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クロスメディア人材:多様なメディアの理解を

IMJ チーフディレクター 山本 聰氏に聞く


Web制作の株式会社アイ・エム・ジェイ(以下、IMJ)はWebインテグレーション事業、モバイル事業、エンタテインメント事業の3事業を展開し、数々の大手サイト構築の実績を持つ。今回は、慶応義塾大学湘南藤沢キャンパスのサイトを手掛けたIMJのEX++事業本部チーフディレクターの山本聰氏に、クロスメディアや人材について伺った。

コピーライターからWebディレクターへ

――IMJに入るまではどのようなお仕事をされていたのですか。

コピーライターでした。コピーライターというとコピーだけを書いているイメージがあるかもしれませんが、実際には、商品をどうすれば知ってもらえるか、どうすれば売れるか、という販売促進を含めた企画全体を考えることが中心でした。キャッチコピーが先にありきではなく、全体的なプロモーションのひとつとして、キャッチコピーやビジュアル表現を考えていました。

――Webには販売促進の用途としても利用されていますが。

そうですね。そういうこともあり、制作会社でコピーライターをやっていた1990年代後半から、Webの仕事も入ってくるようになり、いくつか手掛けてきました。その後、出版社に移り、編集や、コピーライターの仕事もしていたのですが、Web事業の企画提案が通り、その出版社のWeb事業の立ち上げに携わりました。そのとき感じたWebの可能性をさらに探求したいと、2002年にIMJに入社し、Webを中心に仕事をするようになりました。

現在所属するEX++事業本部は、EがEC、XはXMLという意味があります。具体的な事業としては、Eでは受託でECサイトを構築したり、自社内コンテンツとして「コレほっ!」というサイトを立ち上げたりしています。XとしてはXML技術ベースにCMS(コンテンツ管理システム)の開発を進めています。

「コレほっ!」はショップ検索のサイトです。Web上のアフィリエイト登録しているECサイトからクローラーで自動的に商品情報を拾い、その情報を整理してWebサイトに表示させます。ユーザは商品を検索したり、気に入った商品をメモして情報を比較したり、値段が下がったらメールで知らせてもらうといったサービスを利用することができます。最終的にユーザが「コレほっ!」を経由して商品購入に至った場合、アフィリエイトの手数料が入ってくるというビジネスモデルです。

「コレほっ!」は他にもビジネス展開ができる可能性があります。例えば、株情報など他の分野の情報でもクローラーで自動的に情報を収集し、整理すれば、簡単に株情報サイトが構築できるわけです。Web上に溢れる膨大な情報を新しい技術やアイディアによって、エンドユーザが本当にほしい情報に加工していくことこそ、Webならではのビジネスといえるでしょう。

Webと他メディアとのクロスメディア

――クロスメディアについてはどのような提案をされているのですか。

Webを中心にすると各メディア間の連携が非常にうまくいくことがあります。Webが登場するまでは、テレビや新聞などマスメディアの間での情報の結びつきはありましたが、本当の意味でクロスメディアにはなっていませんでした。

Webはそれ自体を介してさまざまなメディアをクロスして利用することができます。テレビや雑誌などの特色を活かし、Webという増幅装置を介することによってそれぞれのメディアの特性を活かしつつ非常に大きな効果を生むことができることでしょう。今まで他のメディアになかったインタラクションという概念を持ち込んで、どのようにしたらより高い効果を得ることができるかを常に心掛けています。

――テレビとWebはどのように組み合わせているのですか。

一方で、Webだけではどうしてもカバーできない領域をテレビなどのメディアと連携することで解決する

必要があります。キャンペーンが立ち上がる時、Webで先に情報をだしたり、逆にテレビで驚くような仕掛けをしたりしてWebに誘導することでより高い効果が得られるように演出することも重要になってきます。

テレビは気づかせるメディアとしては有効ですが、より詳しい情報を伝えるには、新聞や雑誌など詳細情報があるメディアにひきこむ必要があります。新聞や雑誌は購入しないといけませんが、Webはインターネット環境があれば、一連の情報をすぐ知ることができます。

テレビや雑誌など既存のマスメディアは数多くのコンテンツを保有しているので、今後はそれらがネットで活用されるようになるでしょう。例えば、料理のレシピを2万種類持っていれば、メールマガジンで夕食のおかずとして1日1つずつ50年以上紹介することもできます。XMLの技術を使えば、レシピというコンテンツを電子レンジや冷蔵庫などの情報家電に送ることも可能になってくるでしょう。

