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重要性を増したカラーマネジメントシステム

印刷業界の課題とされている色再現を,効率良く運用する手段として,カラーマネジメントシステムがある。これは,スキャナやデジタルカメラなどの入力デバイス,モニタやプリンタなどの出力デバイス,そして最終印刷に至るまでの工程において色再現を管理するためのトータル技術であり,印刷工程の標準化が不可欠である。

RGBデータによるワークフローの必然性

 一眼レフタイプのデジタルカメラも普及し,印刷原稿としてRGBデータが数多く入稿されるようになり,印刷会社を取り巻く環境も大きく変わってきた。チラシなどの商業印刷分野においても,この数年の間にRGBデータの入稿が急増し,ある印刷会社では,入稿の8割を占めるまでになっている。高級美術印刷や一部のポスターなど特別な印刷物を除けば,今後ほとんどがデジタルカメラを使用したデータ入稿に置き替わるであろう。

 また,RGBデータは,プリンタやWebなど多様な用途に使用できるものである。このようなRGBには基準が必要とされ,その色を決めるための入れ物,すなわち色空間(カラースペース)が,sRGB,AdobeRGBという名前で呼ばれているものである。
 sRGBは,IEC(国際電気標準会議,International Electrotechnical Commission)が策定した色空間の国際標準規格である。CRTディスプレイの色表現をベースに策定されており,ディスプレイやプリンタなど機器の違いに左右されない,意図したとおりの色を再現するための表現形式を定めている。

 AdobeRGBは,アドビシステムズが提唱したカラースペースである。一般的なモニタなどで採用されているsRGBに比べて,より広い色域をもっており,DTPワークフローでは一般的なカラースペースとして利用されている。この色空間内にはsRGBよりも広い範囲の色が含まれており,写真を印刷したりWebサイトへ展開するのに適した色空間である。
 この比較的印刷に向いているAdobeRGB標準色空間をベースに使用することにより,カメラマンや得意先,印刷会社など複数の環境の中で,モニタ上で印刷色をシミュレーションするなど色の共有ができるようになる。

 一方,CMYKのカラースペースを見ると,AdobeRGBやsRGBよりも狭い部分が多い。
 RGBデータをCMYKの色空間に変換する際は,カラースペースの違いから,全体の圧縮処理などを中心とした,それぞれの色の情報を限られた範囲内に対応付け変換するマッピングと呼ばれる処理が行われる。
 従って,RGBやCMYKなどカラースペースの異なる状況で色変換やデータ運用をする場合は,基本的に,使用する時に色空間が狭くなるように,広いほうのRGBデータを保存するという考え方がある。やはり色の情報として,幅広くもっているものを残し,それを利用していくことは,情報が狭くなってしまったものから再運用するよりはよいということである。

 また,RGBデータのCMYK変換は,画像補正処理の後に行うことが望ましい。そしてCMYKに変換したらできるだけデータを修正しないことで画像品質を保つことができる。つまりデジタル画像データはRGBデータの段階で,クリエイティブ処理済みの確定した画像データにしておき,印刷条件に最適化した変換処理などを印刷直前の段階で行うことが望ましい。
 印刷条件が特定されていない画像のデジタル化は,RGBデータとして取り込み運用することで加工性や汎用性が高くなる。従って,デジタル画像の運用は,RGBベースで構築しないと汎用性に欠けたものになり,用途も限定されることになる。

 近年,印刷会社で扱われる画像データは,印刷物製作だけではなく,Webへの掲載やデータ配信などマルチユース対応など幅広い用途に利用されるようになった。このように,従来CMYKデータを中心に行っていた印刷会社のプリプレス工程は,RGBデータとの混在作業が主流になった。
 デジタルカメラによるRGBデータが,上流工程である得意先から入稿することや,RGBカラースペースがCMYKのカラースペースより広く,ハンドリングしやすいことなどから,印刷会社におけるRGBワークフローが重要になっている。

印刷工程の数値管理と標準化

 印刷が抱える色の問題は,人の感覚に依存する部分が多く,表現があいまいであったり,印刷の色再現を経験と勘に頼っていることなど解決しなければならない課題が数多くある。
 従来,印刷の色管理は印刷会社ごとに違っていることが当たり前であった。さらに,一つの印刷会社の中でも機械や担当者ごと,または日・時によって違いがあり不安定な要素になっていた。また,企業によっては,品質重視であれば手間やコストを惜しまない傾向も少なくなかった。

 これは,印刷が工業製品であるという考え方から見ると反しており,最高品質の追求だけでは時代に取り残される可能性がある。常に安定した品質の印刷物をクライアントに提供できる環境を構築しなければならない時代がきたのである。
 例えば,同じ印刷会社でも再版による印刷をした際に,仕上りが違うということは避けなければならない。それらの改善のため数値管理が大前提になる。
 特にCTPを導入した印刷会社では,数値管理を導入して印刷機の安定化や標準化を行い,各プルーファーとの色のマッチングや,営業,プリプレス,印刷までのすべての工程における意識改革も同時に行おうとする取り組みも始まっている。

 印刷の標準化への取り組みに期待するものとしては,見た目による印刷から脱却して,数値管理によって印刷状態を把握し,印刷の刷り上がり状態を均一化することである。そのためにはデータ収集と分析,機械の保守とメンテナンスルールから整備することが求められている。
 また,あらかじめどのような印刷物をシミュレーションするのか基準を決めておく必要もある。その色再現をICCプロファイルというデータで用意する。

