があろう。
紙の凹凸の程度と仕上がりの光沢の関係を示したものでは,トナーの粒径が細かいこと,また乾式電子写真と異なり定着プロセスでトナー表面を溶融しないことから,液体現像方式では紙の凹凸に忠実に記録ができている。このためにオフセット印刷とほぼ同じ光沢性を実現できている。表面が粗い紙には印刷後も表面の凹凸が保たれており紙の風合いが生かされる。

HPインディゴ社の動向

インディゴ社はもともとイスラエルに本拠を置き,液体現像方式の製品とトナーなどの資材開発を行って来た。当初より高画質で高速の製品を展開し,液体現像の特徴を生かし,商業印刷のみならず,軟包装印刷など,産業用途にも製品を展開している。数年前にHP社がインディゴ社を買収し,HPインディゴ社として再スタートを行っているが,市場に対する基本的なアプローチやメッセージは変わっていない。むしろ自社の技術により自信を深めているように見受けられる。今回,新トナー工場をイスラエルのほかにシンガポールに建設したのもその自信の表れであろう。

液体トナー製造工程

さて,次に液体現像のカギとなるトナーの製造工程について簡単に解説する。トナーは色別に,以下の工程で製造される。

・第1ステップ
顔料,プラスチック,オイルをミックスし,ペーストを作成。色を再現する顔料を樹脂でカプセル化するのである。均一に顔料を分散することがこの工程で重要である。ペレット状のプラスチックと,低粘度のオイルが使用されている。

・第2ステップ
ペーストをステンレスボールで攪拌(かくはん)し,ボールミルに掛ける。この工程でインク粒子を1〜2ミクロンサイズに微細化。微細化した後にステンレス金属片などの不純物を除去する。また,この工程で印刷機内で帯電しやすいような処理も実施される。

・第3ステップ
検査工程である。粒径が所望の範囲に入っているか,濃度は十分かなどの約30項目について検査を実施。

・第4ステップ
パッケージに充てんし出荷。インクペーストは高粘度のため,パッケージには圧縮空気で圧力を掛けながら充てん。

乾式トナーとこの工程を比較してみる。乾式トナーでは第1工程は,熱で樹脂成分を溶融し,混連する工程が相当する。
使用する顔料などを均一分散するために熱と圧力を設定している。また第2工程は,混連物を粉砕し分級する工程が相当する。
ジェットミルなどを使用して機械的に粉砕するのである。この場合にはトナーの形状は不均一となり,粒度分布が広くなるため,所望の範囲外のトナーを除くための分級工程が必須である。一方,粉体の場合には粉砕時に静電気が発生しやすいために粉塵(ふんじん)爆発への注意や,粉形が小さくなるに従い皮膚から吸収されやすくなるので健康への留意が必要となる。また,粉砕時の粒径ばらつきが大きく収率向上には限界が出てしまう。このような事情から,最近は重合法を用いて,反応条件を制御して粒径や形状が均一なトナーを製造する方法が主流となりつつある。
さて新設のシンガポール工場は,既存の製品用のカラー(Y,M,C,B)トナー製造を行っている。現材市場で稼働中の機械に対するトナーの供給が主である。従って,ほかの特色などの生産はいまだ実施していない。特色はイスラエルの工場で生産している。ただし,HP社はシンガポールに多額の投資を今後してゆく予定であり,市場拡大とともに工場自体の生産品目や,世界戦略の中で今後その役割は大きく変わってゆくと思われる。

(『プリンターズサークル』1月号より)

2005/01/05 00:00:00


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