――情報の管理が重要になってきますね。

IMJでは2005年2月に、自社開発したコンテンツ管理システム(以下、CMS)の「Web Meister(ウェブ マイスター)」を発表しました。Web Meister ver. 1.2は2004年にXML技術をベースに構築した慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスのシステムをベースに作られたものです。Web Meisterは、XMLでデータ構造を持つことにより、ワンソース・マルチデバイスの実現を目指しています。これまで集約できなかった企業の情報がWebに集まってきています。Webがコンテンツを作る中心である必要はないのですが、CMSやXMLなどの技術を利用して他のメディアで作られたものを、ネットの特性を活かして配信していきたいと思います。Web Meisterはまだ情報家電まで想定しているわけではないですが、5〜6年先を見据えたアーキテクチャで開発しています。

膨大な情報を人が整理するのにはすでに限界があります。集めた情報を、決められたところに保存することは、システム側に任せたほうがずっと楽で、そのうえ確実です。会社組織が複雑になり管理が複雑になる場合も、承認や責任の所在をWebのログを使いながら明確にしていくことが可能になります。

――Web Meister はどのように販売していくのですか。

Web Meister ver 1.2は、パッケージを単品で一般の企業に販売するというものではなく、コンテンツを管理していくうえで最も重要になってくる情報設計を、WebインテグレータやWeb制作をしている会社がコンサルティングを行い、それらを経て、カスタマーに導入していくことを想定しています。プロが作った建物の壁の位置やインテリアをカスタマーが模様替えしていくイメージでしょうか。ただし、ver. 1.2には慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス独自の仕様が盛り込まれており、カスタマイズしにくい部分もあるので、プロトタイプ的な製品と位置づけています。今秋発表予定のver. 2.0では、さまざまなニーズにカスタマイズできるように設計して開発しています。すでにver. 2.0についてはグローバル展開している企業への導入が決まっています。

マイスターという名称のとおり、Webの職人として情報の構造管理からさまざまなデバイスに展開できるCMSにしてきたいと思っています。

人材教育について

――採用や人材教育について教えてください。

欲しい人材がなかなか入ってこないという問題があります。入ってきても、教えることの難しさを感じます。

――欲しい人材が入ってこないというのは、経験が足りないなどが原因なのですか?

実績は経験を積めばいいのであまり問題ではありません。それよりも、自分の方向性をきちんと持っている人が少ないということが大きな要因です。自分は将来どうなりたいか、というビジョンがなく、漠然と「インターネットで何かがしたい」というレベルで応募してくる人が多いように感じます。

Webに関する技術は進化が速く、私自身も紙媒体の時以上に勉強しなければいけないことが多いと感じています。ただ漠然と仕事をしているだけでは新しい技術を身につけることは難しいです。自分から積極的に情報を探しにいき、学ぶくらいでないと新しい技術についていけません。

――将来像を描いていないと、新技術に対する勉強の意欲がわかない、あるいは維持できないということでしょうか。持っている素養や技術というよりも、目的を持っていないことのほうが深刻な問題ですか。

もちろん、素養の部分も大切です。何か得意分野を持っていれば、それを活かして提案したり企画をたてたりすることができるでしょう。

――得意分野とは技術的な部分のことですか、あるいは特定の業界に関する知識のことですか。

私の所属する部署は、基本的にはXMLやデータベースなどIT関連の知識が必要です。しかし、それだけではなく、クリエイティブな部分も重要です。コンテンツを使っていいサービスを提供するためには「考える」ということが必要です。IT関連の知識は後から勉強しても蓄積することができますが、そのもとになる「考えられる素養」がもっとも重要です。

――どのような社員教育を実施されているのですか。

経験を積んでもらうのが一番だと考えています。失敗の経験から学ぶことが多いと思います。

――人材の採用時に資格を判断材料にする場合はありますか。

資格はあまり重視していません。ただ、経験も無いし、資格も無いというように、ひっかかるところが何もないと、面接までいくことは難しいでしょう。資格については、ただ持っているというのではなく、その資格を持つことで自分が何をしていきたいかが明確化されているといいですね。

極端な例ですが、医師免許を持っていてWebの世界に入りたいという人がいたとします。採用する側としては、やはり、「医者になったほうがいいのではないですか?」聞きますよね。

しかし、医者になるために学んだことを活かしてWebの世界を変えたい、ということであれば、その資格はWebの世界で活かせるかもしれません。

――現在、スタッフに持っていて欲しい知識は何ですか。

Webだけ、テレビだけというのではなく多様なメディアについての幅広い知識と、個々のメディアの特性も知っておいてほしいと思います。

XMLの知識を持っているかどうかは、入社段階ではあまり重視していません。システム化する考え方を持っていればよいのです。例えば、ちょっと「面倒くさがり」のほうがいいかもしれませんね。ある作業を省きたい場合、それを他の人に頼むのではなく、効率的にシステム化することで解決しようと考える、ということが大切です。

(取材 社団法人日本印刷技術協会 通信&メディア研究会

Web関連セミナー: Web再構築やコンテンツ活用の提案要素

2005/07/06 00:00:00


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