 ICCプロファイルとは,ICC(International Color Consortium)により策定された,あるデバイスがどのようにカラーを再現するか,そのカラースペースや特性について記述したファイルであり,実体は変換テーブルである。RGBとCMYK の間で色の設定を変換する場合や,ディスプレイやプリンタの色を調整する場合に参照することで,より正確な色の再現性を得ることができる。
 印刷色のICCプロファイルは,印刷会社が自社の印刷色再現を標準化した後に用意して制作側に供給するのが一つの理想である。
 ただし,近年のオープン化したワークフローでは,個別の印刷会社の色ではなく,広範囲のメンバーが共有できる印刷色再現の基準も求められている。それが,アメリカではSWOP,ヨーロッパでEuroPressという標準色が定められ,プロファイルが用意されている。日本では,国内の平均的な印刷条件を基準にしたJapan Colorなどの基準色が利用されている。

 標準化の意義は,最高品質の追求ではなく,品質の安定やコスト管理などを中心とした信頼性にもつながるものである。最近は,広告主に至るまで標準化に対する意識の変化が顕著に表れ始めている。
 雑誌広告基準カラー(JMPAカラー)は,社団法人日本雑誌協会(JMPA)によって定められた雑誌広告におけるオフセット輪転機をターゲットにした色の基準である。自動車メーカーを始め複数の大手広告主に採用され,雑誌広告業界の基準色として浸透している。この基準を色の確認が必要なさまざまプレイヤー,すなわち広告主,広告会社,制作プロダクション,製版会社,出版社,印刷会社間で共有することにより,色校正ワークフローの飛躍的な改善ができる。

 この運用により広告主は,印刷会社からの校正刷りを見なくても,上流工程で最終印刷品質の確認ができる。こうして校正刷りの必要がない一方通行のワークフローになる。
 また,新聞用ジャパンカラー(JCN:Japan Color For Newspaper)は,新聞印刷における色標準である。新聞用印刷における標準的な用紙とインキを使い,標準的な印刷条件で印刷した場合の色の基準を明度,色相,彩度を示すL*a*b*値で表現している。新聞広告用カラー原稿のデジタル送稿や各新聞のカラー広告の色調にバラつきが発生しないようにするための基準である。
 このように,雑誌広告や新聞広告関連では,色についての標準化は実現段階ではなく普及段階まできている。
印刷工程の数値管理による標準化は,常に安定した印刷物を生産するためのベースになるもので,今後の印刷会社における生命線になる。

カラーマネジメントの重要性

 画像データをAdobeRGBによって運用,管理するとどのような効果があるのだろうか。例えば,モニタをAdobeRGB対応に統一することで,どの場所のモニタでも同じ色域で見るベースができる。これは,カメラマン,デザイナー,得意先,印刷会社など複数のモニタの条件を合わせることで,sRGBではできなかった印刷における色再現を,より広い色域で実現することができる。
 従来,AdobeRGBは印刷再現ができても,それを確認できるモニタが存在しなかった。従って,モニタに再現できない色は調整のしようがないのでsRGBで十分という意見も多く聞かれた。

 そのような中,ナナオからAdobeRGBに対応したキャリブレーション可能な液晶モニタも発売された。この製品は,従来の液晶モニタが抱えていた階調表現,個体差,色再現域という問題を改善している。また,AdobeRGBの色域に対応することで,印刷,広告業界で基準とされているJAPAN COLORやJMPAカラーなどの色域をカバーし,モニタプルーフによる効率化などに活用することも可能である。
 今後,このようなAdobeRGB対応のモニタの普及によって,より印刷の色に近い色域表示が可能になり,印刷業界の環境を含めたワークフローにも大きな変化をもたらすであろう。

 また,Japan Color,JMPAカラーなどの標準条件の採用,および印刷会社独自の条件などを設定し数値管理をした場合,どのような効果があるのだろうか。
 例えば,AdobeRGBをベースにJapan Colorや独自条件のICCプロファイル変換をすることにより,印刷結果の予測ができるようになり,安定した品質管理が可能になる。

 モニタをAdobeRGBに合わせ,Japan Colorをシミュレーションして表示すれば,カメラマン,デザイナー,得意先,印刷会社でも印刷結果を共有することができる。
 これらの実現のためにモニタプロファイルは重要である。モニタの発色は固体差や経年変化もある。ガンマ値を調整しても,人間の目は調整したカラーに慣れてしまうため,ガンマ値のカーブだけでは正確なモニタ調整はできない。
 また,モニタのカラー再現をより正確にするためには,測色計を利用してモニタ上のカラーや濃度を測定して正したモニタプロファイルの作成が不可欠である。

今後の課題

 さまざまな基準をベースに活用して,色再現を管理しながらイメージを伝達するには,数値管理による標準化された環境が必要である。その重要性が明確になった現在,カラーマネジメントシステムの構築と同時に,関連するデバイスの保守,管理,安定も重要になる。これらの実現には,プリプレスに携わる技術者にとってスキルを生かす絶好の場面であり,クオリティの向上に直結する。
 今後,印刷会社は印刷物を工業製品として考え,標準化に基づいた技術を活用して印刷物を常に安定的に生産し,コスト,納期,クオリティを管理することが大きな課題であり,その成果がセールスポイントにつながるであろう。

2005/01/30 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会